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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO

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78/90

55.

 湾内に侵入したクラーケンが、浅瀬に至って遂にその全貌を現した。

 巨大な動体の周囲を漣のように包む粘膜が鈍く光る、テンペラの三角形が波間を割いて屹立する、長大な胴体の下から冷たく無感情な目玉がぎょろりと覗く。海面が激しく揺れて周囲に土砂降りの飛沫を降らせる。岸壁から溢れた海水が小さな資材やドラム缶、フォークリフト……あらゆるものを押し流し、上屋の屋根と壁を打つ。

 押し流された車両やタンクから漏れた油に、ひしゃげたパイプから噴き出したガスに、火花が散って燃え上がる。

 太く長い触手が水飛沫をあげて振り回され、当たるを幸いなぎ倒す。

 逆巻く炎にも、爆風にもお構いなしに、深海の魔王が破壊の限りを尽くす。


 緑地の地面を持ち上げて、ツツジの並ぶ遊歩道がひっくり返って、ため池の水面を割って、黒光りする砲台が次々に姿を現した。それらの砲撃が始まると同時に、舎利寺がクラーケンめがけて自らの左腕を発射した。このロケットパンチも改良されていて、爆薬が炸裂すると共にメイプル鋼という特殊合金で作られたアンカーが相手に突き刺さり、そこにワイヤーで繋がった舎利寺の体内電源から約50万ボルトの高圧大電流をお見舞いすることが出来る。海の生き物なら、さぞ効き目もあるだろう。実験には打ってつけだ。

「命中した、今だ!!」

 舎利寺の全身が青白く電光を放ち、アンカーに繋がったチェーンを通してクラーケンに電撃をお見舞いした。痙攣し、苦しみもがくクラーケンの動きが一瞬、止まった。

「やったあ!」

「いいぞ、効いてる!」

「今のうちに姫様を探すんだ!」

「了解!!」

 舎利寺がアイセンサーの映像とレーダーの画像を転送して、司令室とジェミニのモニターにもそれが映し出された。が、アマタノフカシサザレヒメの姿はない。

 先ほどまで捉えていた彼女の生体エネルギー反応も消えてしまっている。

「まさか、何かあったのか!」

「馬鹿な……そんな筈は」

 ボクとクリス大佐の評定を尻目に、マノが荒い息を吐きながら呟く。

「いや、彼女は生きてる。すぐ近くにいる!」

「なんだって、お前さんどうしてわかる?」

「でもマノ、レーダーには何も……」

「まあ待て。こういうことに関しちゃマノを信じろ」

「聞こえるんだ。彼女の……アマタノフカシサザレヒメの嘆きと悔恨の声が」


 アマタノフカシサザレヒメは宝珠の力で姿を消し、この地におけるあらゆる感知から身を隠していた。彼女の声も、姿も、視線も、匂いでさえも、もはやこの惑星で感じ得ることは不可能というほど完璧な術だった。

「儂が……儂がノコノコとやって来たばかりに。またしても……」

 彼女は己の浅はかさを、浅ましさを、生命そのものを悔やんでいた。自分だけが生き延びてUWTBへやって来たばかりに、クラーケンを呼び寄せてしまったのだと。あの時、自分も一緒に滅んでいれば……。

 脳裏に刻みつけられた破滅と殺戮の記憶が、水底から陽光を浴びた銀の泡ように浮かび上がる。

 死にたくなかった。あれほど生き延びたいと思った。しかし、そうまでして永らえたこの命が、またしても新たな悲劇を繰り返す引き金になってしまった。

 かくなる上は、自らクラーケンに向かってゆくしかない。


 そうして足を踏み入れたGPACの埠頭は、酸鼻を極める終末的な有様だった。

 高波があらゆるものを押し流し、叩き潰し、ついさっきまでここにあった当たり前の生活も、人々の営みも、活発な息遣いも、全てを吞み込んでしまっていた。

(同じじゃ……何もかも、何もかも)

 流れ出た油に火花が散って、あちこちではらわたまで揺らす音を立てて何かが爆ぜている。

(儂のせいじゃ……何もかも)


「マノ、お姫様は見つかったか?」

「もう少し……もう少し近づけないか」

「クリス大佐、自分も限界であります……!」

 放電を続ける舎利寺の体から細い白煙が上がり始めた。

「体内の温度が上がっている、このままじゃショートしちまう……マノ、頼む!」

「舎利寺君、よくやった! 一度退くんだ!」

「はっ!」

 アンカーを切り離した舎利寺が物陰に退却しようとするが、既に熱を持ち過ぎていたせいでワイヤーと腕を繋ぐフランジが溶けてしまっていた。

「ダメだ、切り離せない!」

「なんだって!」

「舎利寺、危ない!」

 放電を止めたことで息を吹き返した深海の魔王が怒り狂い、ワイヤーごと舎利寺を掴んで力任せに振り回した。

「うわあああああああ!」

 そのまま14号倉庫と大書された上屋の壁に叩きつけられ、さらに上から瓦礫ごと長い触手で推し潰された。

「舎利寺――!!」

「舎利寺さああああん!!」


 ボクたちの、そしてマノとクリス大佐の叫びは彼に届いたのか……舎利寺から送られてくるモニターの映像は、白と黒の砂嵐になった。



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