メロドラマ
メロドラマ
社会に出ると、中学生の頃には想像も付かない経験を沢山しました。結婚して共稼ぎをしていましたが、妻が病気で会社を辞める事になった。その同時期に私は会社と喧嘩して辞める事になったり、やっと落ち着いた不動産屋で1年を待たず、社長と喧嘩して独立してしまったりです。立ち上げた不動産屋で事件に巻き込まれ、挙句の果てに妻がノイローゼになり、別居してしまったりもしました。自叙伝をかくなら、ここまでで十分1冊となるのですが、読者が飽きてしまうので、少しムードを変えてみます。
別居中の頃、私はあるラウンジによく足を運びました。大きなラウンジで20ボックスほども有り、端からもう一方の端を見ると霞んで見えるような広さです。といっても女の子が大勢いる訳でなく、ゆったりとゆとりを楽しむような場所でした。そこのママの声が好きでした。私のDNAが思うのでしょう。その声は私にとって天国から聞こえるような音色でした。少し訛りのある声が何を話しているかは、どうでも良かったのです。私はママの声が聞きたくて、何時もママを前にして飲んでいました。
ところが、ある頃からママは私の居るボックスには来なくなりました。そこで私はママが来ない日は金を払わずに帰りました。ママはずっと来ないのでどんどん付けが溜まって行きました。そんなある夜、いつもの様に金を払わずに店を出た時、ママが追いかけて来て「あなた何様のつもり!!」と言って、私に平手打ちをしました。強く当たったと思うのですが、全く痛くありませんでした。冷たいけれど気持ちの良い感覚でした。すると後の方から「もう、それで良い」と言う男の声がしました。
そのまま店に行かなければ、付けも帳消しで話は終わるのですが、数ヵ月後に又店に行きました。すると、中にはママ1人だけが居て、他の女の子も客も居ません。広い店はガランとして怖い感じでした。以前は何時行っても適度に客が入っていたのに、変わり果てた状態でした。私はママを独り占めして楽しい一時を過ごしました。
「私をどうしたいの」
ママは訊きました。私は今、<大切な話をしている>と思いましたが、「考えさせてほしい」と答えました。
一週間後、答えも持たず、話の続きをしようと思って行った時には、店はもう閉まっていました。
振り返れば、二人の客がママを取り合い、ママは部下を連れず1人で行く私より、部下を連れて行く客を優先したのでしょう。ところが、ママにガラの悪い虫が付いたと思った他の客が逃げてしまったのだろう。甘酸っぱく、ほろ苦い「なあ~んや」でした。




