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元ネタ「蛇と力競べをした相撲人の話」より、男は【声に出す】を覚えた!

海の恒世という右の相撲取りさんのお話しでした、えぇ、「だった」です、こうも内容が変わっていくとは・・・脳みそと手が別物の生き物のようでしたよ。

男は残業になんとかキリとつけ夜道を歩いていた、朝早く出社し取り掛かっても終わらない資料作りと問合せ。

男は人が良すぎるのと強く意見が言えなかった、そのせいか上司に、同僚に、あろうことか後輩にまで押し付けられるのである。

なぜ自分が残業して終電間近になっているのかよく考えて欲しいものだったが男は疲れてもう何も考えたくなかった。


最近仕事以外の人と話したのはいつが最後だろう?妻も黙って弁当を差し出すのみで寝室も別である、帰りが遅い為起こさるのを嫌がり分けられてしまったのだ。

最初こそ妻は仕事の見直しや上司への意見を!と言ってくれていたが男があまりにも行動に起こさず「でも、だって、仕方ないんだ。」と苦笑するのみなのでいつの間にか何も言わなくなってしまった。


それでもお弁当のおかずを見ていると疲れ人向けや元気のない人向けのおかずが入っており妻が黙っていても心配してくれているのもわかった。


「いい加減なんとかしないと、会社の人以外の声って自販機と駅のアナウンスしか記憶にないな。」


独り言ちては見るがどう動けばいいのかわからない、いや、訴えるべきところに訴えればいいのだと頭では分かっているがその後の報復が怖く自分から言い出せないでいるのだ。

男はいつか誰か気が付いてなんとかなんないだろうか?そう思うのが常であった。


だが動かなければどうにもならない事もあるのである、何も言わない男に周りは調子づいており何を言ってもやってもいいと言う空気が出来上がっていた、何せ馬鹿にしようが仕事を押し付けようが男は困ったなぁ、と言うだけで何もしてこない、ついには男を馬鹿にするのが当たり前になり馬鹿にしないと上司に睨まれるようになった。

つまり上司は自分がやってはいけないことをやっているのが分かっているのである、だが自分だけじゃないとすれば罪が薄れると思ったのだろう、逆だと思うが。


男はフラフラと薄暗い道を駅へと向かった、ふっと顔を上げると一本隣の道は大通りで明るく賑やかである、いつもなら人のいない方へ歩く男もなぜか今日はその眩しさに曳かれて大通りへと足を向けた。


明るい外套、お店の看板、酔っ払いの楽しそうな声や怒声、客引きもニコニコと笑顔で看板を持っている。

あぁ、確か客引きはダメなんだっけ、変わったなぁ、と思うが変わったのはかなり前である、それだけ人混みを避けて会社と家の往復しかしていなかったのである。


明るいなぁ、楽しそうだなぁ、と思いながら男はキョロキョロと見ながら駅へと向かった、そんな男がカモにでも見えたのであろう、香水の匂いをさせた少々お化粧の濃い女性が男に声を掛けた。


「お兄さん飲んでいかない?疲れた顔をしてるよ?楽しくさせてあげるよ!」


久しぶりに仕事以外の人の声を聴いて男はびびりあがった、なんで話しかけられたの?とパニックになったのである。


「いえ、結構です、では!」


男は慌ててその場を立ち去ろうとしたが女の手が腕に絡んでくる。


「大丈夫よ~、初来店のお客さんは値引きがあるの!安くできるから飲んでいってよ~。」


違法である、確実に声を出し個人を指定しての客引きである、だが男はそんなことはもう頭からふっとんでおりただひたすらこの香水の匂いから逃れたかった。

自分に対人コミュニケーション力が足りないのはわかっているのだ、綺麗に化粧した女性に腕を掴まれても「助けて!」と言う気持ちしかなかった、だが周りは酔っ払いと飲食店関係者ばかり、お店に来てお金を落としてもらわないと自分たちも金にならないのだ、誰も手も口も出すものはいない。


「本当に大丈夫だってば!ほらこっち!」


女はグイグイと引っ張りお店への階段へと誘い込む、男も必死に腕をひっぱり足を踏ん張るのだがこの女性のどこにこんな力があるのかあるのかとズルズルと引きずられてしまう。


「ほ~ら、美味しいお酒もおつまみもあるよ!」


女も酒が入っているのだろう、息が酒臭い。

男は必死に踏ん張る、ふっと妻の薄い化粧で笑った顔が浮かんだ。


「結構です!家で妻が待っているんです!!!」


今まで出した事の無いような声が出た、男も自分で驚いて肩で息をしている。


「あら~、奥さんが待ってるんじゃ悪いわね~、もうすぐ終電なのにごめ~ん、気が向いたら来てね!待ってるから!」


なんともあっさり手を放してくれたのである、ちょっと大きな声を出しただけで!


