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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
あぶくちゃん物語

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15/90

粘膜旅行4.

THE YELLOW MONKEYがお好きな方には、あの曲か、と思っていただけるくらい、私もあのバンドとあの曲が大好きです。過剰に、そっち方面の解釈と耽溺を示唆するものでは無いですが……。

それと文中に出て来る漢字の羅列なのか生き物の名前なのかわからないやつは、椎名誠さんのSFを読むとよく出て来ます。私は、この回みたいなお話と言うか文章の群れを考えて書き出しているときが、いちばん幸せなのです。


ちなみに、この作品。そのまま載せると、とある一言のせいで完全にまた怒られて消せって話になるので、ちょっとそこだけ直しています。牛の脳味噌のタコスのくだり。

無修正版は他所様に載せてあるので、探してみてください。

 ぶづんっ!

 と

 ばつんっ!

 と

 ぐぶちゅっ……!

 の混じり合った、複雑で湿りきって粘膜質な、嫌な音が響いた。


 そして僕の頭上から好き放題降りかかる濃黄色のドロドロした液体を浴びながら、昔、南の国で食べた牛の脳味噌のタコスを思い出す色合いと、あのぐらいの粘度。街角の屋台や露店、昼間は四六時中ずっと渋滞している交差点。屋台で焼かれる肉や野菜の香ばしい匂いと、排気ガスやキツい煙草の煙のにおいが混じり合った、遥か記憶の彼方の雑踏。

 濃い黄色が黄土色に近くなるぐらいまで濁って、そいつが緩い弾力を持ってぷるぷるしている。牛の脳味噌はスパイスが効いててウマかったが、舌でよく味わうと結構な苦みを含んでいた。一体いま僕は何を考えているのだろう。


 ぐじぐじと這いまわる百貫管虫。じわじわと広がる糜爛扇蛞蝓モドキ、頭蓋骨の内側を滑るように脳汁が乾いて固まったカスを食って分泌液で無数についた脳の傷を埋める旋盤オルタナミクロ芋虫。貸し出し用の本棚に並ぶ無数の漫画と図鑑と写真集。図鑑をめくれば昆虫図鑑。だけど見たことも聞いたこともない虫ムシむし。無数のミクロの摩訶不思議昆虫群が僕の後頭部からシビレになって背骨、尾てい骨、骨盤から太もも、脛と脹脛で二手に分かれて踝の少し上で合流して足の裏までジョワジョワと走る。気持ち悪い、気持ち悪い、逆流した虫は潮が満ちてくように膝から肩へと上ってくる。苦しさを超え、喜びも儚みも脳に刻む傍から食い荒らされ、いつか見た遠くの街並みだけがカーブミラーに反射してネオンを一つ光らせる。狭いシートのバスがタイヤをすり減らして迎えに来る。街のはずれのホテル・リバーサイド。


 てるの!? ……え、──もう!

 どこか遠くから、聞き覚えのある声が聞こえる。澄んだように高くアニメのように響くけど、甘くひび割れてるのは……お酒が好きでよく飲むせいかな。安物のスピーカーでヘヴィメタルを聴いているような高音のひび割れが、心地よく鼓膜を逆撫でして僕の意識を掻き乱し、ざわめかせて、我に返らせる。あっ、あっ、あ


「あぶくちゃん!!」

「ねえーもう! お、聞こえた? おーい」

「はーい」

「はーい、じゃないよもう! どんだけ呼んだと思ってるの」

「ごめんごめん、僕、どうしてた……?」

「覚えてないの?」

「うん、ドーマンセーマンが床一面にグルグルーって、そんで血管が破裂して壁も天井も」

「あー……そういうことね。完全に理解した」

「へ」


 ズズ、っと音がした。あぶくちゃんが姿勢を直したみたいだ。僕も同じような動き方をして、窓の下に背中を預けた。うっすらと差す月明かりが青白くて優しい。


「ずっと歌ってたよ」

「何を?」

「なんか英語の歌。あーーぉーーびーーさーーーじゅーーー、って」

「I Walk Beside Youか。そういえばその歌の事も出てきたな」

「ずっと歌ってたよ」

「だって歌いたかったんだもん」

「なんでさ」

 コツン、と薄い壁の向こうから乾いた音がした。あぶくちゃんが、壁にもたれて頭でも当てたのかも知れない。

「ずっと一緒に居たい」

「???」

「あぶくちゃんと」

「はははは」

「笑わないでよ」

「さっきまでラリって大声で歌ってた人にそんなこと言われて、笑うしか無くない?」

「幻覚のおかげで自分の、本当の気持ちに気付いたのさ」

「今更かよ、あたしの立場どーなのそれは」

「え、どゆこと」

「言わせんな」


 アハッハ、と二人して笑った。壁も床も天井も綺麗サッパリ、粗末で質素な最低限の寝台車へと元通りになってる。良かった、まだ僕は狂ってない。最後の最後のところまでは。


「ねえ、あぶくちゃん」

「んーー?」

「どこ行くの?」

「なにが?」

「僕たち。こんな狭いベッドの列車でさ」

「決まってるじゃない。粘膜旅行に行くんだよ」


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