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OSAKA EL.DORADO  作者: 佐野和哉
あぶくちゃん物語

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11/90

電波のあぶく4.

私の書く小説には、よく三重県が出て来ます。それも四日市や桑名でなく伊賀上野あたりが。

昔、好きだったとても素敵な女の子が住んでいたからです。


それはさておき道路上の治安が歓楽街や動物園よりも劣悪な愛知県では、信号待ちの列で最前列に割り込むオートバイや、クソみてえに危ない運転をするウーバーイーツなんかが多く、やりゃあしないけど小説ん中でなら何やったって捕まらない。と思って、あの時こうしてやりたい、と思ったことの3割ぐらいマシマシにしたことを、こうして小説と言い張って書いています。

東三河のウーバーイーツの9割はクソだと思う。

 ふと気づくと一瞬……ほんの数十秒ほどが経過していた。目を開けたまま気絶した挙句、白昼夢を見ていたようだ。後続車から苛立ち切ったクラクションを投げつけるように、ハンドルの中央部を何度も小突く小太りで似合わないうえにイヤミな銀縁眼鏡をかけたケチ臭い男の姿をバックミラーで見て……反射的にクルマを降りて、ツカツカと後続車の運転席側の窓に向かって歩いて行った。


「ねえ、ちょっとぉ! あたし運転なんか出来ないわよお!?」

「すぐ済む!」

「オイおたくぅ、早く前……」

 ガキンッ!

「げご!」

 ゴキッ、ドッカ!


 男が窓から顔を出して何か言おうとしたが、構わず横っ面をブン殴った。歩きながらぐっと握り締めた拳を、ケチデブ男の顔面を通過させるように振りぬく。殴る場所は停車駅じゃダメ、通過駅にしなきゃ。

 東京発の新幹線こだま号が豊橋駅に停車したらそこで力も止まってしまう。東京発の新幹線のぞみ号博多行きが豊橋駅を通過するぐらいの勢いで振り抜くんだ。ブン殴るってのは、そうやるんだ。


 面食らうのと痛みと恐怖で固まったケチデブ男の薄い前髪を引っ掴み、そのまま窓枠に額を叩きつけ、上から肘鉄を落とす。眼鏡がグシャリと割れて、ひしゃげたフレームが左の目玉をえぐるように刺さっている。鼻骨も砕けたのか汚らしい蓄膿混じりの鼻血をブゴブゴと吹き出しながら、ケチデブ男は尚も何か言おうとしていた。

 埒があかん。

 ドアを開けて首根っこを掴むと車道に引きずり出して、アスファルトの上で蹴りまわした。脇腹、脛、腿裏、背中、首筋、顔面、後頭部。蹴ったり踏んだりできる場所は全部そうした。まさに踏んだり蹴ったりだ。もはや血なのか涙なのか鼻水なのか反吐なのか、自分が垂れ流しているものが何なのかすらわからず後悔と恐怖の表情を浮かべたケチデブ男を見て、ますます腹が立って来た。そんなツラをするぐらいならエラっそーに後ろからヒトに指図などしなきゃいいものを。


 うずくまり頭を抱えるケチデブ男の後頭部に自分の左腕を回し右手でズボンのベルトを掴んだ。そのまま背中で一気に持ち上げ、逆さまに抱え上げたら跨線橋の欄干にもたれるようにして、ケチデブ男だけを線路上に叩き落とした。無言で哀れな表情を残したまま、70キロぐらいのクソ袋が一直線に落下していく。ああ、漸く気が済んだ。

 全身を駆け巡った液体重金属がヒートアップした血管をヒンヤリと冷やし、額の辺りから放熱されてゆくのがわかる。とてもいい気分だ、ああ気持ちがいい。


「ねえー終わったあ!?」

「ああ、終わったよ」

「全然すぐじゃなかった!」

「ごめんごめん、あんまりヤなツラしてたんで」

「殺したの?」

 その時、跨線橋の下でけたたましい警笛とブレーキが空気を切り裂くように響き渡った。轟音と騒音にかき消されて、何かクソ袋みたく重たい肉の塊のようなものが猛スピードで走る鉄の塊に激突して四散した音、っぽい何かもうっすら聞こえた。


「殺しちゃいないよ、死んだかもしれないけど」

「じゃあ早く行こうよ」

「どこへ?」

「三重県!」

「へ、なんでさ」

 運転席に座りなおしてギアをドライブに入れてアクセルを踏みながら、思わず笑いながら訪ねてみる。

「なんでもいいでしょ、三重県行こうよ」

「三重っても広いぜ、鳥羽も伊賀も志摩も浜島も……」

「んんーもう! 亀山まで行って考えればいいじゃないの!」

「運転するのはコッチなんだけど」

「ほらほら、いいから走る!」

「はいはい」


 言い出したら聞かないんだから。騒ぎの広がった跨線橋を後にして、何か言いたげな群衆を振り切り、クルマの前に立ちふさがった正義感の強さが死因になったオッサンを跳ね飛ばし、一路まっすぐ西へ。湾岸道路を経由して四六時中バカの一つ覚えみたく昭和の頃から渋滞している四日市、鈴鹿を通過すると亀山だ。

 トイレもメシも寄らなければそんなに時間はかからない。サービスエリアも観覧車も通り過ぎて亀山ジャンクションに差し掛かる。

 さあ、どうしようか。


「ねえ、あぶくちゃん。そろそろ亀山だよ」

 空っぽの後部座席に向かって声をかける。返事はない。遥か後方から矢のように向かって来るパトランプが、行先を暗示していたのかもしれない。

 だったら振り切るまで、何処までも行けるんだ。

 亀山ジャンクションの緑の看板には見覚えのある文字と数字と、見たことも聞いたこともない文字と数字の羅列。

 矢印は二つ。

 どっちを選ぶか。


 空っぽの後部座席に聞くまでもない。


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