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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
47/90

24.

 今日、舎利寺は生まれて初めて喧嘩に負けた。これまで負けなしで、誰の前にも跪いたことなど無かった。だが今日、初めて負けた。あの男……マノと呼ばれる長髪の男は恐ろしく強かったが、周囲の敵味方を無用にいたぶるような真似はしなかった。それに比べて……。


 舎利寺の脳裏に、あのとき薄れてゆく意識の中で脳裏に響いて刻まれた、マノと呼ばれる男の言葉がこだまする。

「友達になれたかも知れないのにな。友達になれたかもしれないのにな。友達になれたかも……友達に……」

 友達……ともだち……と も だ ち──


 自分は、ついてゆく人間を見誤っていたのではないだろうか。


「おおおおおおおおおああああぁ!」

 突然、雄叫びをあげて舎利寺が体を起こし、地面に手をついて器用に自分で自分の外れた肘をはめ直した。激痛に顔をゆがめつつもそのまま立ち上がり、疾風のように走り出し、真っすぐ総統の元へ。


「そぉだ、舎利寺! それでい……い!?」

 舎利寺の丸太のような左腕が、迷うことなく総統の首っ玉をとらえて引きずり倒した。舎利寺は当たると同時に飛び上がり、そのまま全体重を総統の首に引っ掛けた左腕に預けて倒れ込む。

「ら、ランニングネックブリーカードロップ!」

「さっき自分が喰らったんを、味方に喰らわしよったで!?」


「逃げろ……さあ!」

 大量の出血と全身のダメージが舎利寺の肉体をじわじわと蝕んでいた。だが、せめて、この女性だけでも助けなければ……!

 あまりの事態に驚き、おののく戦闘員どもを睨みつけ、ミロクちゃんの手を掴んで起き上がらせた。ハッと気が付いたミロクちゃんを促すように突き飛ばし、「走れ!!」と背中で叫ぶ舎利寺。

「ミロクちゃん、早く!!」

「こっちこっち!」

 ボクとあぶくちゃんが懸命に彼女を呼ぶ。そして舎利寺の手は、総統の手からこぼれたメガホンを掴む。


「ふん!!」

 両手で掴んだメガホンをひねりながら折り曲げて、めきめきバキバキと音を立てて畳んでゆく。回路が、基盤が、発信機が、みるみるうちにガラクタになる。

 それと同時に、マノに担ぎ上げられたままの巽参轟の体からみるみるうちに力が抜けてゆく。


「そ、そうは……行くかいぃ……!」

 そこへ響く銃声が一発。総統の懐から取り出された古めかしい拳銃から打ち出された弾丸が舎利寺の背中に命中して、血しぶきをあげて皮膚と筋肉を食い破って焦がす。

「死ね、死ね、死ねええ!」

 完全に錯乱した総統に乱射された弾丸が周囲に跳ね返り、それは裏切り者の舎利寺のみならず取り巻き共をも脅かした。


「へへ、へへへへ……裏切り者めぇ、文化の敵は、死ぬのだぁ」

 ぜぃぜぃと荒い息をつき、血の混じった涎を垂らしながら、真っ赤な目玉を見開いて総統が笑う。

「やれええぃ!」

 銃弾を喰らった舎利寺に向かって生き残った戦闘員が走り寄り、ゲバ棒を振りかざす。それで打ち据えるのかと思いきや、実は刃物が仕込んであった。ドスのようなそれが分厚い肉体を誇る舎利寺の脇腹、背中、そして胸板に深々と差し込まれてゆく。


「舎利寺―!」

「舎利寺!!」

 ボクとマノは殆ど同時に彼の名を叫んだ。

 棒立ちのまま全身から血を噴き出し、再び黄昏を迎えつつある意識の底へ沈みゆく舎利寺の巨体が地面に吸い込まれるようにゆっくりと倒れていった。


 それにしても。自分より力の弱い人々だけじゃなく、力の弱ったものまで集団で手に掛けるとは。しかも自分は相変わらず怒鳴り散らすだけ。見下げ果てた奴だ。そんな、今この場に居るボクたちみんながハラワタで煮えくり返らせた怒りを、全身で浴びながら仁王立ちする男が居た。


「この腐れ外道!!」

 怒り心頭のマノが巽参轟を放り投げる。それは地面に向かってではなく、地面に立っている総統と、以下数名の取り巻きに向かって。

「わあーっ!」

「そ、総統! 早くこいつを……」

「助けてくださあい!」


「ば、馬鹿者ぉ、これしきのこと……!」

 体の小ささが幸いしてか、間一髪、直撃を免れた総統が倒れ伏した巽参轟と瓦礫の山から這う這うの体で逃げ出して来た。

「悪運の強い奴め、だが逃がさんぞ!」

 マノの巨大な足が総統を追いかけてズンと進む。ズシン、ズシン、と迫りくる威容に総統の顔は青ざめ、汗と涙と飛び散る涎が止めどなく流れでる。


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