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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
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67.

「あーーっ!!」

「ぬうおおおおお!」

 同時に駆け出したマノとクリス大佐の拳が交錯し、互いの顔面を激しく打った。もう一発、さらに一発と喰らいながらも目だけは背けず拳を繰り出し続ける。しまいには右手で首根っこを掴み合い、左手を握ってそのまま殴り合う。

 目元を、鼻っ柱を、眉間を、顎も頬にも驟雨のように拳が降り注ぎ、血の水たまりを作ってゆく。顔を腫らせたクリス大佐と血まみれになったマノが、殆ど同時に殴りあうのをやめてロックを解き、飛び上がって相手の顔面を蹴ろうとした。だが空中で相打ちとなり、着地すると今度は左、右、左と交互に下から膝裏、鳩尾、首筋を狙った蹴りを繰り出す。これも相打ちとなるや飛び後ろ回し蹴りで顔面を狙うが、これも蹴り脚がぶつかって鈍い音を立てた。

 ここでクリス大佐は立ち止まらず、一瞬だけ動きのとまったマノに向かって飛び込んだ。左腕を空中で叩きつけ、そのまま錐揉み回転しながら着地すると、倒れたマノの上体を引きずり起こして今度は頬骨のあたりを思いっきり締め付けた。

 言葉にも、声にもならない叫び声をあげ苦しむマノの両腕が中空を掻く。やがてその腕が勢いを失くし遂にはがっくりと力無く項垂れた。


「マノさん……」

「あれは、前の戦いでも出た技だ!」

「おお、やはり大佐が!」

「あれはちょっとやそっとじゃ外れんぞ……!」

「なんじゃなんじゃ、マノは負けてしもうたのかえ!?」

「マノーッ! 起きなさいよ!!」

「ああ、痛そうですひん」

(むう。マノは、まだ起きてるぢょ~)

「えっ!?」


 ニャミの言葉通り、かすかに、ゆっくりとマノの腕が動きだし、クリス大佐の動体を両手でガッチリと抱え込んだ。クリス大佐は上から体重をかけてマノを圧し潰そうとする。けれど、そのために腕のロックの角度がズレて、マノはかえって体を起こしやすくなったみたいだ。

 しっかりと締めた大佐の腕と脇腹へ強引に頭をねじ込み、懐に入ったマノがやがて、膝のバネを使って一気に立ち上がり反り返った。マノの胸板から臍にかけてが美しく急峻な角度をつけて弧を描き、まるで虹を渡るようにクリス大佐を持ち上げて叩きつけた。

 一度、高々と抱え上げてから後方に反り投げることでクリス大佐は脳天から垂直に落下、後頭部を強打し流石に動けなくなってしまった。うずくまり、地面をのたうち回るクリス大佐の姿は、またしてもUWTB隊員たちをどよめかせた。

「同じ技を、二度も食うかよ……」

「ぬん!」

 クリス大佐はマノに返事をする代わりに、横たわったまま体勢を入れ替えて素早く元弟子の足を払った。低く鋭い回し蹴りを間一髪、後方に飛び越えてかわしたマノだったが、着地と同時に今度はクリス大佐の追撃を喰らった。走り込んで左、右と続けざまの肘打ち。そして踏み込みつつ体を回転させてさらに肘、すかさず逆回転して肘。大佐の分厚く鋭い肘鉄が次々にマノの顔面を襲う。痛みと衝撃に吹っ飛んだマノが後方へ一回転するもすかさず起き上がり向かって来たところに、今度はクリス大佐のジャンプしながらの顔面蹴りが待っていた。爪先が容赦なく額のあたりに食い込み、ゴスンと鈍い音が響いた。

