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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO

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54/90

31.

 舎利寺によれば、現在オーサカに蔓延る文化粛清組織はマノが壊滅させた生野区のブリッヂクレインを含め、大きく分けて5つ。

 残っているのは大正、西成、此花、そして阿倍野・天王寺。

 租界の勢力と対立しているそれら組織それぞれに首魁がおり、さらに下部組織や末端の構成員が存在する。

 オーサカ・シティ・プレジデント、略称O.C.Pと呼ばれる現在のオーサカ市長・谷町スリーナインはオーサカ府知事ブラウン日本橋を目の敵にし、事あるごとに実権を奪い自らの権力を高めていた。


 そして大正区に展開する環オーサカ文化粛清軍クソデカジャスティスなる集団がオーサカシティ健全文化振興推進互助団体としてO.C.Pならびに独立オーサカ一心会より表彰を受け、補助金の交付を受けることが発表され、それを受けた決起集会が行われるという情報が、クソデカジャスティスの本拠地である千島団地に潜入していた舎利寺の仲間であるネジリモトなる男からもたらされたが……ネジリモトは最後に断末魔の通信を残して消息不明となった。


 そこでマノが千島団地の決起集会に紛れ込み、その実態を掴むことになったのだけれど……。


「いんふるえんさあ、だとお?」

 Cafe de 鬼の窓際のいつもの席でミロクちゃん特製の砂糖抜きスパイスマシマシチャイをすすっていたマノが素焼きのカップから顔を上げ素っ頓狂な声を出した。

「クソデカジャスティスが千島団地に一般の人々を誘導するのに利用しているんだ。要するに、お金を払って褒めてもらって、それを、こんなに評価されていますよ!! と宣伝したり実績のように誇示して煽るわけだね」

 手に持ったカップを机に置いたマノが鼻を鳴らして会話を続ける。

「褒めたって称えたって団地は団地だろう、そんなことで住みに来るような奴が居るのか」

「居るんだな、これが。といっても、住民としてやって来る連中の中にも飯のタネ目当てのインフルエンサーが紛れ込んでるし、純然たる住民や本当に踊らされて住み着いた人がどれだけいるのか、正確なところはわからないけど」

「全く、誰かがレビューをしてないとメシを食う店も決められなきゃ住まいすら見つけられないのか」

「それだけ旧来の良くも悪くも土着的で、地に足のついた生活基盤と文化が失われてしまっているんだ」

「それで、どうして僕が」

 腑に落ちない様子でボコボコと音を立ててシーシャの煙を吸い込んだマノが天井に向かってフワーっと吐き出した。

「マノ。今の君はオーサカじゃ評判の歩く最終兵器だ。そのまま行ったんじゃ千島公園どころか大正区内に足を踏み入れることすら難しいだろう。だから潜入するんだ」

「理屈はわかるがなあ……」

「それに決起集会に参加している人々の殆どはクソデカジャスティスに支配されているか、洗脳されているだけの善良な市民だ。彼らと戦闘することは避けたいし、命は守らなくちゃならない」

「いやしかしだなあ……」

「千島団地で何が行われているのか、その実験の成果も発表されると思われる……勿論、表沙汰に出来るようなものだけだろうけど。もしそれが凶悪な破壊兵器だったとしたら」

「最終兵器VS破壊兵器か」

「そういうことになるね……だけど、それは極力避けたい。なるべく穏便に、隠密に調査をしてもらいたいんだ」

「そう上手くいくかなあ……」


 敵の本拠地に乗り込むというのに、一向にマノの士気が上がらないのにはわけがあった。彼にインフルエンサーとして潜入して欲しい、と依頼して来た人物が居るからだ。

 ボクだ。

 常々思っていたのだが、マノは意外と頑固で古風な考え方を持っている。それ自体は、租界ココで暮らすのに不都合なことも特にないし構わない。ボクだって言えた義理じゃない。だからこそ、その真逆の性質を持つ連中……つまり

「いつだって誰かの羨望の眼差しを浴びながら、キラキラと絵に描いたような暮らしを送る、何者かになった自分」

 に酔い痴れているような奴等の中に、正真正銘ホンモノの宇宙人である彼を放り込んだらどうなるのか。それが知りたかったし、見てみたい。


 だって面白そうじゃない。


 翌日。

 約束の時間に、マノはcafe de 鬼へやって来た。

 濃いグレーに白いストライプの入ったスーツから真っ白なシャツを覗かせ、黒光りする革靴を履き、長い髪の毛は背中でざっと束ねている。

「似合うよ、マノ!」

「そうかあ?」

 182センチ75キロで筋骨隆々の体躯を誇るマノがストライプのスーツを着ると、シルエットがぐっと引き締まるうえに長髪と手袋が迫力を増している。

「殺し屋みたいだ」

「インフルエンサー、とやらには見えないか」

「見えない。でも、だからそれでいい」

 

 基本的にインフルエンサーになりたがる男連中は、ボクに言わせれば誰もみな同じように日焼けした細すぎる体に同じような髪型と張り付いたようなスマイルを見せびらかし、現代的かつ軽薄な青っぽいスーツか、ダブダブのシャツに輪をかけて緩いパンツに邪魔くさそうなネックレスと趣味の悪いフレーバーを漂わせてるか、のどっちかが多い。

 そしてそのどちらでも無ければ、もっとも癪に障り胸糞の悪い輩が登場することになる。顔の薄さ肌の白さイモくさい見た目だけを押し出して、なんの知識も文化への愛着もない、

「自称・オタク」

 だ。


 だからマノには、そんな奴等を威嚇し、そもそもお前らとは一線を画しているんだというのを見た目からして奴等にわからせる必要があった。口や文面じゃ最高の仲間だの、グローバルな視点を持つアジェンダを共有するみんな、だの言っているが、結局は張り付いた笑顔のままテーブルの下で靴を踏み合っているだけだ。そんなことに構っている暇はない。

 

「あらあ、マノ! 似合うじゃないの」

 丸いトレイを両手で太ももの辺りに抱えたあぶくちゃんが声をかける。

「えっ!? そ、そそうかい? ふーんそうか」

「ほんとほんと。マノさん、カッコいいよ!」

 シーシャのフラスコの手入れをしていたミロクちゃんも同調して囃し立てる。

「そーお? いやまあストライプのスーツはね、割と好きなんだけどネ」

 あぶくちゃんとミロクちゃんから立て続けに褒められただけで、仏頂面だったのがもうすっかりその気になっている。わかりやすい人だ。

 

 あぶくちゃんの店を出たマノが、白昼のオタロードを都会派の死神か殺し屋みたいな恰好で歩き出す。ラボに戻ったボクはモニターの前で通信機のテストも兼ねて、打ち合わせの続きを始めた。

「はてさて……じゃあ、マノ。先ずは千島公園に向かってくれ。スーツの内ポケットにカマボコ板が入ってるから、奴等の持ってる端末みたく使ってくれていい……けど大事にしてくれよ。それとネクタイピンが小型カメラつき通信機・発信機になってる。これでコチラも映像を見ているし、音声も拾ってるからね」

「おっ、ダブルオーセブンみたいだな」

「古典的でいいだろ? でも、あんまり女の子ばかり見てるとわかっちゃうからね。それと、舎利寺は既に団地付近に先行している。彼の体内には生体電池無線による骨伝導通話装置がセットされているから、それで連絡が可能だよ」

「便利な奴だ」

「おかげでミロクちゃんがひっきりなしに連絡してるみたいだけどね」

「おーおーアツいのぅ」

「それでね、マノ。千島団地に向かってもらう方法なんだけど……」


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