第四話 刻の魔術師 上
七千文字くらいになっちゃったので分割します
下は12時に投稿します
シリアス回です
「まず紹介するのはチャンピオン側に座っている言わずと知れたストリートe-sportsの王者![剛腕]のgustoneから紹介していきましょう!」
実況者の高らかな声が広場中に響き渡る。しかしこの男はそんなにも有名なのか?七年前は名前すら聞いたことなかったが…
そう思いつつ大男の姿を見る。200cmもあるんじゃないかという巨大な体躯、右目には眼帯、腕には刺青を入れ不敵な笑みを浮かべている。山賊という言葉が似あうような男だ。
その時俺の中に一つの疑問が浮かぶ。
―――一条柚菜はいったい何のためにこんな奴と戦っているんだ?
実際に会話を交わしたことがあるわけではないがプライドや挑発に乗って戦うタイプではないだろう。ましてやこういった目立つことを好む性格だとも思わない。賞金も何もでない。ただ自分の実力をぶつけあって強い方が勝つ。そんな名誉のためだけの決闘にわざわざ何故…?
考えていれば考えているだけきりがない。どうせ戦いが終わった後にわかることだろう。
そう思ってふと一条の方を見た俺はあることに気付く。観戦客にしては距離が近すぎてコーチにしてはあまりに幼すぎる少年が彼女の服の裾を震えた手で握っているのだ。
観客はあまり気にしていないようだがこうしてみると違和感を覚える。
―――嫌な予感がする。
そう思いつつ俺は咄嗟に手に持っていたスマートフォン端末で例の大男の情報を調べる
地方の有名プレイヤーから世界級のトッププロの情報までもが掲載されているサイトを開き、大男のハンドルネームを入力する。すると情報は驚くくらい簡単に出てきた。割と有名なプレイヤーのようだ。
俺は大男の情報に目を寄せる
[剛腕] gustone 21歳
スタイル:剣士(両手剣に大鎧装備) 使用デバイス キーボード、マウス
簡易ステータス(おおよその値であるため、あくまで参考程度となる)
AIM B
学力 C
判断力 A
精神 S
<月の祝福> 大地を揺るがす巨人
メインスキル:自身の直上に岩石を生成、とてつもない速度で相手に向けて射出する。一度飛ばしてしまうと操作不能で、銃弾よりは弾速が遅いため当てることが少し困難だが、その威力はヒット時相手を三秒間スタンさせることに加え、25%の防御無視の貫通ダメージを与える。岩石には耐久値が設定されており、ヒットする前に耐久値を全損させることで攻撃を回避することが可能。
最大二つまでスタック可能
クールタイム:一分
サブスキル(パッシブ):常時使用者のHPを二倍、また鎧を装備した時の防具強度を二倍にする。通常の1.5倍の速度で移動が可能
アルティメットスキル:自身を数十倍に巨大化。巨大化している間通常の攻撃を受け付けなくなる。(銃士クラスの対軍兵器や魔導師クラスの詠唱に30秒以上を必要とする究極魔法での撃破例あり)巨大化中攻撃力を三倍にする
持続時間:一分
クールタイム:なし(一試合に一度のみ使用可能)
その他詳細
三年前からストリートe-sports1v1ルールで持ち前の一対一に特化したスキルを用いて次々と勝利を重ね、一部地域では負けなしで、本人の巨大な体躯と腕の刺青も加味されて[剛腕]の二つ名がついた。
実力は確かだが常に悪い噂が付きまとっていて、人質を取って無理やり相手に不利な取引や条件で決闘を仕掛けることがあるらしい。
「なるほど、そういう事か」
―――自分でも自覚しないうちに口からこんな言葉が出ていた。
「馬鹿馬鹿しい、反吐が出るな」
おそらく奴は一条にしがみついている少年を人質に取り、無理やり勝負を仕掛けたのだ。奴が保有するスキルは一対一というルールにおいては圧倒的だ。まず負けるということはありえないだろう。唯一の勝ち目があるとすればアルティメットスキルである巨人化をいかに回避し続けるかだ。
彼女のスキル次第だが…正直言って腸が煮えくりかえっている。
少年を守るためにどんな条件で戦っているのだろうか。どんなことを考えているのか、俺には分からないが彼女には頑張ってほしい。
こんな状況でも肝心の一歩が踏み出せない俺はどれだけ情けないのだろうか。俺にはこの状況を軽々しく打開する力が確かに存在する。でも俺が無理やり今介入して彼女が喜ぶだろうか?あの時のように罵倒されるだけじゃないのか?