 しかしマノも意地を見せ、今度はそれでも倒れない。ならばとクリス大佐は頭を下げさせて背中に覆い被さり、マノの両腕を掬い上げるようにしてロックした。


「大佐、アレを出すつもりか……!」

「おい、あいつ死んじまうぞ!」

「もうダメだ、今度こそ止まらない」

 隊員たちは一様に動揺し、遂にはマノの心配までし始めた。

「アレ、って何ですか」

「クリス大佐の、文字通りの必殺技だよ。アレを喰らって立ってきた奴は、今まで一人も居ないんだ」

「ねえ、アレって、さっき途中まで仕掛けてた技じゃない……?」


 そうだ。さっきクリス大佐は、これでマノにトドメを刺そうとしていた。そして今度は、誰もそれを止めることができない。

 クリス大佐はマノの体を真っ逆さまに持ち上げると、両腕をロックしたまま垂直に落下させ、地面に思いきり突き刺した。マノは真っすぐ後頭部から落っことされて、その時に響いたとんでもない音が端末のスピーカーをビリつかせた。

 1秒間か、もう少しぐらいだったと思う。でも、凄く長い間そうしていたように見えた。マノは地面に突き刺さったまま、両足は湖にでも沈んだように立ったまま、ゆっくりと崩れ落ちていった。

 技を仕掛けたクリス大佐も精魂尽き果てて、そのまま膝をついてガックリ項垂れた。


 マノは何度か拳を立てて起き上がろうとしたが、そのたびに力無く倒れた。クリス大佐も、今度という今度は立ち上がれないようだ。

「クリス……」

「……」

「僕達は政府や誰かの道具じゃない……確かに戦うことでしか自分を表現できなかったけど、いつも自分の意思で戦ってきた」

「……」

「あんたが言われるがままに守って来たオーサカと、僕が生まれて初めて自分の意志で守りたいと思った……たったひとりの地球人……」

「……」

「地球人は、自分たちの命や人生にすぐ値打ちを付けて重さをはかる。自分がどれだけ他人より重たくて、必要であるか。それで自分の値打ちが決まると思ってる」

「……」

「僕は戦うことにしか自分の値打ちを付けられなかったし、僕に付けてもらえる値打ちはそれだけだった。だから今も、こうしてあんたと戦っている。でも──」

「今は自分自身より、あの子の方が重たいと言いたいんだろう」

「……」

「マノ──強くなったな」

 倒れたままのマノの体が震えている。泥と血に塗れた顔を伝う涙がだんだん粒を大きくして、やがてとめどない流れに替って輪郭を洗ってゆく。

「立て。マノ」

「クリス……」

「立ってトドメを刺すんだ」

「クリス!」

「お前の手で終わりにするんだ。私と、お前の、長い戦いを」

「イヤだっ!」

「マノ!」

「イヤだ!!」

「マノ!!」


「……わかったよ、わかった。クリス」

「……」

「先生。ありがとうございました」


 マノは最後の力を振り絞って立ち上がると、クリス大佐を背後から抱きかかえるようにして起こしてゆく。その途中で右腕だけ脇の下から差し込むようにして首根っこを固定し、左腕はしっかりと胴体に回してベルトを掴んだ。

 そして怒声一発、マノが雄叫びと共にクリス大佐を真後ろに高々と持ち上げると、ブリッヂが崩れかけながらもそのまま投げ切って見せた。クリス大佐は再び後頭部を強く打ち、跳ねるように地面を転がってうつ伏せに倒れた。


 たったひとり廃墟の遊園地に呆然と立ち尽くしたマノの顔に、勝利の喜びは無かった。

 ただ一つの戦いが、そこで宇宙も時空も越えた長い長い歴史に終止符を打った。


OSAKA EL.DORADOをご覧いただきありがとうございました。

このお話は、いったんここでお休みになります。

私が人生で初めて、色々きちんと(これでも)考えたり決めたりして書き始めた作品で、とても気に入っています。最初の形からは随分と変わりましたが、自分の好きな場所、人、文化などなど沢山つめこんで、楽しく書いてきました。


別のお話に注力するため一旦お休みになるだけなので、頭の中や設定シートには、まだまだ書きたいことや書く予定だったお話があります。あぶくちゃんたちの居るオーサカに、必ず戻ってくることを、そしてこのお話も沢山の人が手に取って読んでくれることを夢見て頑張ってきます。

これまでご覧下さった方、特にブックマークしてくださった8名の皆様、

長い間ありがとうございました。

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