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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
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51.


「さて。まず何を置いても、ミンミさんにマト。そしてニャミ。君たちには本当に済まないことをした……もし、君たちさえよければだが、帰るあてもないのならオーサカに住むといい。衣食住は保証するし、仕事も用意しよう」

「本当ですか、いいんですひん!?」

「勿論だ。私にも、そのぐらいの権限はある……辛い思いをさせてしまった場所だが、そんなに悪い人達ばかりじゃない。どうか受け入れてはくれまいか」

「ありがとうございまひん。マト、ニャミ、おうちが見つかりますひん」

「うん!」

 ニャミは重厚なソファの上に置かれたゆりかごの中でニコニコしている。


 ここはUWTBの総合本部ビルにあるクリスの執務室の一部を使った、彼の私室だった。

 はからずもマノ、クリス、アマタノフカシサザレヒメ改めサメちゃんが揃い踏みを果たしたのは、この広大な敷地の片隅に設けられた申し訳程度の緑地だった。

 それでは落ち着いて話も出来ないというので、あの場に居た全員で此処へ案内されて来たというわけだ。当然ながら

「クリス。僕をこんなところに招き入れて、一体どういうつもりだ?」

「私のやり方は君が一番よく知っているだろう? そうだ、君のやり方だ。そいつを誰に叩き込まれたか、よもや忘れてはいるまいな?」

「ココで騙し討ちになんか、しないってことか」

 つまりボクたちは今、敵の本拠地のド真ん中に揃い踏みしているということになる。

「押忍。クリス大佐、自分は生野区におりました舎利寺と申します。先ほどから大佐の行動を見ておりましたが、とても我々と対立すべき御方とは思えません。何故あなたが、それもマノがこれほどまでに畏れ、敬う人物が、一心会に与しているのか」

「舎利寺君か。クリスだ、よろしく。漸くマトモで丁寧な人間が出て来たな。確かに君たちの言い分は私にも聞こえている。だが、やはり私たちと君たちとは相容れないようだ」

「しかし!」

 食い下がる舎利寺の巨体を、片手をすいと上げたクリスが有無を言わさぬ間合いで柔らかく確実に制しながら話を続けた。

「いい機会だ。君の友人の、そのまた友人の昔話を少し聞いてくれないか」


 私の故郷は、君たちの良き友たるマノから聞いた通りヴェンデルという惑星だった。彼は別の惑星からやって来たが、私は生粋のヴェンデル星人だ……まあ、今となってはどうということはない。彼の故郷も、ヴェンデルも、とうになくなってしまったのだからな。

 故郷が滅びたとき。まだ私はヴェンデルに居た。そして惑星崩壊と同時に巻き起こった時空のひずみに巻き込まれ、そのまま消滅したのだ。そう、その時点での宇宙から──

「すると、あなたは別の時空からやって来たということなのですか?」

 ボクが思わず口を挟むと、クリス大佐はそれに答えながら話を続けた。


「そういうことになるかな。宇宙を彷徨い続け辿り着いたのは、この地球だった。そして、この星の暦や歴史、宇宙に関する資料などを当たったところ……私の生きていた頃からおよそ一万数千年という月日が流れていたことがわかった」

「どーりで老けてないわけだ」

「そりゃどうも」

 かつての教え子から冷やかされても軽くいなして、さらに続ける。


「この星に辿り着き、この星を知れば知るほど、私は地球が好きになった。何処かヴェンデルの面影を感じるからかもしれない。地球の人々に救われ、地球で生きることを許された私は、このオーサカに新たな秩序と文化を築き上げ、平和な世界を作るのだと、心に決めた。そのために戦って来た。そのために勝利を積み重ね、それをもって私は地球の皆さんに報いて来たつもりだ。そしてこのUWTBを任されたことでさらなる進化を……」「やめろ!」


 熱を帯びて来たクリス大佐の演説を、マノが遮った。


「クリス。あんたは本当にお人好しだな。昔からそうだった。戦いになれば冷酷非情だが、根っこの部分は素直で、人を疑うことも無い。あんたは確かに一心会に命を救われたか知らないが、その救ってもらったつもりの命は、奴等にとっちゃ単なる手駒……いや数ある捨て駒のストックのひとつに過ぎないんだぞ。わからないのか、ここにいる舎利寺の元いた組織だってそうだ。その次も。みんなあれだけ持ち上げ、好き放題させておいて、何かあったら知らん顔をして埋められてしまう。クリス、このままじゃ、あんたもそうなるんだ……目を覚ませ!」

「捨て駒か。すると……君が私を打ち負かす、ということになるな」

 クリス大佐の猛禽類のような眼差しが一気に鋭く、冷たくなった。

「そうだ。だから、僕はあんたに会いたかったけど、心の底じゃあ会うのが本当に嫌だった。お姫様の言う通りさ。怖かったんだよ。そうじゃなきゃ、二度とあんたと戦いたいなんて思わないさ」

「それでも手向かうというのか」

「あんたにそう教わったもんでね」



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