そもそも俺は既にこのゲームを引退した身だ。今更何かに干渉するなどおこがましいにも程がある。
「お前さえ……!お前さえいなければ俺は……!」
「自分の事しか考えていないお前のプレイには嫌気がさしたよ。もう関わらないでくれ」
「結局運が良かっただけだろ?親の七光りで予選シードのチーターくん?」
俺の中でかつて浴びせられてきた罵声が反芻する。やっぱり俺には無理だよ……
「目の前の女一人救えないで何が[刻の魔術師]だよ……!」
俺の言葉は誰にも届かない。
―――世界が灰色に染まっていく
唯一鮮やかに見えていたモニター画面さえも。
でも、それでも、俺は。
―――立ち上がることができない
いつまでたっても立ち上がる勇気が湧かず、その場から動けない俺につい先ほど会話したはずの男から再び声がかかった。
「よぉ七翔。調子はどうだ?」
長年の付き合いだ。後ろを振り返らずとも声の主がだれかなんてわかりきっている。
「なんだよ怜也……今の俺の調子なんて見ればわかるだろうが…」
「いや、なんか外が騒がしいなと思ってな。七翔が何かやらかしたのかと思って駆けつけちまった。安心しろ?お前らの連れは新作デバイスのテストプレイに夢中だ。まだ一時間は出てこないだろうな」
それに関しては安心した。こんなに弱った俺を出会って間もない友人に見せるわけにはいかないからな。
怜也はそういいながら俺が座っているベンチに腰掛ける
「んで、なにがあったんだ?」
「見ればわかるだろ……1v1だよ…」
「あーなるほど…ってあれ一条さんじゃないか!?学校一の美少女といってもいい彼女がなぜこんなところに……」
「俺もびっくりしたよ。普段は目で追う事しかできない高嶺の花がこんなところでストリートe-sportsしてるんだからな」
両手をひらひらと降っておどけて見せると怜也は一瞬だけ悲しいような寂しいような表情を見せたがそれもすぐに引っ込み、いつもの何を考えているかわからないニヤニヤとした顔になる
「へぇ、七翔にもあの子がかわいいと考える気持ちはあるんだな。見直したよ」
「見直したってなんだよ…俺だって高校生なんだからそんな感情だって当たり前に持ち合わせている」
いや、嘘かもしれないな。確かに俺は彼女のことを可愛いと思っている。でもそれはどこか違う世界からの視点で、対等な人間としては見ていない。
自嘲気味な笑いを浮かべた俺に怜也が見かねて話しかける。
「なぁ七翔……おまえまだあの時の事引きずってるのか……?」
「なんだよ。悪いか。生憎俺はお前と違って何を言われてもへらへら笑って受け流すことができないんだよ」
「お、おい七翔……」
「俺の考えていることなんてお前には分かりやしない。わかったらどこかへ行ってくれ」
これ以上今話を続けていると怜也を間違いなく傷つけてしまう。そう思って俺はあえて怜也を引き離すような言葉を放った。すると怜也は普段のへらへらとした笑みが消え去り、どこまでも冷たく冷徹な表情になりながらこう言った。
「七翔、お前がどう思っていようと俺はお前の味方であり続ける。それはあの日から七年たっても変わってない」
そう。すべてが変わってしまったあの日。怜也は俺の一番近くにいた。俺がどういう気持ちでこれまでの人生を歩んできたか一番わかっているはずだ。なのに……それなのに……
怜也は次々と言葉を紡いでいく。
「でもな、最近のお前は今までと比べてもどこかおかしい。まるでなにかに取りつかれてしまったみたいだ。以前までも大概だったが今は異常だ。一体お前のその自己否定と自己嫌悪はどこからやってくる?」
「…………俺はあの日……妹を守ってやれなかった……一番守るべき、愛するべき存在を……そんな俺に何かを愛し、何かを好み、普通に生きていく権利があると思うか? ―――いいや、俺は思うわない。俺は生きてちゃいけないんだ。本当ならあそこで死んでしまうべきだったんだ……」
俺はすべてを否定する
自分自身も、世界でさえも……
プレイヤー検索サイトのランクの定義づけはこんな感じ
SSS その分野において世界トップの実力を有する
SS 世界トップに準ずる、世界大会準決勝出場レベルの者
ーーー超えられない壁ーーー
S 日本トップレベル 世界では通用しない
A 県大会や地方の大規模大会のトッププレイヤー
B 地方の小さな大会でいい成績がちらほら残る程度
C 最低値
説明不足の設定とか結構あると思うので気になったらほんとになんでも突っ込んじゃってください。
今日はこの後12時、19時、可能なら22時に投稿します
感想やアドバイスもお待ちしております。泣いて喜びます。