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想い出模様

想い出模様


 産まれて初めて作詞して、初めて作曲した。そしてそれがこの歳までの全曲であった「想い出模様」はレコードとカセットテープと8トラックになった。8トラックとは8の字に巻いてある業務用のカセットテープだった。当時はナウいもので、午前様時代に通ったスナックに配って歩いた。と言っても1日1軒しか行けない。行けば飲まされて、歌って帰るので、高く付いた。

どの店も私を先生と呼び、歌う時は他の客に歌手と紹介した。

「歌手ではない、作詞、作曲をしただけだ」と弁解をしても、店の人は面倒くさくて区別していられないようだ。仕方がない。私が歌手になるのだ。私は自分に<私はプロ歌手なのだ>と言い聞かせて歌った。

午前様時代に行った事の有る全ての店に配り終えた頃には、歌手と紹介されても恥ずかしくなくなっていた。最初の店から再訪問していけば新たな展開になったと思うが、本業は火の車、こんな事をしている場合ではない。私が行かないと「ゆうせん」にリクエストしてくれることもない。「ゆうせん」のリクエストは1年間で目立つ実績がなければ、お蔵入りになってしまうと聞かされているが諦めよう。歌手は会社の営業部長で歩合制の給料だった。彼も金に困っており、遊んでいる余裕はなかった。


 当時、本業はマイホームの建売をしていた。社員達は販売中の家を見に来た人、契約をした人、営業訪問をした家等に、「社長が作詞・作曲して営業部長が歌っている歌です」と紹介しながらカセットテープを配りまくった。「ゆうせん」へのリクエストには消極的な社員達もこれには積極的だった。例外なく話題作りになったからだ。


 効果はいつでも意外な所に現れるものだ。

 どうしても買いたい土地があった。その土地の上には家が建っていて、人が住んでいた。取引先の所有土地の隣地だった。後で知った事だが、反対側からも買いに来ていたそうだが、住人は相手にしていなかった。その事は知らず、私も売ってほしいと頼みに行ったが相手にされなかった。私はいつもの様にカセットテープを渡して帰った。2度目に行った時、意外な言葉が出た。

「俺が歌ってやろうか、もっと上手く歌えるぞ」

仲間が増えた。早速レコーディングの打ち合わせをした。

不動産の売買の話は簡単に成立した。彼の移転先では売ったものと同規模の不動産が2つ買える位の高い値段で買って彼を喜ばした。 

取引先の土地と一緒に一団の土地として良い値で売れたので私も儲かった。

 Sさんは語った。

「相手にする気等全く無かったが、歌が好きだったのでカセットテープを掛けてみた。全く意外な曲が流れ、何回も聴きなおした。絶対自分の持ち歌にしようと思った」

 成功とは成功するまで続ける事である。

「なあ~んや、やっと帳尻が合った」と私は思った。

事件から始まり、訳の分からない世界に入りこみ、闇雲に突き進んで来た結果、やっと芽が出たのである。

Sさんも自分の人生にドラマを持っており、この後益々ドラマチックに展開することになるのだったがそれは別の話です。


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