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【お試し版】ひきこもりはいらないと追放された魔動技師、隣国の王子に求婚され技術局局長になる ~母国の軍事力は私のおかげで保たれていました~

作者: 真黒三太

 生まれる前から一緒だった双子の姉と共用している部屋……。

 それが、私にとって世界の全てだった。


 そして、その部屋へ散らばされた無数の羊皮紙……。

 それらは、私が唯一この世に生み出したものだ。


 双子の姉――生まれてくる時、陽の要素全てを吸収したような彼女は、ある時、こう言ったものだ。


 ――イルマが毎日毎日、こんなに打ち込んでるものなんだもの。


 ――ちゃんと、世間に出さないともったいないよ!


 ――大丈夫、イルマは世界一の天才なんだから!


 果たして、何を根拠にそんなことを断じられるのか……。

 ともかく、姉は――アルマはそう言うと、数枚の羊皮紙を手にし外出したのである。


 果たして、彼女の言葉は――正解だった、らしい。

 いつもより大分遅くに帰宅した彼女は、興奮しながらこう言ったのだ。


 ――イルマの設計図、技術局で試作品を作って、正式に検討するって!


 そこからは、あれよ、あれよだった。

 最初、アルマが提出した設計図は、フレイガンと名付けた武装の設計図であったのだが……。

 それが正式に認可され、量産体制に入ってからは、私の考案した人型魔動騎士――マギアの設計図が、次々と採用されていったのである。


 同時に、生活は大きく変わった。

 技術局へ異例の若さで抜擢されたアルマは、私に代わって、羊皮紙へ描かれた図面でしかなかったマギアを具現化させていき……。

 その功績を認められて成り上がったこの家――ヴィンガッセン男爵家は、貴族社会下位の身分に見合わぬ豪華な屋敷を建てるまでに至ったのである。


 引っ越しのため、住み慣れた部屋を出る際には、ずっとアルマへ抱きつき続けていたが……。

 そうやって辿り着いた新しい部屋は、天国といってよい環境であった。

 そこには、アルマを通じて希望した通り、種々様々な魔動工作器が揃っており、材料さえあれば、この室内でマギアを製造することすら可能と思えるほどに環境が整っていたのさ。

