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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
OSAKA EL.DORADO
30/90

9.

「役所の人間から企業に至るまで、ある程度の管理職から末端まで。満遍なくパーソナルセンター経由の派遣労働者にソックリ入れ替えた後はマスコミや。戦後も破壊を免れた既設の放送・報道の拠点とその通信網を乗っ取って、自分たちに都合のいいニュースや情報番組を作って流し始めた。乗っ取るかて荒っぽいことせえへんで、例によって雇い直しとクビや。新しく自分たちが作った街区にはケーブルもアンテナもタダやっちゅうて作っておいて、そこで娯楽に混じってニュースを流す。それに新聞も、電波通信が不自由になった分だけ紙で配れば読む人が増えたんで、これも重要視された。オーサカ一心会がらみの印刷には資材も優先的に回されるしな……おかげで零細の出版社や個人で発行する冊子には紙もインクも回って来えへん。そうやって資材を独占して発行した機関紙、さくらニュースっちゅうのを購読させとるんや。強制はせえへんけど、読まな話題について行かれへんし、販売員もまあ言うたらチンピラや。取ると言うまで玄関先に居座ったり暴れたり、あることないこと喚きよる。別に大したこと書いてへんで、何をしたとか何があったとか言ったところで最後には自分ら一心会を褒め称えるだけのこっちゃ。それで月にナンボっちゅうて取られるんでかなわんわ……。テレビつけても歌やバラエティかて結局は自分らの息のかかった連中を使うから、何か表現活動をするにも一心会の機嫌を損ねんようにみんな戦々恐々や。これこれココに一心会に対する揶揄が含まれとる、これはオーサカをバカにしとる、ってだけで、もうその場で裏切り者のレッテルを貼られて、悪評が回ったら仕事は来ない仲間は居なくなる。そうなったら舞台を去るか、ワシらみたく地下に潜るかや。租界に逃げ込めたらエエ方で、大概は総スカンを喰ってオーサカにすら居られへんようになって……」


「そうやってまた一体感で塗り潰した壁で街も人も囲ってしまうわけか」

「そういうこっちゃな」

「で博士、ブラウンとアンタ。そしてこのニッポンバシ周辺とのことなんだが」

「せやったな。話せば長くなるさかい、よう聞いてや」


「もうじゅうぶん長いよ、ポンバシ博士!」


「およ!? あぶくちゃん。居ったんかいな」

「居ったんやないよ、いっぺんお店に戻ってたの。ほら!」

 あぶくちゃんが銀色のオカモチからコーヒーカップとポット、それにクッキーやチョコレートを取り出して、ボクたちの前に手際よく並べてくれた。


「さっきからずーっと部屋の外に居たんだからね。けど全然ハナシが終わんないだもん!みんなもお腹空いたでしょ、これアタシのおごり。さっきのお礼もしなくちゃ、ね?」

 最後の「ね?」は、マノに向けて顔をかしげて、いかにも冗談ぽく大袈裟にウィンクをしながらの「ね?」だった。でも、この男にこんなことをして冗談では済まないというのは、短い間によくわかっている。


「あ、あっあっああああ、あぶくちゃん。ありがとう、トッテモオイシソウ、ダネ」

「マノ、呂律が回ってないよ。しっかりしてくれよ」

「あっ? ああ。ありがとう。いただくよ」

 ボクに脇腹をつっつかれたマノが姿勢を正し、わざとらしく背筋を伸ばして湯気の立つコーヒーと丸っこいクッキーを口にした。


「おっ、このクッキー美味しいな!」

「だしょぉ! アタシの手作りなんだからね。当然ですよ」

 あぶくちゃんがわざとらしく胸を張ってエバって見せる。照れ臭そうだが、実際うれしそうだ。

「相変わらず上手だね、お菓子作りは」

「せやな、絶品やで。お菓子は」

「??? どういう意味だ」

「まあまあ、マノもそのうちわかるよ」


 あぶくちゃんの登場とコーヒーとクッキーで少し場の空気が攪拌され、スっと明るくなった。こういう華やかな雰囲気と竹を割ったような性格があぶくちゃんの魅力のひとつだ。


「で、博士。アンタと府知事の友情がどうしてココと関係がある?」

「せやったな。初めワシは伊丹にあった第十三部隊駐屯地の兵器開発局に入って、そこで車両や航空機の整備や修理、それに新兵器の研究開発をしとったんや。それが、戦争が激化して戦況も悪化するとワシら裏方も戦地に飛ばされて、そこで壊れたての武器や機械、乗り物を直したり、しまいには前線に駆り出されたりして……それきり帰って来えへんかった仲間も、ようさんおった。せやからワシも遂に前線行きが決まった時は、そらもう一巻の終わりやと。短い人生やったなと思ってな。死を覚悟して、自分でこさえた武器弾薬から何からみんな持って、もう捨て鉢やで。そのまま地獄でもどこでも行ったれ! っちゅうもんで、必死こいて戦ったんや。そのワシが配属されたAssemble零ゼロの零号部隊でエースやったんが、ブラウンや」


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