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第三話「君がッ 泣いても  殴るのをやめないッ! 」

質問者「もしドラえもんがいて、好きな道具を一つ貸してもらえるなら、何を選びますか?」

マト「人生やり直し機(即答)」

「いいか、この警備体制は無駄が多すぎる。なんで巡回ルートがこんなにダブってるんだよ。だからチュッケパミュ人達に簡単に接近されるんだ。あとシフトの人数配置についてだが……」

「――おおっ、流石マトリョーシカ様! 我々警備隊が長年気付かなかった問題を、いとも簡単に!」

 俺は今、チョレジョ人達を集めてチュッケパミュ人達と戦うための抗争講座を開いていた。そもそも俺の任務は「チュッケパミュ人相手にチョレジョ人を戦争で勝たせる」だからな。任務達成のためにも俺の身の保全のためにも、何も間違った事はしていない。

 この時代の文化レベルはC3……発達した武器が剣や弓矢というくらいだから、こいつらを戦争で勝たせるためにはこういう質的向上のための講座は欠かせないのだ。大体、話を聞く限り武器ハード指示系統ソフトもチュッケパミュ人どもの方が上らしいからな。精々こっちが勝ってるのは、人数くらいか。戦争に負けるわけだ。

 未来人の俺から見て、こいつらの警備体制はザルに等しい。まず、戦いにおいて一番重要なのは情報だ。その情報伝達手段が、ものすごくとぼしいのだ。

 ……そんなこいつらに捕まった俺って……。悔しすぎて涙が止まらん。

「おお、マトリョーシカ様が我らの不甲斐なさに涙を流しておられるぞ! マトリョーシカ様のご期待に応えるためにも、これからは粉骨砕身の思いでチュッケパミュ人どもを返り討ちにしてくれよう!!」

「おお、おお!! その通りだとも!!」

 猿どもは勝手に盛り上がってるし。畜生。

 そんな折、ボス猿のクーゴが俺に近付いて、したり顔で話しかけてきた。

「いやあ、順調ですなマト殿。見て下さい、仲間達のやる気に満ち溢れた顔を。皆、あなた様のご高説に胸を打たれた様子ですぞ、流石ですな」

「いやぁ、まだまだっスよクーゴさん。見てて下さい、今にチョレジョ人の歴史を塗り替えて見せますから」

 笑顔で応じる俺。……なんでかな、こいつには頭が上がらない。腐ってもボス猿の威厳がそうさせるのか、それとも単に俺がヘタレなのか。……って、ち、違うぞ!? 俺はヘタレなんかじゃないぞ!?

「おお、何と頼もしいお言葉! 流石マト様、『天より来たりし者』! 期待しておりますぞ。……時に、話は変わりますが」

 ニヤニヤ顔のクーゴは、俺に耳打ちしてきた。

「娘のクソンとの初夜は、どうでしたかな? 差し支えなければ、こっそり教えて下され」

 ――こ、このクソ親父……それを娘婿の俺に聞くか。

 俺の頭に、昨夜の情景が蘇った。


 ……。

 …………。

 ……………………。


 笑顔で俺のベルトのバックルを外そうとするクソン。

 その最終防衛ラインに手をかけられ、俺はクソンの肩に手をかけた。

「ちょ、クソン! ストップストップ!」

「……マト様?」

「お、俺は……」

 ――俺には、ルッピョロ先輩という恋人がいる。やっぱり、こんな事はできない。

 そう言おうと思った。けれど……。

「…………」

 なぜか、言えなかった。言えば、きっとクソンは悲しむだろう。俺がこんな猿を憐れむ必要なんてこれっぽっちもない。俺の胸は痛まないはずなのに。

「……クソン……」

 だけど、こんな俺を前にクソンは言った。

「……分かりました、マト様」

 クソンは神妙な顔だ。

 ――え? どゆ事? 何が分かったの?

「このクソン、これでも一族の巫女をしております。マト様の言いたい事は、分かりましたわ」

 俺の表情で、大体の事情を察してくれたのか……? おおっ、話が早くて助かるぜ! 流石猿とはいえ、一族で一番と呼ばれる女だ!

「脱衣くらい、ご自分でなさりたいですよね。女に脱がされるのは、男の沽券に関わる……と。マト様のプライドを損なってしまい、申し訳ありませんわ。至らないクソンを、お許し下さい」

 ――ちっげえええぇぇ!!!

 違うよ、クソン! そうだけど、確かにそうなんだけど違うよおおぉ!!

 ええい、言ってやる! 分からないなら、直接言ってやるうぅ!!

