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第十二話 こうして、伝説は、

おねーちゃんとななくんの回想です。いい感じにかけたかな?

 ……………さっき一条と手をつないだ時よりも数倍気まずい空気が流れている。


 「………………」


「………………………」


お互い一言も発すこと無くその場に硬直している。それも無理ないだろう。


俺の目の前に立つ緑色の髪をした長身美人は、かつての俺の師匠であり、七年前の事件以降、両親ですら俺に遠慮して何も言わなくなったのに、最後まで俺の現役復帰を願い続け、説得してくれた人。


 俺の独特すぎるスキルからほとんど全員が俺のコーチとなることをあきらめて逃げ出したのに、彼女だけが俺の才能を見込んでコーチを引き受けてくれた。当時の俺は世間をなにも知らなかった。人との付き合いもうまくいかなかったのに、それを受け入れて、人生、という観点でも俺の師匠になってくれた人。


 俺が両親の次に感謝をしている人


 だからこそ俺は、今彼女と会いたくないのだ。


事件当時の俺は完全に塞ぎ込んでいて、誰の話も聞く気はなかった。かつての会話が思い出される。


~~~~ ~~~~


第三回MCCから二年。例の事件からも二年。あまりにも悲惨すぎる結末から立ち直れなくなってしまった俺はずっと部屋にこもり切りで毎日悔しさと悲しさ、寂しさで枕を濡らす日々だった。


 ―――――最愛の妹は帰ってこない。相棒とまで呼んで信頼し合ったチームメイトももういない。一体俺はこれからどうやって生きていけばいいんだ?


 こうして二年もの間、最低限の生活を保つための行為しかしない。おいていかれないよう勉強だけはするが学校には行かない、誰ともまともに会話をしない。そんなことを俺は継続していた。


 我ながら最低だと思う。でも何かしようとしても体が思うように動かないのだ。


―――――また裏切られるだけだ。


―――――お前がなにかしたところで、大切な何かが失われていくだけ


―――――それならいっそ何もしない方がいい。


 常にこのようなネガティブな考えが頭をよぎっていく。


 一年間、毎日俺に話しかけてくれて熱心に説得を続けてくれた両親も今はもう話しかけてこない。毎日毎日怒鳴って辛く当たったからだろうか。


 どうせ生きていたところで何の意味もない俺だ。ならいっそこの部屋で一生を終えるのも悪くないだろう。


 そうだ。金のことは二年前に手に入れた莫大な大金があるんだし、適当な部屋でも借りて使用人を雇おう。毎日飯を作ってもらって俺は部屋から一歩も出ない。これで誰にも迷惑が掛からない生活の出来上がりだな。はは。


 そうと決まったら早速行動しよう。と思ってPCに手を伸ばそうとする。しかし、マウスとキーボードに触ろうとするだけで手が震えてくる。それにさっきまでぐるぐると頭の中を回っていたネガティブな考えが一気にあふれ出して止まらなくなる。


嫌だ。


嫌だ。


嫌だ。


もうなにも、うしないたくない


おれから、はなれないで


だれか………おれを………


たったの24インチのモニターで展開される戦場。そんなちっぽけなものをめぐっておきた事件は、当時齢九歳の少年には重すぎたのだ。





コン、コン、コン


――――――急に部屋のドアが叩かれた。


いったい誰だろうか。いや、もう分かりきっている。この時期になってくると、俺の部屋を訪れるひとなんて一人しかいないのだ。


 かつては両親の次に一番頼れる存在だった。もっとも今はただの厄介な女だが。


 「入っても、いいかな」


 ――――どうせなにも言わなくても入ってくるくせに。


「………勝手にしてくれ」


ガチャリ、と部屋の扉があく。部屋を開けた途端出てきたのは師匠だった。


 圧倒的なサポート性能を誇るスキルを保有し、誰のどんなミスにも即座にリカバリーし、それでいて自分も火力を出すどころか相手を殲滅してしまう。そんな苛烈で優雅な立ち回りと、戦場を縦横無尽に飛び回る姿から、【妖精王】の異名がつけられた日本トップクラスのサポートプレイヤー、[Arlaune]こと六星美沙。そのまるで森に迷い込んだのかのように深い色をした緑色の髪に、長身かつ圧倒的な美貌。街で十人が見れば話題を呼んで百人が振り返る。そんな彼女が僕の師匠だ。いや、師匠だった。という方が正しいのだろうか。


 どこか遠慮しているような顔をしておずおずと部屋に入ってくる師匠。俺はその態度に少しイラついてしまう。


 「………入るなら堂々と入ってくればいいじゃないですか」


 「ふぇ?あっ!ごっ……ごめんね?じゃあ入りなおすよ?」


 「いや、入りなおさなくていいですよ……まったく、何してるんですか」


そうやって本当に扉を閉めて入りなおそうとする師匠を止める。なんだかんだで師匠は週に数回のペースで俺の部屋にやってくる。


 「今日はまた何しに来たんですか……用がないなら帰ってくださいよ」


最近は前にも増して部屋に訪れる回数が増えてきた気がする。


……来たところで、俺には何もないのに。


 「ナナくん………」


 いまだに彼女は俺をこう呼んでくる。俺はもうあなたの弟子でも何でもないのに……


 「今日はねっ!楽しそうなゲームを見つけたから一緒にやろうと思ってきたの!一緒にやろう?」


 「やらないです」


 この人は毎回何らかの理由をつけて俺を遊びに誘ってくる。


――――あの時、なにもかも守ることができなかった俺に、楽しむ資格なんてないのに。


「もう!またそんなこと言って………いいもん!私一人でやっちゃうからね!?」


師匠は俺のことをちらちらと見ながら部屋にあるゲーム機を起動する。聞きなじんだ特有のゲーム起動音が鳴り、あらかじめセットされていたゲームが起動する。


 どうやら今回はパズルゲームのようだ。色とりどり、様々な形をしたブロックを一列に揃えて消していく昔から存在する定番ゲームの一種だ。グラフィックやキャラクターが一新されていることから、どうやら新作が出たみたいだ。ここ二年間まったく情報を得る機会がなかったので、新作が出ることもまったく知らなかった。どうでもいいことだが。


「……気になったらいつでもやっていいんだよ……?」


どうやら俺がゲーム画面を見つめていることに気付いてしまったらしい。そういわれた俺は咄嗟に下を向く。


―――――楽しそうだな。


そんな思いが俺の中に浮かび上がる。だめだ。俺は何も楽しんじゃいけないんだ。


 それでも………俺は………


 ――――どこかで光を求めている