「あ、すみません。」


と別に悪くもないのについ一礼して走り出した、習慣である。


「そうか、俺は声が出せたのか!そうだったのか!」


男は興奮しブツブツと電車の中で独り言を言った、終電1本手前でもそこそこ人が乗っていたのだが男の傍にいた人たちは自然と遠巻きになっていった。


「あれ?今日はすいてるな、ラッキー座っちゃおう。」


興奮冷めやらず周りが見えてないのかただ珍しく座れるな、としか思わなかったようである、自分がラッキーだと思えばそれはラッキーなのである、周りに居る人たちの視線はいつのまにか生ぬるくなっていたが男はまったく気が付かなかった。

いつも同じような電車にのっていれば自然と周りの見たことある人になる、乗客たちは自分もだが男の事もいつも疲れた顔をしたくらい男と認識しておりいつもと違う男に気味悪いながらも良い事があったのかな?と考えていたのである。


家に帰り着くと妻はもう寝ていた、静かにお風呂に入り布団に入った、興奮状態も収まりすっと寝入ることが出来た、そのおかげか朝もスッキリ起きることが出来、妻からお弁当を差し出された時に声を出すことができた。


「いつも心配かけてごめん、ちゃんと人の仕事は断るようにするよ、自分が黙ってれば平和だからって思ってた、でもそれじゃいけないとも思ってた、ちゃんと声に出すようにすることにした。」


妻は少し目を見開き驚いたような顔になった。


「そう、でも言えなくてもあなたを責めないよ、頑張ってね。」


男は妻の優しに涙が出そうだった、だが朝から泣いてるわけにはいかない、いってきます!といつもよりかは少し大きな声で家を出た。


その日から男は自分の仕事を優先しまず後輩、次に同期、最終的には上司からの押し付けを断った、上司からの仕事を断った時には、


「君は分かってないね、こういう積み重ねが昇進へと繋がるんだよね、本当にわかってないな~~~、そんなんじゃいらない社員№1になっちゃうよ?」


とニヤニヤ言ってきた、でも変わると決めた、家に帰って家族と過ごしたいと思っていた。


「わかりました、では部長や専務に確認してみますね、課長の仕事しないと首にされるのか?と、少々お待ちください。」


部屋を出ようとしたら慌てて部屋中の人が男をとめた、上司の事がバレれば自分の事もバレるかもしれない、危機感が募ったのだ。


「待ってください、お願いですから!」

「やめてよ!私の事までばれたらどう責任とるつもりなの!?」

「すまなかった、今まで悪かった、謝るから部長に言うのは止めてくれ!」


様々である、謝罪とは異なる物もあったが言われたら不味い事をしていた自覚はあるのだな、と男は思った。


「今回は止めておきます、次回このような事があったらお伺いをさせていただきます、あ、後今までの残業代もお願いしますね。」


いつの間にか言葉が出てきていた、上司は苦虫でも噛み締めたかの様な顔になった。


「それは出来ない、そんなことしたら私が君の残業代をカットしたのが上にばれてしまう、すまないがここは引いてくれないか。」


男は言ってから自分が残業していた証拠が無いことに気が付き引くことにした。


「わかりました、では今日から残業代は付けて下さい、もしカットされていたらその時は然るべきところへ訴えさせていただきます。」


言った、言えたぞ!男は心の中で自分を褒めた、だがただ言うだけではダメだな、と反省もした。


そんな事もありつつ毎日が過ぎていった、ある日課長は会議室へと呼ばれていった、中には社長、副社長、人事部長と知らない男性が二人いた。


「〇〇課長、いきなり悪かったね、実は労基の方が未払いの残業代があるのでは、と調べにこられてね、心当たりはないかな?」


そう告げる副社長の目が笑っていない、課長は震えあがったと共に怒りを感じた「あの野郎!訴えやがったな!なんでもいいからクビにしてやる!!」

そう心に誓ったものの言い訳は通じずすでに調べ上げられていたので相当のお叱りを受け降格処分となり関連会社への出向を命じられてしまった。

仕返しどころではなかったようだ。


課長の移動を知った男は不思議な気持ちだった、自分は証拠を持ってなかったからどこにも訴えていなかったのである。

同じ部署の人間が怯えたように声を掛けてきた。


「なぁ、お前が労基に訴えたって本当か?まさか俺たちの事も・・・。」


叩けばホコリが出ることが確実な人たちは戦々恐々だった。


「ううん、訴えてないよ、自分は残業してた証拠をとってなかったからどこにも何も言えなかったんだ。」


馬鹿正直に答えだのだったが周りの人間は鵜呑みにしていいのか思案顔になった、訴えるような男でもなかったはず、だから仕事を押し付けていた、でもこの男は最近変わった、もしかして・・・、答えは誰にも出すことが出来なかった。


その後①

女性「うわ~~、途中で酔いが醒めてきて、やっばこれ客引きじゃん!条例違反じゃん!って気が付いて焦ったよ~、あの人が断ってくれてよかった!」

男性「頼むから俺の店潰さないでね?」


その後②

妻「残業代一杯はいったわねぇ!実は労基に垂れ込んだの私だったのよ、毎日帰りが遅いから浮気かと思って調べたらせっせと残業してある意味哀しい結果になったらそれを証拠に労基に一筆書いて出したんだ、結果オーライよね!」

男「……うわ。」

妻「もし浮気だったら再起不能にしてやろうと思ってたけど信じていた貴方の通りだったから良かったわ~。」

男「全然信じてない・・・・・。」


その後③

元課長「くそ!あいつのせいでこんな雑魚共の職場に(怒)。」

社員「(雑魚で悪かったな!)〇〇さんこの資料作っておいてください、スライドに出すからわかりやすくね。」

元課長「え?スライドに出すってどうすれば?ポインター?え?何をポイントするんですか!?」

社員「マジか!」

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