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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
49/90

26

「マノ、このままじゃ巽参轟は自分で自分を溶かしてしまう!」

「時間切れ引き分けに持ち込めばいいってことか?」

「違う! そうなる前に体内の弾薬やガスに引火して、結局ぜーんぶ爆発するんだ!! どうにかして奴の暴走と過熱を止めるしかない……!」

「無茶言うな!」

「無茶でもやるんだ!! じゃないとボクたちも、お店も広場も、あぶくちゃんも木端微塵になってしまう。君しかいないんだ、頼む!!」


「こんちくしょう! このまま壊したって爆発する、このまま放っておいても爆発する……どうしろってんだ!!」

 マノは赤熱した巽参轟を食い止めるべく、とにかく奴に組みついたまま抑え込もうとした。だが超高温のボディと、内部で暴走する蒸気を制御しきれなくなってきている巽参轟の動作は凄まじく、流石のマノも苦戦を強いられている。


 頑丈な深紅の表皮も、岩のような手も、表面張力の限界まで膨れ上がった全身の筋肉も、触れるそばから白煙を上げて焼けてしまう。

 このままじゃコイツが爆発するよりも、マノ自身が持たない。


「ボイラやったら蒸気を抜かんでも、冷やしたったら圧力は下がりまんな」

「せやな、穴なんか開けよったら酸素が入って余計よけ危ないわ」

「ほないっちょ冷やしたりましょか。止まったとこで壊したらよろしがな」

「サンガネ、ポンバシのアマリージョやったら冷凍弾ぐらい持ってへんかな」

「なるほど博士なら……!」

「待っとれよ! 今、用意したるからな!!」


 雁首揃えて評定していた店主たちが慌ただしくほうぼうに散らばった。車両を用意するひと、博士に連絡を入れているひと、弾薬を格納し運搬するためのロープや小型コンテナを用意しているひと……こういう時に本職の商売人はハナシが早い。


 一方その頃マノは、どうにか巽参轟の前進を食い止めていた。倒れたままの舎利寺を、そしてそのさらに先に居るボクたちを、何よりもあぶくちゃんを、守らなきゃいけない。

「マノさあん!」

 そこへ、ミロクちゃんの悲痛な叫びが響いた。

「お願い、舎利寺さんを助けてあげて! その人は確かに乱暴で、あなたの大好きな人を危ない目に遭わせた……でも、だけど、私にとっては命の恩人なの! だから、お願い!!」

 お願い、お願いします……力尽きてへたり込むミロクちゃんの声が震え、血に染まった青白い頬に雫がこぼれた。

「……!」

 マノは振り向きもせず、ただ背中を向けたまま大きく頷いた。


 赤熱と発光をさらに強める巽参轟が再び甲高い雄たけびを上げる。体内の温度が急激に上昇したせいで耐熱限界を超えつつあり、もはや溶融も時間の問題となった。

「ぐあああああああ……!」

 あまりの熱にマノが叫ぶ。しかし、この手を離せば、この場で踏みとどまらなければ、この超高熱の蒸気爆弾は暴走し、商店街を蹂躙してボクたちも踏みつぶして焼き殺し、どこかで臨界を迎え大爆発する。


「さ、サンガネェェェェェ!」

「マノ……!」

「まずい、もう持たない……エネルギーが……」

「ちょっと、マノどうしちゃったの!?」

「マノは巨大化すると猛烈にエネルギーを消耗するんだ。いま、彼に残されたエネルギーは僅か……気合だけで踏ん張ってる」

「エネルギーが切れたら……?」

「……その時がボクたちの最期だ」


「間に合ったか!?」

「ようさんうて来たでえ!」

「流石のアマリージョも品切れやっちゅうとったわ」

「サンガネ! ありったけの冷凍弾、持ってきたさかいにな!」

「みんな……ありがとう!」

「こんだけあったら原子力発電所でも止めれるんちゃいまっか」

「んなわけあるかい、けどあのカイブツのボイラーを止めるぐらいなら十分じゃ」

「これで組合の来年度の予算はゼロや」

「来年度があれば、の話やけどな」

「問題は、どうやってあのカイブツにぶつけるかだな……」


「押忍……オレに、オレにやらせてください……!」


 その声を聞いて全員が目を見開いた。突っ伏していたと思われた舎利寺だったが、少しずつ、少しずつ、指先で這いずるようにこちらに向かって来ていたのだ。

 その声を聞いたミロクちゃんが俄かに立ち上がると、傷の手当も振り切って彼の胸元に飛び込んで、立ち上がろうとする舎利寺の肩を支えるが二人とも満身創痍で、もつれあうように倒れてしまう。

「舎利寺さん……! 舎利寺さん!!」

「き、君は! ……すまなかった。聞いてたぜ……あの、紅いのが……さっきの奴、なんだろ……? オレは、罪滅ぼしがしたい、なあ、頼む。冷凍弾そいつをオレに、預けて……くれ……」

 全身の傷口から噴き出す血潮に構いもせず、真っ赤になった歯を鬼の形相で食いしばって今度こそ舎利寺が立ち上がり、震える腕で店主たちのかき集めた冷凍弾を受け取るとそれを体中に巻き付け、背負い、両手に抱えて歩き始めた。ミロクちゃんや店主たちも、彼の真剣さに呑まれてそれを手伝った。


「押忍……ありがとうよ……親切だな。あばよ」

「舎利寺さん……どうして」

 よろよろと歩き出しながら、振り返らずに舎利寺が答えた。

「と・も・だ・ち・の・た・め・だ……!」


 全身全霊で巽参轟を食い止め続けていたマノは限界を迎えていた。

 そして全身にエネルギーを充満させた巽参轟も臨界を迎えていた。

 橙色だった発光部分が白熱し、まばゆい光を放ち始めている。しかし熱によって駆動部にも狂いが出たのか、痙攣するような動きを見せ始め前進が鈍っている。胸板を焦がしながら、よろめいたマノが巽参轟から半歩下がって態勢を整えようとした、その時。

 全身に冷凍弾を纏った舎利寺が叫ぶ。

「くそ……ダメだ。目の前が、暗くなって来やがった。ちくしょう……マノ!! 居るかあ」

「居るぜ」

「オレを、オレをそのデカブツにぶつけるんだ。たらふく、冷凍弾を……お見舞いしてやるからよ。なあ、それで、トドメは……アンタが刺すんだ」

「馬鹿野郎……わかったよ。やってやる!」

 風に舞う洗濯物がふわり、と浮かぶように、力なくつんのめって倒れようとする舎利寺をマノが掴んで持ち上げる。


「マノ……」

「行くぞ」

「ああ。オレたちは……」

 舎利寺の言葉を待たずして、マノは巽参轟に向かって思い切り振りかぶり、舎利寺ごと冷凍弾を投げつけた。が、しかし──

「機械仕掛けの、ガラクタ野郎は、お前だけじゃねえ……!」

 舎利寺の全身を覆っていた黒いロングコートが千切れ飛び、中から現れたのは青白い人工皮膚とメカニカル換装された上半身。背中からはバーニアが姿を現し、ロケット噴射でさらに加速をつけていった。


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