~~~~ ~~~~


約二時間後、それまで夢中でゲームをしていた師匠だったが、さすがに疲れてきたのか、座椅子にもたれかかって大きく伸びをする。途中から師匠の方を全く見ずに下を向きっぱなしだった俺は、少し首が痛くなっていた。


「ねぇ、ナナくん?」


師匠がそんなことを言ってくる。


 「なんですか?飽きたならもう帰ってくださいよ。………まぁ、飽きるまではいてもいいですよ………」


多分、どこかで俺はぬくもりを求めていたんだろう。誰にも必要とされなくなった俺は、救いを、光を求めている。


 師匠は一瞬パァと明るい顔になったが、すぐに俯いて悲しいような悔しいような顔になる。


 「そろそろ、外に出て見たりとか、してみない?」


 「出ないですよ。俺が外に出たところで、俺を必要としてくれる人なんて誰一人いないし、俺がいたところで誰かが不幸になるだけです」


俺はそうやって師匠を突っぱねる。


「ナナくん………。少なくともここにいるよ?君を必要とする人が」


師匠が俺を説得するように言ってくる。


「そんなわけないじゃないですか。どうせ師匠も俺のことをどこかで見下しているんでしょう?辛くて嫌なことから逃げ出したただの卑怯者だって」


卑屈な考えを吐き出す。


――――とっさに視界が真っ暗になる。


どうやら俺は師匠に抱きしめられているようだ。


「そんなこと……いわないで……いわないでよぅ………」


「し、師匠?」


「確かに辛いことがあったかもしれない。いやなことがあったかもしれない。それでも、逃げ続けてばっかじゃ、光はつかめない」


師匠はそういうとズボンのポケットから一枚の紙きれを取り出す。………印刷したものなのか、画像が荒くてよくわからないけど、これは何かの生体情報……?


心拍数や脈拍、体温などが数分単位で計測された情報が無機質に綴られている。


――――まさか


「師匠、まさかこれって」


食い気味になった僕に師匠は希望に満ちた表情で


「そう、これは加奈ちゃんの生体情報だよ。もともと国民が不審な死を遂げたときにのみ使用される死因解析の為だけに使われるマイクロチップだから、申請が通るのに二年もかかっちゃったんだ」


「これが……加奈の……」


俺は渡された紙を隅々まで観察する。するとある一つの項目を発見する。計測した日時………?