 もっとも、姉妹二人で暮らす室内に、全長九メートルの鋼鉄巨人を収められるならば、という話になるが……。


 ともかく、欲しかった環境が手に入った私は、さらに精力的にマギア開発へと取り組んだ。

 そして、アルマは部屋から出られない私の代わりに、表舞台でそれを発表し、発想を形ヘと変えていってくれたのである。


 アルマは、私の代わりに自分が脚光を浴びることに対して、罪悪感を感じているようだったが……。

 それは、違う。

 私たちは、きっと、一つが二つに割れて生まれてきた姉妹なのだ。

 だから、妹の私に出来ないことを、姉が……アルマが補い、実現してくれるのなら……。

 それは、私にとって無上の喜びとなるのである。


 そんな生活が、二年ばかり続いたある日……。

 姉は、帰らぬ人となった。

 自然な死に方ではない。

 毒殺である。


 アルマ·ヴィンガッセンが生み出した数々のマギア技術により、我が国は……アレキスは一気に版図を広げ、大陸に並ぶものがないほどの強国となった。

 当然ながら、アルマは一種の英雄じみた扱いを受けていたらしく……。

 それを快く思わなかった技術局の人間が、あろうことか、パーティで配られた姉の飲み物へ、毒を盛ったというのだ。


 葬式の日……。

 久しぶりに外へ出た私は、仇の姿を見た。


 ――エリック·カウタール。


 名家の財力にモノを言わせ、多額の予算を使って新機体を開発しては、ことごとくアルマ――実際は私――が開発した機体との競合に敗れてきた男……。

 それが、エリックだ。


 さすがは侯爵家の跡継ぎというべきだろう。

 その顔は、心底から悲しそうであり、涙は流していないものの、心から故人の死を悲しんでいるかのようである。


 だが、その実はそうではない。


 技術局で彼とその取り巻きから受けてきた陰湿な嫌がらせの数々を、私は姉から何度となく聞かされてきた。

 姉に毒を盛ったという犯人は、すでに捕まっている。


 しかし、その人物はカウタール家に多大な借金をしている貧乏貴族家の人間であり……。

 姉の死で誰が最も得するかを考えれば、世間に疎い私でも、容易にストーリーを描くことができた。


 もし、私に行動力があれば……。

 あるいは、勇気があれば……。


 どうにかして、アルマの敵討ちを――復讐を遂げようと考えたかもしれない。

 だが、姉がいなければ一介のひきこもりに過ぎぬ私が、そのようなことをできるはずもなく……。

 逃避するように新しいマギア……自分で生み出してきた様々なそれを遥かに凌駕する機体の開発へ打ち込む内、半年の月日が流れた。







 半年間で、ヴィンガッセン男爵家は没落した、らしい。

 もともと、この家が成り上がれたのは、アルマが技術局で国に貢献してきたからであり……。

 それを失ってしまうと、昨日までの味方があっという間に今日の敵となり、あの手この手で財産を奪われてしまったとのことである。


 父――私たちが連れ子であるため、血の繋がりがないヴィンガッセン男爵は、容赦なく私を屋敷から追い出した。

 それも、当然だろう……。

 私がマギア開発をしていたと知るのは、故人となったイルマだけなのだ。

 それ以外の他人――そう、他人だ――にとって、私は部屋ヘこもりきりの、何を考えてるのかよく分からない穀潰しなのである。


 きのみきのまま、屋敷から追い出された私は、王都の中をあてもなくさまよい……。

 そして、行く場所など、どこにもないことを痛感した。

 いや、それもそのはずだ。

 イルマ·ヴィンガッセンのいるべき場所は、半年前に失われたのだから……。


 姉の墓前……人気のないそこで、胸元のペンダントへ魔力を注ぎ込む。

 姉に頼んで、様々な希少素材を取り寄せ、自らの手で作り上げたこれは、その実、胸元を彩る装飾品ではない。

 魔力を注ぎ込まれたペンダントは、布がほどけるように展開されていく。

 金属の帯と化したそれらは、複雑に絡み合って各部品を構成すると共に、ぐんぐんとその大きさを増していき……。

 そうすることで姿を現すのは、一機のマギアだ。


 ――アルタイル。


 巨大化し組み合わさる過程で私を内部に取り込んだ試作マギアは、姉の墓前で白鳥めいた背中の翼を広げた。


「お姉ちゃん……。

 理論通り、できたよ……」


 操縦席の中から、姉の墓前に呼びかける。

 この、縮小巨大化技術は、私が研究の末に見い出した代物であり……。

 それを実用化したのは、世界で唯一、このアルタイルだけであるはずだった。

 そして、唯一無二の技術はもう一つ……。

 私は、それを起動する。


「エンチャントウィング、起動……」


 実機を操るのはこれが初であるが、やることは魔水晶での仮想戦と何も変わらない。

 私の意思と魔力を注ぎ込まれ、白銀のマギアが純白の翼に魔力光を宿す。


「どこかへ……。

 ここじゃない、どこかで……」


 うわ言のようにつぶやく私を乗せて、アルタイルが大空へと飛び立つ。

 どこへ向かえばいいのかなど、分からない。

 だから、これはただの逃避行だった。

 逃げているのは、この国か……。

 それとも、姉のいない世界そのものか……。

 判然としないままに、私は祖国アレキスを飛び出したのである。







 二時間近くも、飛んだだろうか……。

 私を乗せたアルタイルは、鳥を超える速度で、いずこかへと向かっていく。

 本当に、いずこかだ。

 操っているのは私だが、目的地などないし、そもそも、ここがどこかも分からない。

 下方に流れるのは、見知らぬ――そして、初めて見る景色の数々であり……。

 とりあえず、今はどこかの山脈を飛び越えているのだと思えた。


 竜とマギアの戦いへ遭遇したのは、そうしていた時のことである。

 三機のマギア――造った覚えがない機体なので他国のそれだ――は、上空を飛ぶ竜に向け、必死にフレイガンを撃ち放っているが……。

 有効射程距離を超えている上に、強靭な鱗を持つ竜に対し、それは一切通用していなかった。

 対する竜のブレスは、地上へ達しても十分な威力を維持しており……。

 受け止めたマギアのシールドが、たちまちの内に溶かされた。


 ――いけない!


 自分に、人助けをしようという良識があったことに、我ながら驚く。

 いや、もしかしたら、最強の魔獣である竜に対し、自分が生み出した初の可翔マギアがどれだけ通用するかを確かめたかっただけか……。


 ともかく、アルタイルは私の意思を受けて竜へ突撃していき……。

 そのブレスをかいくぐって蹴りを叩き込み、地面へこれを打ち落とすことに成功したのである。


 地に落ちた竜の喉元へ、地上のマギアがエンチャントソードを突き刺す。


 ――よかった。


 そう思うと同時に、初めての感覚が私を襲う。

 急激に意識が遠のくそれは、話にだけは聞いたことのある魔力枯渇に違いなく……。

 そうと気づいた時には、もう意識を失っていた。







 意識を失った私を介抱してくれたのは、辿り着いた国の王子様だった。

 彼は、私の造った試作機を……アルタイルの素晴らしさを、様々な言葉で褒め称え……。

 そして、竜という天災から国民を救った英雄として、私を手厚くもてなしたのである。


 最初は、何かとぎこちなかったと思う。

 何しろ、私はひきこもりだったから……。


 けれど、王子様の妹姫との対立や、成り行きから第二王子が起こした反乱軍の鎮圧に関わることで、徐々に人々との関わりが増えていき……。


 そして、私は王子様から愛の告白を受けると同時に、この国の技術局局長を務めることになっていた。

 本来なら、私に支えられた姉が、母国で辿り着いていたであろう地位……。

 今は、私が新たに出会った人々へ支えられ、そこにいる。


 眼前にずらりと並ぶのは、私の再設計を受け、量産されたこの国の主力マギアたちだ。

 王城の広間に整然と並ぶ彼らがこれから迎え撃つのは、祖国アレキスが繰り出した侵攻軍……。

 恐れることはない。

 数では劣ろうとも、それを補って足る質であることを、私は誰よりもよく理解している。


 王子の号令を受けて、マギアたちが歩み出す……。

 いや、それは語弊があるか。

 私が開発した新機構を採用したこの機種は、地表を滑るように移動できるのだから……。


 アレキスの侵攻軍が大打撃を受け、敗走した報が届いたのは数日後のことである。

 そして、それはこの国による反撃の狼煙であり……。

 私にとっては、姉を……全てを奪った者たちへ対する――復讐の始まりであった。




 お読み頂き、ありがとうございます。

 もし、「続きが読みたい」「もっと詳細に描写された文で読みたい」と思われましたら、下部に連載版へのリンクを貼っておきますので、そちらから飛んで頂ければと思います。

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