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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
89/90

66.

 コントロールを失ったT2が膝から崩れ落ちて俯せた。

 中空を舞って地面に叩きつけられたヘッドパーツが墓碑銘のように横たわり、よろめきながら這い出たクリス大佐が巨大な顔面の前で大の字になって仰臥した。

 それを見たマノも変身を解き、彼の隣に歩み寄って座り込んだ。


「……」

「……」

 いよいよ動くものが風に舞う砂ぼこりぐらいになり、遠くで轟々と海鳴りのする廃墟の遊園地に傷だらけの宇宙人ふたり。

「マノ」

「なんだ」

「強くなったな……」

「……」

 マノはクリスからの言葉に驚き、次いで照れ、しまいに反応を失くして長い髪をわしわしと指先でかき上げた。

「今回は……私の、負け──」

「クリス……!?」


「じゃ、なああああああああいぃ!!」

 叫びながらクリスは首を支点に跳ね起きると、目を爛々と輝かせながらマノに向かって挑発をした。

「ぬはははははははは! 残念ながら、そうはいかん! 確かに貴様は強くなった。守るものも出来た。流浪の旅路を経た心身の練磨は認めよう……だが、まだだ!! まだ終わってなぁあい!」

 クリスの背後で燃えるような夕焼けが広がり、どす黒く低い雲の向こうから濃いオレンジ色の光が差し込んで、機械と庭園緑地と遊具と兵器の入り混じった瓦礫の山と、のたりのたりと蠢く海を照らして深い影を産み出し、赤に近い濃橙色の光に照らされたクリスが叫ぶ。

「マノ、さあ決着をつけよう! 私と貴様の勝負にロボットも光線技も要らぬ!! そうだろう!?」

 

「クリス……アンタって人は!」

 徴発を受けて立ったマノも満更でもなさそうに立ち上がって身構えた。

 じりっ、じりっと時計回りに間合いを取って動きを探り、視線だけはお互いに外さずに八方目を絶やさない。

 クリスのほつれたプラチナブロンドの前髪と、マノの長い黒髪が潮風にまかれて揺れる。

 その髪をなびかせる夕陽の色をした風が、一瞬、止まった。

「デヤーッ!」

「ぬぅん!」

 同時に二人とも短く助走をつけて飛び上がり、両足を揃えて蹴り込んだ。空中で互いの爪先から膝のあたりまでが交錯するようにぶつかり合うも、僅かに高く飛び上がっていたクリス大佐が優勢であったようだ。

 転がるように落下の衝撃を和らげた二人が再び同時に起き上がり、今度は両手を伸ばして互い違いに首と肘を抑えたまま組み合った。ビキッと凄い音がして、地面を踏みしめた二人の両足がお互いを押し込もうと力を込めてゆく。

 双方が文字通り一歩も譲らず、相手方を押し込もうと足を踏み出そうとする。が、その一瞬の体重移動を見切ったクリス大佐が体を入れ替え、マノの頭を左腕で抱え込んだ。こめかみの辺りに前腕を押し付けて胸をグイと張り、てこの原理でマノを締め上げる。

 さっきまでの激闘、さらにクラーケンとの死闘、そしてクリス大佐との初戦で負ったダメージは深く、苦悶の声をあげるマノの額から再び鮮血が滴り落ちて来た。

 が、マノは痛みを堪えながらクリス大佐の手首を掴み、内側に捩じり上げながら肘を押し込んで腕を外すとそのまま背後に回り込む。しかしそのマノに掴まれた腕を逆に手首を返して掴み引きずり込むような背負い投げを見せるクリス大佐。

 マノは地面に叩きつけられる寸前に両足を跳ね上げてクリス大佐の頭を挟み込むとそのまま引き倒し、お返しとばかりに締め上げる。クリス大佐は体をひねって足を抜きながら四つん這いになり、三点倒立の要領で頭を外そうとする。

「このお!」

「あいてえ!」

 マノはクリス大佐の頭を挟んだまま足を持ち上げ、そのままズドンと地面に叩きつけた。思わず言葉の乱れたクリス大佐がよろめきながら立ち上がり、膝をついて顔をしかめる。そこへすかさず走り込んだマノがクリス大佐の膝を踏み台にして、自分の膝を顔面に叩きつけた。膝頭を額でマトモに受けたクリス大佐からも真っ赤な血潮が飛び散り、それが川の流れのように彫りの深い整った顔の上を迸ってゆく。


 ざあっ、と冷たく強い風が吹く。焔のようにどす黒い夕陽が一段と深く雲や海や瓦礫の山を染めている。その手前には遥かな時の旅路を経た、宇宙人ふたり。


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