第八話 決闘(柚菜視点)
絶賛書き貯め中なので一日一話か二話投稿です。
ストックたまったら更新早くなります
私の目の届く範囲で、誰かが不幸な目にあっている。その事実が私はひたすらに許せない。
偽善と思われるかもしれないが、私自身そう思われてもかまわないと思っている。自分はどうなってもかまわないから、せめて私の前では誰も苦しくてつらい思いをしてほしくない。
明らかに恐喝やカツアゲの現場を目撃してしまった私は真っ先に走り出す。
むやみに飛び出しても状況は好転しないことはわかりきっているので、死角に身を隠して、声を聞く。
「だから僕そんなお金持ってないよ…」
おそらく男たちに囲まれている少年の声だろうか、変声期が訪れていない少年特有の甲高い声が響く。少年の声が震えているのがよくわかり、今にも飛び出したくなる気持ちを抑えながら続けて話に聞き耳を立てる。
「ごちゃごちゃうるせぇなぁおい?お前がかの国内デバイスメーカー、スピカシリーズの御曹司ってことは既に分かりきってることなんだよ!いいからとっととついてこい!」
スピカシリーズといえば国内でのデバイスシェア率がトップ3を切った年はなく、去年の世界大会の協賛企業としてPCやデバイスの提供を行っていたのは有名な話だ。そんな現状日本のセールスにおいて間違いなくトップを走り続けている企業の御曹司がボディーガードもつけずにどうしてこんなところへ?
疑問は色々とあるがそんなことはさておき、こんなことしていても埒が明かない。今にも連れ去られそうな少年のもとへ駆け寄る。
「一体なにをしているんですか?嫌がっているでしょう。離してあげてください」
「ん?なんだおめぇは?随分と生意気な事言ってくれるじゃないか」
さすがにこの人数の中、無策で飛び出す私ではない。
「あなた達の行いは全て動画に保存した上で三時間後に公開されるようSNSに予約投稿済みです。あなたたちがこの子を解放するというのなら予約を取り消したいと思います。大人しく私の言うことに従ってください」
私がこういったとたん少年を取り囲んでいた大男たちが一斉にこっちを睨みつけてくる。
―――ものすごく怖い。手の震えは止まらないし、さっきから心臓がうるさくて仕方がない。でもこんなとこで引くわけにはいかない。
奥からより一層体格が大きく、腕に刺青を入れた男が出てきた。おそらくリーダー格の人間だろう。どこかで見たことがあると思ったら、ここら一体地域の一対一ルールで負けなしとクラスの人が言っていた[剛腕]のgustoneに風貌が似ている気がする。そいつにはいい噂がなく、こういたことも平気で行う連中らしいので、おそらくgustoneで確定だろう。
「これはこれは、随分とかわいらしいお嬢ちゃんだな」
場の空気をあえてずらすような発言に私は少しムッとして
「今はそんな話をしている場合じゃありません。はやくそこの男の子を解放してあげてください。さもなければあなた達は終わりです」
するとgustoneは少しだけ考えた後、私の体を舐めまわすようにじろじろと見てきた。
…不快で仕方がない。
しばらく見られた後、男は何か思いついたような顔になり、小声で仲間たちに
「おいお前ら、いつものやるぞ」
男は下品な笑いを浮かべながらこう言った。すると周りの仲間たちも同じようなニヤニヤとした笑みを浮かべる
いつもの、というのが私にはなにかよくわからないが、どうせろくでもないことなのだろう。さっきから怖くて怖くて仕方ない。今にも泣いてしまいそう。
そうして私が動けずにいるとボスの男が話しかけてくる。
「わかったわかった降参だ。この男の子は解放してやる。その代わり二つほど条件がある」
「……わかりました。条件を聞きましょう。ですがその前に男の子を解放するのが先です」
「……わかったよ。ほら受け取れ」
男の部下が男の子を半ば私に投げるような形で開放する。男の子の顔は涙やいろいろなものでぐちゃぐちゃだったが、助けが間に合ったことにひとまずの安堵を覚える。
「まず一つ目の条件だ。これはお前も提示したものだな。お前が撮影した動画の消去だ」
「ええ。わかりました。動画は消去してこの件には二度とかかわらないようにしましょう」
「物分かりが良くて助かる。だが肝心なのは二番目の条件だ」
男は笑みを無理やり押し殺したような表情をして言った。
「俺と広場にあるPCで一対一のデスマッチをしてもらう。お前が勝てば俺たちは罪を認めて警察に出頭することを約束しよう」
「あきらかにあなた方に利がある条件のように見えないのですが、本当にそれでよいのですか?」
「おいおいまだお前が負けた時のことを言ってないだろ?」
―――とても嫌な予感がする。
「決闘でお前が負けたらそこの少年の代わりにお前をもらおう。敗北した瞬間、お前は俺の女だ」
あまりにも汚い、下品な申し出に怒りがこみあげてくる。
「そんなこと認めるわけがないでしょう?条件をのむといった私が馬鹿でした。では私はこれで失礼しますね」
男の子を連れてこの場を離れようとするが、咄嗟に腕をつかまれて引き寄せられる。咄嗟の事態に頭が回らなくなる。
「おっと……逃げてもいいが、俺たちは別にお前の脅しなんて聞かずに無理やり強硬手段出ることだってできるんだぞ?」
低くドスの利いた声で男はナイフを取り出しながら言う。ほとんど初めてといってもいいほど身近に感じた死に対して震えが止まらなくなる。
「ひっ……!やめて……」
私は身動き一つすら取れなくなる。それを好機と見た男は畳みかける。
「わかったか?お前には選択肢が一つしかない。俺と決闘して、勝利する以外に道は残されてないってわけだ」
血の気がサーっと引いていく感覚がある。やるしかない。そう私に強く思わせる
「わ、わかりました……その勝負を受けます……」
「わかってるじゃねぇか。物分かりがいい奴は好きだぞ?」
こうして私は、決闘を強いられることとなったのだ。
柚菜ちゃんは人の悪意にまったくと言ってもいいほど触れてきていないのでそういうことに鈍感だったりします。国内トッププロの一人娘なんて箱入りに決まってるじゃん?
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