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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
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13.

 谷町スリーナイン、谷町スリーナイン、谷町スリーナイン……!

 連呼されるそのフレーズが空虚についた名前。具現化された空っぽの虚像。空に浮かんだ虚無の泡沫。そう、オーサカ・シチー・プレヂデントこと谷町スリーナイン。


 彼のことを知ろうと思って、普通にオーサカ市(=独立オーサカ一心会)の発行している公式資料に目を通してみると、きっと驚くことになるだろう。とにかく具体的なことが何一つ書かれていない。輝かしい経歴や積み重ねてきた業績がひとつひとつ、彼の生きた道をなぞるように羅列してあるだけなのだ。


 まるで売れてないアイドルやプロレスラーのウィキペディアみたいに。


 つまりそれはナメクジの這ったあとをなぞっているようなもので、乾いたルチン質が鈍く光るだけ。

 ナメクジの這ったあとを幾ら煌びやかに飾り立てても、乾いたルチン質は鈍く光るだけ。

 だから、本当のことを知っている人たちが生き残っているのが不都合で仕方がない。派手なわりに中身のない殻を背負ったカタツムリのはずが、殻すら持たないナメクジだと知っているから。


 アマリージョ博士は、どうもブラウン知事とスリーナインの関係を知っているようだ。

 あの権力と政治力のアスファルトを這い廻るクズ社会のナメクジがどんな道を這いずって来たのか、いずれ聞いてみることにしよう。


 何時の間にかニュース番組が終わり、端末からは青空市場のコマーシャルが流れていた。

「へえ、メルカードがあるんだ」

「なんだいメルカード、って」

「市場って言葉だよ、オーサカでもやってるんだな。それ、どこ?」

「ああ、これは旧桃谷駅商店街の方だね。ここから近いや。でも、毎日どっかしらでやってるよ。非公認のだけど」

「メルカードに公認や非公認なんてのがあるのか」

「そりゃあね。このオーサカで市民が勝手に寄り集まって何かすることなんて、基本的には一心会が認めるわけないもの。だからオーサカシティ主催の市民マーケットというやつが、いわゆる公認の市場ってことになる。それ以外が非公認の青空市場だけど……多くの場合は黙認されているんだ。何でもかんでも表立ってそこまで取り締まれないからね。……ただ」

「ただ?」

「客や店の中に一心会の連中が紛れ込んでるし、一心会の息のかかった店も出てる。組織からの横流しや、幹部たちの密会を警戒してね」

「ホンットに邪魔くさい連中だな。スパイごっこなんかヨソでやりゃあいいんだ」


「まあまあ。それでも色んなものが手に入るし、それこそ騒ぎなんか起こしたらただじゃ済まないのはみんなわかっているから、基本的には平和で楽しいものだよ」

「ほー」

「ボクのよく行く青空市場はコーヒーとか紅茶にちょっとした軽食なんかも出すワゴンが来てくれてね。天気のいい日なんか実に快適だよ」

「ほーー」

「水タバコとチャイもある」

「ほぉー」

「仔羊堂ってお店屋さんでね。そこを切り盛りしてるミロクちゃんて子がいい子で、彼女のシーシャやチャイは美味しくってさ」

「ほぉーー……!」

「クール系の美人で映画や文学にも詳しいんだ、きっとマノも」「そんないい子が居るのか、じゃあ行かなくっちゃあな! 何時に行く? どこでやってるんだ??」


 翌朝。

 結局、マノが青空市場(に出ているミロクちゃん)に興味津々なため近くでやってるところへ出掛けることになった。正直ちゃんと来るか半信半疑だったけど、本当に朝から起き出して身支度を始めた……美人が居ると思うと来るもんだなあ。


 ちょうどボクも博士に部品や資材の買い出しを頼まれていたし、何か目ぼしいものがあれば買って来よう。ただ、あのあと出前の食器を取りに来たあぶくちゃんにそのことを話すと、彼女も行ってみたいという。ただ朝は多分、起きられないから、あとで合流するってさ。

 と、マノに伝えてみようかと思ったけど、そんなことを聞いたらきっと気が気じゃなくなって市場どころでもなくなっちゃうから、黙っておいた。


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