「うすうす気づいてきたと思うけど。これは一時間前の加奈ちゃんの生体情報だよ」


頭に血が上る。久方ぶりに前進が熱くなる感覚がある。


「加奈が!加奈が見つかったんですか!?」


興奮して俺はつい大声を出してそう聞いてしまう。


「ううん。それはまだなんだ。ごめんね。でも、これからわかることもある」


「そうみたいですね。……つまり」


加奈ちゃんはまだ生きている」


――――僅かな光、今にも消えそうな灯だけども、ちいさなちいさな希望がそこにはあった。


 「生きているんだよ!ならナナくんがまた頑張れば再会することだって……」


 「そうかもしれないですね……でも、もう俺は……誰かを救う資格なんて……師匠たちが見つけてくれればそれでいいん………」


パチンッ!と乾いた音が響いた。


左頬にジンジンとした痛みと同時にほのかな熱を持ち始める。どうやら俺は師匠に叩かれたみたいだ。


今まで練習してたころですらこんなことはなかったのに、師匠の突然の豹変に驚く。


「し、師匠……?どうしたんですか?」


「ナナちゃん、いや、七宮七翔。君は、いつまでそうやってうじうじと部屋に閉じこもっている気なのかな?」


師匠の未だかつてない迫力に気おされる。


「うじうじとって……俺だって好きでこうやってるわけじゃ無いんですよ!!」


「じゃあなんでいつまでたっても加奈ちゃんを助けに行かないのよ!?それがあなたの使命なんじゃないの!?今のあなたはただつらい現実から逃げるづけてるだけ!いい加減自分と向き合いなさい!!」


はっと驚かされた。そう、こころのどこかではわかっていた。俺は、辛いこの現実から逃げ続けているだけなのだと。


「私だって辛い、親御さんだって辛い、みんな辛いんだよ!あなただけじゃない!あなたの辛さはそりゃ一層強いものかもしれない!それでも………!それでもあなたには、光をつかみ取ってほしい!」


「明けない夜はない!夜が続いてもいつかは必ず朝がやってくる!光は誰にでも訪れる!いつだってその光をふさいでいるのは自分自身で、手を少しどけるだけでその光をいつでも浴びることができるんだよ!」


「師匠……………」


師匠の言葉を聞いて、目頭がふと熱くなる。涙が止まらない。


「師匠……師匠……俺は、もう一度、光に手を伸ばしていいんですかね……?」


大声で泣きわめく俺に師匠は慈しむような表情をして頭をなでる。


「いいんだよ……誰でも光は浴びることができる。光なんて言わず星くらいつかんじゃいなさい」


師匠はそういってにかっとした笑みを浮かべた。


――――本当に、この人はいつも………


 少し落ち着いた俺は、師匠にこう伝える。


「わかりました。外に出て、自分なりのやり方で光を目指してみることにします」


「ナナちゃん………!」


師匠は感動したのか再び俺を抱きしめる。それと同時に俺は一つの決意を表明する。


「現役復帰はまだまだ先のことになると思うけど、いつか……その時は来るまで、師匠は俺にもう会わないでほしい」


「えっ……?」


困惑した声が聞こえてくる。無理もないだろう。


「俺は誰もが尊敬できる立派な、<moon crown>の競技プレイヤーとして帰ってくる。それまでは師匠とは会いたくない。だって、次に貴方と会うときは、師匠ではなく、ライバルだから」


――――もしくは…………


いや、そんな未来は来ないだろうな。



一瞬だけ浮かんだありえない未来を隅に置いておく。


「ナナくん……いや、七翔。あなたの決意、しかとこの胸に聞き留めたわ。次に会うときには、立派な男になって帰ってきてね。私、その時まで、いつまでも待ってるから……」


「わかった。待っていてくれ。美沙」


そういったあと、彼女は部屋を後にする。


これが、俺と彼女の今日までの最後の会話。

元弟子と、元師匠の人生で一番大きな転機だったと言えるだろう。


感動する感じで書いてみたんですけど、どうでしたか?

感想をいただけることが一番うれしいのでよければ読んでみての印象や感想をくれると嬉しいです



ここまで読んでくださってありがとうございました!面白いと思っていただけたら評価、ブックマークをよろしくお願いします!

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