第三話 デスマッチ
本日4本目です
<moon crown>におけるデスマッチは既存のFPSゲームにおけるデスマッチルールとは全く異なる。
既存のデスマッチルールは予めアイテムや武器が用意された状態で単一の狭いマップで行われる場合が多い。それに比べて<moon crown>のデスマッチルールは大まかに分けて二つのラウンドに分かれている。
まず第一ラウンドは通称収集ラウンドだ。文字通り物資を集めて戦いに備えるラウンドとなっている。各プレイヤーは通常のバトルロイヤルルールと同一の広大なマップにランダムスポーンし、建物や地表に落ちている武器や装備を20分間収集する。元々このゲームのバトルロイヤルモードは超広大なマップに加え自動生成システムやクエストシステムなども合わさって一時間を超えるロングゲームとなることがほとんどだ。なので20分で自分好みの装備を集めつことは運もさながら困難を極める。
一応収集ラウンド中に敵を撃破することも可能だが敵の位置も分からないし広大なマップに敵はただ1人なので大人しく装備を整えるのが得策だろう。
そして20分の収集ラウンドの後にプレイヤーはマップの中心にテレポートされる。第二ラウンド、通称戦闘ラウンドである。各プレイヤーは準備した装備や持ち前のスキルを使用し、どちらかの体力がゼロになるか30分が経過するまで戦い続ける。ちなみに30分が経過した時点で体力が少ない方が負けとなる。…まぁ、30分経過するなんてほとんどあり得ないんだが。
「二分後に試合開始となります!皆さん準備はいいですかー?」
この声と共に大きく歓声が上がる。俺はこの場を咄嗟に離れようとしたがどうしても体が動かない。思考は全力で俺に逃げろと伝えている。だが俺の身体がそれを許さない。
ーーーまた同じ過ちを繰り返すのか?
俺の頭の中にそんな言葉が繰り返される。
ーーー夢を諦めるな!お前が本当にやりたいことはなんだ?
ーーー七翔が好きなことをやればいいさ。お前が望んだ道を進みなさい。
かつて両親からかけられた言葉が頭をよぎる。俺が本当にやりたい事は何なんだ?この灰色の世界から俺を救ってくれるものは一体何なんだ?
ーーーいや、もう心のどこかで分かっている。
俺を救うのは俺なのだ。結局俺はどこまで行っても一つのことしかできやしない。
今までずっと目を逸らしてきた。このどこまでも続く灰色の世界で俺にもはっきりと色鮮やかに映るものがあった。一度、挫折し諦めた道だ。今更向き合おうなんて虫がいいと思われるかもしれない。また仲間に裏切られるかもしれない。
好きなことを続けるのは、必ずしも楽しい事ではない。楽しいと思っていたことが気づいたら嫌いになっているなんてよくある話だ。
ーーーそれでも俺が俺を救うのただ一つの唯一の手段、それは……
ーーー眩しいくらい色鮮やかに映る24インチの画面に映し出された戦場が全てを物語っていた……
「はい!準備は整いましたので試合を始めていきたいと思います!皆さんいつもの掛け声の準備はいいですか?いきますよー?3……2……1……はいっ!」
「ゲームスタート!!」
結局この場にとどまって試合を見届けることをこけた俺は、天井に吊るされている巨大モニターを見る。
「さてさて今回生成されたマップは……どうやらみている感じでは中世ヨーロッパをモチーフにしたマップのようです!このモチーフといえば去年の<MCC>決勝が有名ですね!皆さんの記憶にも新しいマップかと思います!」
gustoneは小さな集落、一条柚菜は大きな街のような場所にスポーンしたようだ。gustone側から、一条の街にあるであろう城壁が見えないことからお互いの距離は相当離れていることがわかる。
試合が始まった途端お互い慣れた手つきで建物に入り装備を集めていく。俺が現役でやっていたのは7年も前のことだから、度重なるアップデートで装備の種類からUIまで変わってしまっている。
この<moon crown>には武器の種類は大まかに分けて剣と銃器と魔法の三つが存在する。プレイヤーは各試合の初めにスタイルを選択し、そのスタイルに合わせた武器を装備していく。
