第七話 会遇 (柚菜視点)
柚菜の可愛さを出るだけ引き出そうと思ったら長くなりました。
とりあえず今日はこれだけです(ストックが...)
誤字脱字報告待ってます。
ーーーピピピ
恐らく3回か4回目のアラームの音で目が覚める。
元々朝が苦手な体質なので、朝起きなければいけない時は、本当に起きないといけない時間より前にもアラームをセットしておく。
1回目のアラームでは絶対起きられないので、時間までに何回も鳴らすことによって何とか目を覚ますようにしているのだ。
いつもなら起きるのにもっとかかるのに…… 何かいい事があるのかな?
まだ寝ていたいと主張している体を叩き起こして無理やりベッドから立ち上がる。
昨日夏に向けて衣替えをしたが、五月に入ったばかりということもあって朝は少し肌寒い。朝日で目が覚めるのは嫌いなので閉めているカーテンを開く。まるで何かが始まるんじゃないかってくらい清々しい天気に少しだけ気分が上がる。
「んっ………しょっ……」
大きく伸びをしながら今日何をすべきかを思いだす。
「そうだ!今日はお買い物に行く日だ。楽しみだな〜……えへへ」
昔からどこかに行って買い物をするということは好きだが、今回は前から行ってみたかった高校近くのショッピングモールに自ら赴くのだ。
高校に入ってはじめての長いお休み。そんな絶好のチャンスに行かない手はないだろう。
入学して一ヶ月も経って初めはプレイ経験がほとんどないにも関わらずe-sportsの専門学校に半ば強制的に入れられちゃって緊張していたが、すぐに馴染んで友達も………
ーーーー出来なかった。
そう、この私。一条柚菜には、
「偶然ばったり学校の子と出会っちゃったりしないかなぁ?そのまま一緒にモール内回ってお友達に……」
友達が、いないのである。
入学して早々に私はクラスで浮いてしまった。クラスのみんなが話すゲームの事は全くわからないから会話にうまく参加できず、一人で本を読んでいたら〈星姫〉なんて呼ばれるようになっていた。……私お姫様でも何でもないのに………
時々話しかけてくれる女の子はいたけど、話しているとすぐにどっかに行っちゃった。怖がられちゃってるのかな?
男の子もたまに話しかけて来るけど、すぐ2人きりになろうとしてきたり肩を触ってくるから少し怖い。
そんなこんなでこの一ヶ月、友達と呼べる友達ができなかった私は、どうにかして人と出会うべく考えを巡らせた。その結果がショッピングモールでお買い物ついでにばったり遭遇。そこから友達へ〜作戦なのである。
朝ごはんに適当な飲み物とパンを食べ、まだ開店までは時間があるので1人で住むには少し大きいマンションの一室を掃除する。
元々京都に住んでいた私だが、高校は東京にあるので、入学と同時に部屋を借りて一人暮らしを始めた。家事とか料理は一通りこなせるので、苦労はしていない。あ、強いて言うなら朝起こしてくれる人がいないのは不便かな?
寝癖でぼさぼさだった髪の毛を整えて、お気に入りの服に着替える。誰かにあっちゃうかもしれないし手入れにはいつもより念を入れる。
「じゃあ出かけますか!」
そういって私は玄関から勢いよく飛び出し鍵を閉める。
「あっ………」
飛び出た先に人がいた。上機嫌で浮かれているところを見られて少し気恥ずかしい。
それにしても初めて見る人だね?同年代なのかな?目深に被ったフードのせいで顔はよく見えない。
この人もちょうど家を出たところみたい。多分お隣さんかな?引っ越してきた時挨拶に行ったのだが不在だったから菓子折りと手紙だけ置いて自分の部屋に帰ったのは記憶に新しい。
「………どうも」
声と体格からして恐らく男の子であろう人は私の顔も見ず一目散にエレベーターに向かってしまった。
「何だったんだろうあの人……」
お互いあまりいい出会いとは言えないが、不思議と嫌な感じは全くしなかった。
……その後すぐに遭遇するのは気まずいからちょっとだけ時間をおいて出発したのは内緒だよ?
私が住んでいるマンションは高校から徒歩5分ほどの場所にある。なので件のショッピングモールともかなりのご近所さんだ。踊りがちな足を進めて約十分。お目当ての場所に到着だ。
10時開店なのに11時まで掃除に夢中になってしまっていたので、店に着くのが12時前くらいになってしまった。
日は完全に上り切っていて、まだ五月の初めだと言うのにかなり蒸し暑い。
開店後割と時間が経っているので、モール内は人でごった返していた。
「ええーっと……今日回るお店はっと」
そう呟きながら今一度行く予定のあるお店を確認する。
服屋に雑貨屋、本屋やコンビニまで、今時の高校生が行きそうな場所は全て網羅していた。……でも多分。
「ここに行けば、絶対誰かしらはいるよね」
と言いながら目を向けたのは2階の大広場付近にあるe-sports関連の商品を取り扱う大型ショップ。
私が通う高校はe-sportsが全てと言っても過言じゃない。ただ生徒が皆選手になることを望んでいるわけではなく。コーチやアナリスト、それ以外にも選手が望むデバイスを開発する技術者になりたいって人もいる。
皆どこかの面で誇れることを持っていて、凄いと思う。私なんて偶然手に入れたスキルが珍しいってだけの実質コネ入学みたいな感じだし……
じゃあ何でこの高校に入ったって?
