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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
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21

 環オーサカ文化粛清軍ブリッヂクレインの誇る巨大兵器・巽参轟たつみ・さんごうも体格や威容では負けていなかった。丸っこい、殆ど球体に近いボディから短い脚がふたつ。側面にはやはり短い腕がふたつ。頭は球体のてっぺんではなく前方に、四つ足の動物か魚のように突き出す形でついている。

 顔を挟んでビスで打たれた球体ボディの溝に沿うように縦に三つ並んだ二列の小さい砲台と、短い腕の先についた大きい砲台、さらに顔面のアイセンサーからは虹色に発光する破壊光線と、口から吐き出す火炎攻撃が武器だ。


「えらいこっちゃ……」

「昔のカイジュー映画でも見とるんちゃうか、ワシら」

「せやせや。子供の時分よぉ見に行ったわ」

「スピカ座やろ、ワシも行ったなあ」

「あそこのオッサン元気かのお」

 

 機械が作動し無数の部品が蠢き合い軋む音が、まるで巨大な怪獣の咆哮のように広場の空気を切り裂いてゆく。巨大な深紅の超人と化したマノは臆することなく身構えて、怒声一発のちにその丸っこい巨大兵器・巽参轟に向かって駆け出した。

「だぁーっ!」

 飛び上がって両足を揃え、巽参轟の左の肩口あたりを蹴り込んだ。が、身じろぐだけで動じない巽参轟が半歩下がり、尖った口を大きく開いて真っ赤な炎を吐き出した。

 轟々と音を立てて、丸っこい体の何処かに充填された可燃性ガスが火花にふれて燃え上がる。それがドロップキックを受け止められて地面に横たわるマノの全身を包んで焦がす。


「わあーっ! あちちち!!」

 転げ回って炎の渦から逃れたマノが素早く立ち上がり、追撃の火炎放射をさらに高く飛んで交わす。が、ひと呼吸おいた巽参轟の射出口がさらにマノを追いかけて上を向く。

 平和な桃谷商店街の空に黒煙をまとって炎が燃える。その渦の中に再び飲まれたマノが墜落して、地響きを起こす。

「マノ!」

「サンガネ、それ消火栓とかついてないの!?」

「無茶言わないでよ……!」


 よろよろ、っと立ち上がったマノに向かって巽参轟の丸っこい巨体がブチ当たり、広場の端まで吹っ飛ばす。石畳に背中を強打し、めくれ上がったタイルが脈打つ肉体に食い込んでいる。その上から巽参轟の短く太く重い足が、マノの胸板を圧し潰そうとする。すんでのところでそれを受け止め、扁平な足の裏から抱えるように踏ん張って、押し返そうとするマノ。さらに力を加えてゆく巽参轟。

 

「マノが危ない……!」

「ねえ、あのロボット。どうやって動いてるのかなあ」

「そうね。それがわかればサンガネでも壊せるんじゃない?」

 ミロクちゃんとあぶくちゃんの会話が、焦りを募らせるぼくの耳に滑り込む。そうだ、動力と指令系統だ。見たところ誰かが操縦しているわけじゃなさそうだけど、かといって自立型人工頭脳を搭載したオートメーションでもない。ということは……!


「ハァーハッハッハッハァ! やれぃ、潰せぃ、殺せ……殺せぇい!」

 ピーガー、ピーピーとハウリングを起こし、総統の拡声器が唸る。あれだ!!

「ミロクちゃん、あぶくちゃん、わかったよ! あいつだ、あいつが持ってる拡声器メガホンだ!」

「じゃあ、あの小さい人の注意を逸らせば……!」

「あのうるさい奴からメガホンが奪えるかも!」

 二人とも美人だが性格の違いが良く出ている。が、その通りだ。


「マノさん……じゃあ、ちょっと待ってて!」

「あっ、待って!」

「ミロクちゃん!!」

「おい、シーシャ屋の姉ちゃんが走ってったぞ!」

「おーい戻れ!! 危ないぞう!」


 長い髪を振り乱し、爆炎の逆巻く広場を突っ走るミロクちゃん。

 しなやかな手足が吹き飛んだタイルも、立ち込める土煙も振り払うようにして、総統の潜む瓦礫に向かってゆく。ボクはそんな彼女の姿を見ても、タブレットを握り締めて震えていることしか出来なかった。その液晶の中では、今にも踏み潰されそうなマノ。

 親友になったはずだった。ふとしたきっかけでボクはマノと知り合い、そして命を救われ、今では共にオーサカの文化を守るために戦っていた。いや、それを頼んだのは外ならぬボクだった。


 それなのに。


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