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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
77/90

54.


「く、クラー……ケン……?」

 サメちゃんの声が震えている。いや声ばかりではない、全身が小刻みに震え、今にも硬直して卒倒してしまいそうだ。

「何!? これが、あのクラーケンか!」

「おお、なんということでしょう……我ら海洋人間の命を奪い故郷を滅ぼした、深海の魔王が遂に……」

 司令部のモニターに映し出されたのは、まるでタンカーのように巨大なダイオウイカだった。青白い巨体にぶよぶよとした目玉、それ自体が一つの生物のような触手と、さらに長大な触腕。


「あ……ああ……」

 サメちゃんの震えが止まらなくなった。無理もない。彼女の一族は、彼女とイソガイを残して、みんなこの深海の魔王に食いつくされ、滅ぼされてしまったのだ。

「あああああああああ!!」

「サメちゃん、サメちゃん……!」

「落ち着け、大丈夫だ!」

「ひ、姫様……!」

「姫を別室へ! モニターを見せるな!!」

 慌てる周囲を尻目に、何か憑き物が落ちたような表情でサメちゃんがこぼした。

「ああ。そうか。そういうことか」

「ひ、姫様……?」

「イソガイ。どうやら儂は此処までのようじゃな」

「何を申されます!」

「所詮は逃れられんのじゃよ……あの悪魔の長い腕からはな。儂が居るからじゃ……奴は儂を追って来たのじゃ。ならば」

「待て!!」

「姫様!!」

「サメちゃん!!」


 意を決したサメちゃんは、遂に部屋を飛び出して行ってしまった。

「なんてことだ……!」

「サンガネさんよ、オレぁちょっと行って来るぜ!」

「舎利寺さん、危険だわ!」

「あの姫様を見殺しにゃあ出来ねえヨ、それにオレなら飛んでいける!」

「……分かった、頼む!」

 ボクの返事を背中で聞きながら、司令部の大きな掃き出し窓を開け放った舎利寺が、バルコニーへと躍り出た。ボクの特製改良型ウイングが湾内の潮風を捕まえ、ぶわりと膨れて彼の巨体を持ち上げ宙に浮かせる。そして矢のようにすっ飛んで行って、やがて見えなくなった。

「アマタノフカシサザレヒメのことは、舎利寺君を頼るしかない。すぐに周辺の人間を避難させろ、GPAC全面封鎖! 防衛体制をとるのだ!」

「はっ!」

「アレは、まだ使えないのか」

「申し訳ございません、まだ最終調整が……オーサカシティ労働安全衛生法安全作業規則第九条に抵触してしまいます」

「む……やむを得んな、ジェミニを出せ! 私がゆく!」

「ま、待て……!」

「マノ!?」

「マノさん……!」


 そのとき、司令室に満身創痍のマノがやって来た。額から流れた血を拭いもせず、顔面もボコボコのまま、ふらつく足取りでクリス大佐の行く手を遮った。いつもの飄々として明るい彼とは別人のようだ。

「クリス、僕も行くぞ……!」

「バカなことを、その体では無理だ!」

「そうよ、あなた死んじゃうわよ!」

「あぶくちゃん……でも、僕には戦うことしか出来ないんだよ」

「マノさん……」

「ミロクちゃん、舎利寺を決して死なせはしない。サンガネ、大事な友達がたった一人で飛び出して行ったのに、僕だけ待ってろと言うつもりか。マト、ミンミ、そしてニャミ……見ててくれ、僕だって兄さんみたいに戦える!」

「……」

「クリス。忘れたとは言わせないぞ……僕をこんな風に育てたのは、あんただったはずだ……!」

「よかろう。ついて来い、コッチだ!」


 そのころ、舎利寺はアマタノフカシサザレヒメを探して、UWTBの広大な敷地を滑るように飛んでいた。彼の動体センサーにはアマタノフカシサザレヒメの持つ強力な生命エネルギーが反応しており、それを必死で追いかけていた。しかし、おかの上でも元は人魚族の姫君だけあって、その強力な術は彼女を追跡するだけで精いっぱいであった。

 いっぽう、恐ろしく強烈かつ凶悪な反応が海から迫っていた。

 深海の魔王がアマタノフカシサザレヒメを狙ってオーサカに上陸しようとしている。このままでは、彼女はクラーケンの餌食になってしまう!

「……むっ! アイツか!」

 舎利寺のアイセンサーが水面をのたうつ巨大な白い触手を捉えた。本体は水面下に居るらしい。

「居たぞ、クラーケンだ! アマタノフカシサザレヒメは何か術を使っている、追いつけない……!」

「舎利寺君、クリスだ! 攻撃を許可する。クラーケンを彼女に近づけるな!」

「了解!!」

「我々もすぐに行く、頼んだぞ!」


 UWTBの地下深くに造られた海底基地の最奥に、美しい銀色の戦闘機が鎮座していた。回転式の巨大なエレベーターの台座に腰かけた双子座の使いが、二人の宇宙人を待っている。

「これは二人乗りだが、いざとなれば分離して飛行できる。覚えておけ」

「だから双子ジェミニか、洒落てるね……あんたのセンスかい?」

 流線型のボディに丸っこい翼の生えたジェミニに二人が乗り込むと、エレベーターがゆっくりと上昇し始めた。台座が時計回りに回転し、赤いランプが青へと変わる。やがて発進ゲートに到着すると、今度は機体をゆっくりと運んで行く。鉄骨と鉄骨とを縦、横、斜めに複雑に組み上げられた武骨なアラベスク模様を縫うように

 Forcegate open!!

 Forcegate open!!

 と、基地に鳴り響くアナウンス。

 まず縦方向に、次いで横方向に開くゲート。そしてジェミニのエンジンに火が点いたのを見届けて

 All right Let's go!!

 の合図と共に、轟音を上げてジェミニが飛び立った。オーサカシティの空へ。


 そして、海へ。



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