……今の両親と一緒にいるのにちょっと疲れちゃったからかな。
パパとママは昔っから私にとても優しい。それはもうドロドロに溶けるくらい甘やかしてくれる。
そんな2人が私は大好きだ。でも、大好きだからこそ距離を置きたい時もあるのだ。
だから一人暮らしをする唯一の条件がこの高校に入ることだったので、仕方なく入学を決めた訳だ。
今まで〈moon crown〉どころか、普通にゲームもまともにやってこなかったので、この高校の授業にはとても苦戦している。
今までは学校の授業は基礎的な内容ばかりだったから何とかなっていたが、この休み明けから生徒だけの練習試合やより実践的な内容の授業が始まる。
この高校はe-sports実技と勉強の成績の比率が7:3になっているから、勉強だけ頑張っても進級することが出来ないのだ。しかも学内ランキングっていうので順位付けされて、それによって待遇も違うのに私は入学した時からずーっと下から2番目、クラスのみんなは勝手に私が学年一位の匿名の人と勘違いしてるみたいだけど、そんな訳ないからね!?
なので両親がアドバイスしてくれた、実力とは関係なしにデバイスはいいものを揃えておいた方がいいという言葉を受けて今まで使っていた初心者向けエントリーモデルのデバイスからある程度高性能なデバイスに買い替えに来たのだ。
ゲームはまだそんなに好きじゃない。むしろ嫌いな部類に入るかもしれない。それでも私はパパとママの期待に応えたい。少しでも実力に箔が付くなら全力でこなしたい。
そんなことを考えながら店内を歩く。周りの人達から視線を感じる気がするけど、気のせいだよね?こんな私をみてくれる人なんて誰もいないもん。
まず最初に服屋に入った。あまりオシャレをするタイプではないのだが、これでも私だって花の女子高生。興味はあるのだ。
とは言え今までこういったことを全くしてこなかった代償なのか、どんな服を選べばいいか全くわからない。今は中学生時代にママが買ってくれた適当なシャツとスカートをきているのだが、いい加減サイズがキツい……主に胸あたりが。
このままでは絶対決められないと諦めかけていたところに少し興奮したような女性の声がかかる。
「お客様?何かお困りでしょうか?」
振り返るとこの服屋の店員がいた。とってもオシャレでいかにもお姉さんって感じの雰囲気だ。これはチャンスだと思い切って質問する。
「着る服が無くて困っているのですが、私の代わりに選んで頂けませんか?」
めいいっぱい笑顔を込めたつもりでそう聞く。店員さんは少し固まった後、
「……は、はい!分かりました!不肖この私めが責任を持って選ばせて頂きます!」
店員さんは一瞬少し呆けた顔をした後、私を試着室に案内してくれる。その様子を見て私は少し気分が沈む、……私、笑顔苦手なのかなぁ?
そうして店員さんに服を選んでもらった私は次の目的地を目指した。よく分かんないけどさっきより視線が増えているような気がする……きっと気のせいだよね!
その後も謎の視線に耐えながらお店を巡る。雑貨屋、本屋からコンビニまで。大型ショッピングモールなだけあって品揃えは目を見張るものがある。
一通り買い物を終えた私は、最後の目的地である、2階のe-sportsショップを目指す。
店内は広すぎて、普段から運動不足の私にとってはなかなか辛いものがあった。足が痛い……
しばらく歩くと大きくひらけた場所に出た。広場真ん中にはPC2台と大きなモニターが大量に設置されていた。いわゆるストリートe-sportsってやつだろう。まぁ、私には一生縁のない設備かな……
広場の隅に大きな店が見える。ここが都内でも有数って言われてるe-sportsショップらしい。
私は店内に入る。ただでさえ広場は空調が効いていたのに店内はさらに冷房をつけているのか、少し寒い。
予め今日買うものはメモにリストアップしてある。キーボード、それにマウスとマウスパッドだ。
こういったデバイス費用は申請すれば学校が全て受け持ってくれるから何も心配なく買えて少し嬉しい。
ゲーム自体はまだあんまり好きになれないけど、こういう物がいっぱい売ってある所に来るのは楽しい。
少しだけ心を躍らせながら、このショップ1つがまた別の大型ショッピングモールなのかと見紛う程巨大な店内を歩いていく。
店内は小さな子供からそれこそマウスを握る筋肉もあるのか怪しいくらいのおじいちゃんまでいて、ごった返している。
ーーーその時、チクリと頭に痛みが走ったような気がした。
一見してみればどこにでもあるような普通の休日の光景。それでもあの日以来、感情の動きに人一倍敏感な私はそれを見逃さなかった。
人気があるとは思えない各種デバイスのケーブルを取り扱うエリアの端で数人の男達がニヤニヤとした笑みを浮かべながら何かを取り囲んでいた事。
ーーーそしてその中心には、恐怖で震えている年端も行かない少年がいる事。
柚菜ちゃんは一見とってもクールに見えるだけで中身はコミュ障陰キャなポンコツちゃんです
※本人は中身と同じようなテンションと態度が外側にも出せてると思ってます
この調子でヒロインの可愛さとか引き出せたらいいなと思ってます。