表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/90

49.

「で、でも……」

「だってそうじゃない、きっとそうよ!」

「それにしちゃあ、ラフな服装じゃないか」

「それはそうだけど」


 ボクたちが疑問に思うことはふたつ。ひとつは、このムッチリとした女性の正体。それがもしボクらの想像通りだったとしたら、もうひとつ。あまりにも服装がラフ過ぎる。少なくとも数万年生きているであろう深海の人魚姫にしては。二十代半ばの人間の女の子なら年相応なのだろうが、上下とも黒のオーバーサイズでダブダブのパンツとシャツを着て、シャツにはダークブラウンのサスペンダーのバックルだけが飾りで付いている。動くとたまにそれがカチャカチャと音を立てるのだ。

 

「むっ!」

「どうした?」

「妙じゃな。禍々しい……何か、禍々しいものが近づいておる。彼岸と此岸の狭間が揺れておるわ」

「大丈夫なのか」

「ふふん、この程度の邪念で乱れるような儂ではないわい。安心せい。じゃが、クリス。念には念じゃ。警戒せい」

「承知した!」

 クリスが手元の端末で何かを打ち込み始めても、彼女は構わず詠唱を続けた。そして生命の漣は相変わらずミンミの半身をうしおで満たし、彼女の魂を甦らせんと揺れていた。


「うーーん……」

「あっ、おかあちゃーん!」

 母親の無事を知ったニャミが、ゆりかごの中でウニャーっと笑って、小さな両手をパタパタ振った。

「あっ、ここは……? 私は確か……ああ」

 自分に起こった出来事を思い出し、再びショックを受けてしまったようだ。

「済まない。私はこのUWTBの支配人、ヴィック・クリス大佐だ。部下が大変申し訳ないことをした……」

「こりゃ。待たんか、クリス。先ずは子供たちと引き合わせるのが先じゃ」

「おかあちゃん!」

「ミンミさん、この人がマトも、あなたのことも治してくれたんですよ!」

 ミロクちゃんがニャミのゆりかごを抱えて、ミンミの傍らに落ちつけた。

「ああ……ああ、良かったですひん。二人とも無事だった……? マト、何処も痛くない?」

「うん!」

「ありがとうございまひん、ありがとうございまひん……!」

 起き上がってちょこんと正座したミンミが地面にオデコを擦りつけるように震えながら礼を述べる。そしてクリス大佐は遂に彼女の名を呼んだ。

「取り返しのつかないことになるところだった……みんな、彼女のおかげだ。なあ、アマタノフカシサザレヒメ」

「うむ、苦しゅうないぞえ」

(やっぱり……!)

 アマタノフカシサザレヒメはわざとらしくふんぞり返ったが、その笑顔は優しく慈愛に満ちていた。


「サンガネー!」

「オイ、みんな無事か!?」

「あっ、マノ!」

「舎利寺さん!」

 その時。マノと舎利寺が血相を変えて飛び込んで来た。

「良かった、マノ、ほらこの人達が」

「クリス!!」

 走り込んだ勢いのまま、マノがクリス大佐に飛び掛かった。

「部下に一体どんな教育をしている!? このオーサカの毒に染まって、あんたまで腐れ外道になっちまったのか!?」

「待って、マノ、この人は」

「黙ってろ、サンガネ! おい、答えろ!!」

「……!」

「さっきあんたの部下とすれ違って、僕たちは足止めされたんだ。明らかにイチャモンだ。ヨソモンだのコジキの母子だのウダウダ言うんでちょっとお話をしてみたら……」

(一体どんな「お話」をしたんだろうか)

「あの腐れバカ野郎、この母子を半殺しの目に遭わせた挙句、得意満面で居やがった。僕らが目を離したばっかりに……僕は、僕は……ヴェンデルが滅んだと聞いてからも、ずっとあんたの元で鍛えられたことを誇りに思っていたんだ。でも、だけど、それも、今日限り!!」

 言うが早いか、マノの鋭い左ストレートがクリス大佐の顔面にクリーンヒットした。まるで岩と岩がぶつかったような音がして、クリス大佐がタイルの上をふたつ、みっつとすっ飛んで行った。

「ずっと迷ってた……あんたに会えるなら会いたかった、でも、あんたと戦うのは嫌だった。怖かった。今回ばかりは自分の運命を呪った。でも、もういい! ここまで落ちぶれて腐り果てたあんたなら、僕がこの手で引導を」


「待って、待ってくだひん!」

 やおら立ち上がったミンミが粗末な衣服の裾を両手でぎゅっと掴んだまま、倒れたクリス大佐に駆け寄って叫んだ。

「ごめんなひん、私たちが来たから……いえ私が、なんにも知らずにここで勝手にお店なんか開いたから、皆さんにご迷惑をおかけしているんですひん。悪いのは私ですひん。あの何にもなくなった田舎に引っ込んで、空っぽになった湖と一緒に静かに暮らしますひん。二度とオーサカにも来まひん、もう、もう何処にも行きまひん。だから……もう許してくだひん。つらい……こんな……玉桃やタマリンドを、美味しい果物を食べて欲しかった……折角、心を込めて育てたから、沢山お客さんの居る所へ行って、みんなに食べて欲しかっただけなのに。こんなことに……子供たちまで。もう、もう私は、この先どうして行けばいいんですひん……ひん、ひん……」

「これ、マノとやら!」

 すっくと立ちあがったアマタノフカシサザレヒメがマノをキッと睨んだ。

「お主のウワサは聞いておるぞえ。クリスと同じ宇宙人で、腕に覚えがあるようじゃの。じゃが、未熟にも程がある! このうつけものめ、何故この子たちを、か弱い者の身を先ず案じぬのじゃ! 怒りに任せて暴れていては、お主もあの痴れ者と変わらぬではないか。お主、まだクリスが怖いと申したな。だから理由を見つけて、そこに怒りを乗せたうえで奇襲をかけた。そのまま押し切ってしまうつもりだったのであろう! それがオーサカを、文化を守る男のすることかえ!?」

 ハッキリとした顔のアマタノフカシサザレヒメが怒気を孕んだ表情を見せると迫力がある。タジタジのマノに向かってなおも畳みかけようとした。そのとき──


「ウノさん!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