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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
88/90

65.

 キッと顔を上げたマノの黄金に輝く相貌がT2の巨体を真っすぐに捉えた。

「クリス、覚悟!!」

「なんだとぉ!」

 マノが後ろ飛びに上空へ舞い上がって両手を前に突き出し、掌を大きく開いた。

「Tornado Of Souls!!」

 螺旋を描いた碧く鋭い風がマノの全身を包み込み、彼に嵐を纏わせる。今、マノの魂は竜巻のエネルギーに包まれたのだ。

「Fury of the Storm!!」

 広げた両手の先から体内の竜巻エネルギーを放ち、それは奔流となってT2に襲い掛かった。軌道や回転台の上を走る遊具が多くを占めるT2の巨体が激しく揺さぶられ火花を散らし、レールやジョイントが軋んでゆがむ。

「ぐおおお、小癪な!!」

 しかしバランスを取り戻したT2は間隙を突いて五色のレーザー光線を放ち、マノを上空から叩き落とした。

「喰らえい!」

 地響きを轟かせながら倒れ込んだマノを狙ってT2が迫る。放たれたミサイルが彼を目掛けて飛んで行く。が、無数のミサイルは全て命中する寸前に彼の体から逸れて、地面や中空で仕方が無さそうに爆ぜた。

「なに!?」

 彼の体表に残っていた竜巻エネルギーがミサイルを吹き飛ばしたのだ。しかし、それでエネルギーが尽きたのか碧い風は見られなくなった。

「今だ!!」

 その隙を過たず、クリスはT2の右腕を伸ばしマノの首根っこを真正面から捕まえて締め上げた。そのまま左手で腰のあたりを掴んで、両腕の力で高々と持ち上げ、油や樹木が燃え盛る地面へと躊躇なく叩きつけ、マノは黒煙と瓦礫の飛び散る中、遂にぐったりと仰臥した。

 T2はその場で高く飛び上がり、まっすぐに伸ばした左足をマノの首元に落とした。ギロチンのような一撃を受けたマノは苦しみもがき、炎に灼かれた地面を転げ回って距離を取った。そして再び体勢を立て直そうととび上がり、竜巻エネルギーを蓄えようと手を伸ばした。

「Tornado Of Souうわああ!」

 しかし、そうはさせじとT2が上空でマノの首っ玉を捕らえた。そして先ほどと同様に高々と持ち上げると、今度はそのまま後方に回転させながら落差を付けて叩き落とす。それも、マノが落っこちた先は深々と陥没した埋め立て地の奈落で、幾ら彼の巨体でも相当の高さになったはずだ。

 いわば断崖絶壁式大車輪喉輪落とし、とでも言える大技を食ったマノが、地の底で力なく横たわる。

 

「マノ!!」

「あぶくちゃん、何を」

(おわあああ、や、やめりぇえええ!!)

「お願い、ニャミ! あたしの声をマノに届けて!!」

(わかった、わかったぢょ~!)


 鼻息荒く駆け寄ったあぶくちゃんが、ニャミのほっぺを両手でムギュウとしながら懇願する。血走った眼と語気に圧されたニャミも異論はないと見え、自らのテレパスに彼女の言葉を乗せてマノに繋げた。


(マノ! しっかりしなさいよ!!)

「あっ、あぶくちゃん!!」

(あたしたちみんな、あんたのこと信じてるからね! あたしのマノは、あんなファンシーな遊園地ロボットになんか負けやしないんでしょ!?)


 あたしのマノ……あたしの、マノ。あたしの……あたしのマノ。あたしの、マノ、マノ、あたしの、あたしのあたしのあたしのあたしのマノ、マノ、マノマノマノマノマノマノマノマノマノマノマノ──

 あたしのマノは、あんなロボットには負けやしない!!


「Muy bien!!」

 彼を覆うように立ち込めた黒煙と炎の向こうで、光を取り戻した相貌が黄金色の輝きを放つ。顔の前で腕をクロスさせたマノが、それを体の両側に広げて力こぶを作り

「Thunderstorm!!」

 と叫んだ。たちまちのうちに黒雲が辺りに押し寄せ雷鳴が轟き、稲妻が空を裂いてマノの体を打つ。そのエネルギーが彼を甦らせ、青白い雷光を浴びながら遂にマノが立ち上がった。深紅の巨躯に電撃を纏い、身構えた指先から迸るパワーが火花になって飛び散った。


「かかって来い、行くぞ!」

「ぬおおおおおおおおお!」

 身体中そこかしこでスパークを起こしたマノと、雄たけびを上げたクリス大佐のT2が廃墟と化した大伽藍で真正面から組み合った。途轍もない大電流がT2を襲い、金属という金属を穿ち、樹脂や被膜を溶かし、コクピットのクリス大佐を打ちのめし、巨大合体ロボットは全身から火を噴き、凄まじい轟音を轟かせて立ち尽くした。

「うわ、うわあああああ!!」

「大佐!!」

「あんな姿は見たこと無かったな……」

「クリス大佐が、負ける……!?」

「ああ。だが、なんだか大佐、楽しそうだな」


 これまでにないほどの死闘を繰り広げている姿を見て驚きつつも、やはり彼に対する心酔の揺るがない隊員たちが感嘆するほど、クリス大佐は苦しみもがきながらも何処かその戦いに満足げな顔をしていた。


「バカなっ! T2が、動かない……!」

「行くぞーーっ!!」

「ああっ、マノが、マノが拳を握った!!」

 ショートし、動きを止めたT2から半歩下がって間合いを取ったマノが左腕に力を込めて握り拳を誇示して叫んだ。

「Grand Sword!!」

 エネルギーを集中させたことでそこに電撃も集まっているのか、稲妻を放つマノの剛腕が青白く光りながら、脈動する筋肉を浮かび上がらせる。そしてその場で居合切りをするかのようにT2の首っ玉目掛けてその腕を振り抜いて叩きつけた。

 爆炎と火花を放ちながら飛び散った破片に押し出されるように、T2のヘッドパーツが破壊されてすっ飛んだ。稲妻を名残らせながら千切れてゆく黒雲の間隙から降り注ぐ濃い橙色の光を浴びて、その機械仕掛けの四角い相貌が何処となく嬉しそうで、だけど少し悔しそうに見えた。


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