「――クソンッ!!」

「……マト様……」

 見つめ合う、俺とクソン。瞳と瞳が、ばっちり合った。交錯する視線。

 クソンの目は、確かに綺麗だった。そこに、猿と人の違いなんて感じられない。

「……マト様、そんなに見つめられると……私……」

 この時ばかりは、俺達二人の間に甘い空気が流れた。

「――クソン、心して聞いてくれ。俺は……」

「ウッキイィ~~!!」

 甘い空気が流れたと思ったんだ。思ったんだよ、畜生! 前言撤回だゴラァ!!

 そういや、前に聞いた事がある。猿などの野生動物は、「目を合わせる」=「ガチンコバトルの始まりの合図」だって!

「やっぱり、こんなオチかーっ!!」

 こうして新婚初夜は一転し、熱い肉弾戦となったのだ。


 ……。

 …………。

 ……………………。


 俺は回想から戻ってきた。とりあえず、俺の貞操は守られたんだけど……。

 はっきり言って、クソンは鬼のように強かった。俺は30秒も持たずKO負けして、翌朝まで気絶した。

 ……あれ、おかしいな。俺、ちゃんと時空管理局で訓練受けたんだけどなあ?

「マト殿、マト殿? 聞こえておられますか?」

 クーゴは俺の返答を急かすし。こっちの気も知らないで。

 俺はとりあえず、こいつを刺激しないよう言葉を選んだ。遠い目で。

「ええ、まぁ。――刺激的な、夜でしたよ」

 別の意味で、色々と。

 だがクーゴはそうだろうそうだろうと頷き、満足したようだ。

「クソンに限って、間違いがあろうはずがございませんからな。やはりマト殿は果報者ですじゃ。……ですが、クソンはあれで寂しがり屋ですからな。今晩もご相手をしてもらおうと思っとるかもしれませんぞ」

「な……!?」

「マト殿もまだお若い。それだけの体力はございますでしょう。いやぁ、若い者は羨ましいのう、ほっほっほ……」

 去り行くクーゴを見送る事もなく、俺は驚愕の事実に震えていた。

「今晩も……だと……!?」

 昨夜はたまたまクソンとのベッドインを避けたが、何度もかわし続ける自信はない。いつか本当にクソンとゴールインしちまう可能性だって、0じゃないんだ。クソンは猿とはいえ、妙な色気もあるしな……。

 おおお、恐ろしい……!!

 ガタブルする俺に、熱狂が冷めたチョレジョ人の一人が尋ねてきた。

「……あの、マトリョーシカ様。それで、講義はもうおしまいですか?」

 そうだった。今は対チュッケパミュ人用の講義の最中だったんだ。それをクーゴが変に割り込んできたのだ。

 ……ん、待てよ?

 俺の脳内で、稲妻のようにアイデアが閃いた!

「そうだ、そうだよ! これしかない!!」

「え? マトリョーシカ様?」

 困惑するチョレジョ人だが、気にしない。

「いいかお前ら、講義はひとまずこれで終わりだ! 次に実戦訓練に入る! 戦える奴らは全員表に出て、隊列を組め!」

 そうなんだよ。俺の仕事……「チョレジョ人の強化」に励めば、クソンの相手をする体力が残ってない、って言い訳ができる。これは奴らが俺に望む仕事でもあるし、クーゴやクソンだって強くは出れないはずだ。

 仕事疲れで妻の相手をできない夫の図ってわけだ。我ながら最高のアイデアだと思う。

 こうして俺は、日夜チョレジョ人達を鍛え続けるのだった。




 そして、一週間の時が流れた。

 一週間前に比べると、チョレジョ人のチームワークも見違えるほどマシになった。やっぱり質的向上は大事だな、うん。欲を言えば、よりチュッケパミュ人に対抗するために優秀な武器が欲しい。こっちの道具として石斧や麻縄があるけれど、奴らの剣や弓矢にはどうしても負ける。

 生活基盤が技術レベルで負けてるから一朝一夕にはどうにもできないけど、何とかならないものか。

 他にも、変えたいところは山ほどある。

 まずは食糧調達。チョレジョ人達は基本、狩猟生活だ。幸い、この辺りは自然が豊かだからそれでまかなっていけるが、いつか限界は来るだろう。第一、収穫が安定しない。チュッケパミュ人は既に耕地で小麦を育てているという話だから、俺がその技術をこいつらに教えても問題ないだろう。というわけで、農耕のレクチャーも戦闘技術と併して始まった。これが軌道に乗ったら畜産を始めてもいいかもしれないな。

 けれど麦を育てるならばそれ用の道具も必要というわけで、道具の開発に乗り出すとまたあちこちで弊害が起こる。何せ、奴らにとっては何もかも1から教えなければならない上に、材料すら自分達で見つけなきゃいけない。お前らどんだけチュッケパミュ人に遅れを取っているんだよ……。

 生活基盤の向上にまで乗り出すと、途端に目の回る忙しさとなった。最初はクソンの夜の相手をしないための方便だったが、今では本当にそんな余裕がない。知識の伝道者が俺だけ、っていうのが問題なんだよな。