ぱっと見銃器が最強のように聞こえるがそうはいかないのがこのゲームだ。
各武器の特徴はそれぞれに
長所短所がありさながらじゃんけんのような仕組みとなっている。
剣は威力に特化した近接戦闘スタイルだ。敵に近寄らないと攻撃出来ないのでどうしても敵の攻撃を避けながら距離を詰めるプレイヤースキルが必要であまり人気のあるスタイルとは言えない。しかし近距離の間合いに入れた時の制圧力は全スタイル随一だ。また剣以外にも防具として全身鎧や盾を装備できるので、ゲームの使用上威力が抑えられている銃器の弾をある一定の値まで通さない。なので相手が銃器であれば距離を詰めて楽に敵を倒せる反面、鎧の重量や材質上温度変化に弱いという点から、中距離からの魔法攻撃にめっぽう弱い。
銃器は遠距離性能と制圧力に優れたスタイルだ。ゲームバランスを保つため銃の威力はかなり抑え目に設定されている。なのでかなりの数を当てないと敵を撃破しにくく、扱いは少し難しい。しかしSMGの近距離火力は目を見張るものがあるし、ARの近距離の制圧力、そしてSRでの超遠距離からの狙撃と言った全距離に対応できるスタイルであることに加えてグレネードや機関銃、マップの特性によっては戦車や戦闘機すら操るれることがあるスタイルである為初心者から上級者まで幅広く使われている。ある程度の距離をとって撃つだけで射程がそこまで長くない魔法スタイルは簡単に制圧できるが、耐久面で問題を抱えるスタイルなので、剣士が鎧を着て距離を詰められてしまうと一瞬で壊滅してしまったりする。
最後に魔法だが、これがスタイルが最も使用者が多く、初心者にも使いやすいスタイルとなっている。
魔法といっても火、水、土、風、雷の5属性に分かれていて、プレイヤーはその中から2属性を選択して魔法を扱う。火は純粋な威力で、水は回復、雷は遠距離狙撃に対応していたりと、プレイヤーの好みで選べる少し特殊なスタイルだ。魔法は発動に詠唱という準備時間が必要だが、発動してしまえばどの魔法も例外なく絶大な威力を誇る。性質上中距離の威力に優れており、鎧は魔法にはあまり通用しないため剣士相手には一方的に制圧することができるが、銃士相手には魔法の射程の及ばない遠距離から一方的に射撃されておしまいである。
このように三つのスタイルは切っても切れない三すくみの関係で成り立っている。
では不利な武器種相手には勝つことができないのか?答えは否だ。
もちろん武器種による相性も存在するがそれらを凌駕する相性がこのゲームには存在する。
前世に一度っきり選択される、自分だけのスキル群、<月の祝福>
ゲームを始めてすぐ行われる簡単なテストと数戦のテストマッチにより、プレイヤーがどの武器種に向いているか、好みはどれかなどを判断して、その武器種やプレイスタイルに合わせてスキル群が決定される。それは完全にランダムであり、多少スキルの被りはあれど、完全な同一スキルは存在しない。
魔導士に剣士が距離を詰められないなら騎乗馬を召喚するスキルや仲間の兵士を召喚するスキルを使えばいい。銃士の弾が剣士の鎧に弾かれるのならば特殊弾倉やもっと火力の高い装備をスキルで用意すればいい。魔道士が銃士に一方的にやられてしまうのならば相手の懐にテレポートして予めストックしておいた詠唱で倒せばいい。
そういうゲームなのだ。これは。
理不尽と言われても基本的にはこのゲームのスキル群は一つの例外なく強力に作られている。自分のスキルが弱いと嘆くのは努力不足なのだ。
どれだけ不利な相性、状況でも自信が鍛え上げたスキル1つでひっくり返る。そんなゲーム性が堪らなく楽しいのだ。
「さて、収集ラウンドも残り5分を切りました!ここでお互いの装備を見ていきましょう!」
公正を期すためにこの実況は特殊な技術を用いてプレイヤーには聞こえないようにしている。
デスマッチルールでは収集ラウンドの短さから装備の強弱が顕著に出やすい。俺としてはどこぞの誰ともしれない粗暴な見た目の大男より顔見知りが有利であって欲しいと願うばかりだ。
載せたい設定が多すぎて気付いたら文字数オーバー気味になっちゃいますね...
感想やアドバイスもお待ちしております。泣いて喜びます。