 そう、チョレジョ人達に一番欠けているもの。それは知識という名の財産だ。

 本当に狩猟生活さながらの日々に満足していて、実際にそれで事足りてしまっている。必要は発明の母、というが、奴らにとってはこの大自然が母なのだ。平和な世界ではそれで問題ないだろうが、今こいつらはチュッケパミュ人という文明人達と敵対している。昔のままでは、勝てないのだ。

 そしてここでの生活の間に知ったのだが、チョレジョ人の寿命は俺達のようなホモ・サピエンスよりもずっと短いらしい。それこそ猿並に。その分、繁殖のスピードも速く個体数も多いわけだが。文明がなかなか発達しないのも、それが絡んでいると思われた。

 ……ならば、文明の発達と伝道を狙って、学校みたいなものを作りたいな。次々と新しく生まれてくる子供達に最低限の文化のイロハを叩き込めば、チョレジョ人の知識の質は向上するし、その中からまた新たに何かしらの発明をする奴が生まれるかもしれない。そうなると誰か教育者が欲しいな。俺がいつまでも教え続けるわけにはいかないだろうし、何より俺は一人しかいないんだ。チョレジョ人全体を教え導くには、もっと教育者の数が欲しい。

 また、巡回ルートのシフトを組んだ時に感じたのだが、チョレジョ人は非常に時間にルーズだ。そもそも、時間という概念すらないのかもしれない。考えてみれば、時計すらないもんな。俺は時空管理局の人間だから、どうしてもその辺は敏感になってしまう。

 だから俺とこいつらのために、簡素だが日時計を作ってやった。円の中心に棒を立てて、日光の影を時針代わりにするというアレだ。この日時計を元に一日の行動の指針を立てるんだと教えたが、奴らは今ひとつよく分からない顔をした。まぁ、初めて時計を目にすりゃそうなるだろう。時計のある生活に慣れるまで、気長に待つさ。

 ……と、まぁ。

 俺は本当に、チョレジョ人達のために毎日動いていた。

 王様というよりは内政大臣のような感じだったが、1から何かを教えるというのも中々楽しい。チョレジョ人達も良い生徒で、こっちの言う事を素直に聞いたり、疑問があればそれを口にした。俺は彼らが納得するまで疑問に付き合い、丁寧に説明し続けた。チョレジョ人は、知識はないが馬鹿じゃない。誰もが、最後には俺の説明を理解してくれた。

 そんなこんなで、充実した毎日を過ごしていた。





 今日はチュッケパミュ人の街の偵察に、奴らの領地の境界線の近くまで足を運んだ。

 今まで、奴らに関してはチョレジョ人の口から聞いていたが、やはり自分の目で一度確かめてみたい。そんな動機からだった。

 チュッケパミュ人の領地近辺には奴らの見張りがいるという事なので、慎重に俺は護衛のチョレジョ人達と共に歩いていく。今は密林が俺達の身を隠してくれるが、この密林が開けた先からは奴らによって均された大地があるらしい。そうなると弓矢の格好の的だ、気をつけなければ。

 そう思っていると、護衛の一人が足を止めた。

「――マトリョーシカ様。近くに、チュッケパミュ人がいます」

 チョレジョ人は俺と違って、非常に視覚と聴覚が鋭い。だからこういう密林では役に立つ。

「まだ、奴らの領地に踏み入ってないはずだが。偵察か?……数は?」

「一人のようです」

「……そうか」

 一度、チュッケパミュ人達とは話し合ってみたいと思っていた。彼らの生活、思想、そしてチョレジョ人への敵意を確かめたい。相手が一人というのは引っかかるが、これは良い機会だ。

「――麻縄は、持ってきているな」

「はい」

「よし、可能なら捕らえろ。俺も援護する」

「――は!」

 俺は護衛達と共に、チュッケパミュ人が見える樹木によじ登った。密林生活に慣れ、彼ら流の登攀術だって身に付けたのだ。ここからなら相手がよく見えるし、そして向こうからは注目されにくい。人間の意識って案外、上には向かないものなんだよな。

 だが、俺は相手の姿を見て仰天した。なぜなら、その相手は――


「ル……ルッピョロ先輩!?」


 何と、先輩はたった一人で俺達の元に向かって来ていたのだ……。

普通にシムシティ始めたマトでした。

0から何かを作る作業って楽しいですよね。


目線が合ったら云々のお話ですが、実際に猿と目を合わせたら危険なのでご注意下さい。

そういえばポケモンだって、トレーナーと視線合ったら問答無用で戦闘が始まりますよね。奴らは猿と同様の野生を持っているのか。


今回はマト君のイジメ度合いがやや少なくて残念ですね♪

次回はルッピョロ登場でテコ入れできそうな。主にマトいじめに。

マト「やめろォ!」

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