第十話 転機
気付いたら違うこと書いてる......
大体五十メートルくらい進んだ先の曲がり角に彼女はいた。
「どうせこんなことになるだろうとは思ってたけど……それにしても体力なさすぎじゃない?」
「うるさいです……七宮さんには関係ないです……私のこと何とも思ってないんでしょ……」
ぜぇぜぇと息を荒くしながら壁にもたれかかっている一条がそういった。どうすれば彼女の機嫌を直すことができるだろうか。
「すまなかった。一条。俺はまた何か君の機嫌に触ることを言ってしまったみたいだ。謝らせてほしい」
「許しません。許しませんけど、今度一個だけ私のお願いを何でも聞いてくれたら許します……」
意外にも一条からそんな声がかかる。一条の方からそんなことを言ってくるのは珍しい。
「お安い御用だよ。なんでも聞こう。それこそ何億円くれとかでもいいよ」
茶化すように一条に言う。
「………もう。私がそんなこと言うわけないと思って言ってますよねそれ」
「ばれたか。別に冗談で言ってるわけじゃないんだぞ?」
「はいはい………」
そんなやり取りを繰り返していくうちに気付いたら最初と同じような関係に戻っていった。無事に彼女の機嫌を直すことに成功したようだ。
なんとかなったことに安堵を覚えつつ、目的地にもうすぐたどり着くことに気付く。
「そろそろつくようだな。新しい道で向かったからもしかしたら迷うんじゃないかと思ったけど意外と早くつけたみたいだ」
「そうですね。なんだかんだどんな道を通っても目的地には付けるものです」
俺達の目の前には記憶に新しい都内最大級のショッピングモールがそびえたっていた。天気は快晴。いい買い物日和だと思う。もしこれで雨が降ったりなんてしたら買ったデバイスが濡れてしまうところだったのでちょうどいいと言えるだろう。
ここに来るたびに毎度思うが、家から徒歩数分の位置にここまで大きいショッピングモールがあるのは本当に便利だと思う。さらにここから歩いてすぐ着く高校の立地様様だが。それにただのショッピングモールって訳ではなく、服や雑貨、食品などに加えてホームセンターのような役割を持っていたりもする。それだけではなく国内最大級のe-sportsショップがあったりと色々と便利な場所だ。正直ここだけあれば生きていけると思う。
「とりあえずの第一目標はe-sportsショップでいいよな?」
「ええ、そうですね。………またかなり歩きますね……」
「そうだな……品揃えがいいのは間違いないんだけど。入り口から遠すぎるんだよなぁ……」
そう、俺らが目的地としているe-sportsショップはショッピングモールでもど真ん中、中央の広場に設置されている。これだけ大きい場所で中央を目指すというのはかなり遠くまで歩くという事になる。時間にして約二十分。俺らがここまで歩いてきた時間より四倍多い。
「これだけ大きいとどれだけ人が来ても人がいないように見えそうだけど、どこを見ても人であふれかえってるのが普通におかしいんだよな……」
「本当ですよね……人込みに疲れてしまいそうです……」
県内のみならず県外からも大勢の客が押し寄せているのだろう。連休中ということもあってか、店内は人であふれかえっていた。
「とりあえずなんとかして目的を目指そう」
「そうですね。お互い頑張りましょう」
そういいながら俺と一条は歩き出す。
……しかし一条はこんな状況でもありえないくらいに目立つ。日本人離れしたきめ細やかな純白の肌に水色の髪。そして翡翠のような瞳。目を引くなという方が難しい話だろう。これだけ人でごった返しているというのにすれ違う男はほとんど全員一条の方を見る。彼女を連れているらしい男もこっちを見るので、彼女に叩かれている。それほどまでに彼女がかわいいという事を俺は再認識する。
俺に対して嫉妬と羨望の目が飛んでくるのもすこし面倒くさい。別に俺は彼女の何でもない存在なのだが、そんなことを言ったところで彼らに届くわけがないだろう。
主に男から向けられるそんな視線の中にたまに女性から視線を向けられているような感覚がある。一条は女ですら嫉妬するレベルの美しさらしい。
しかも一条をもっと見たい男ができる限り近づいてくるもんだからもともとある程度秩序があった人の流れが一気に崩されてしまう。そのせいで俺と一条の周りはぐちゃぐちゃで、まっすぐ歩くのも困難な状況になってしまった。
―――このままでは一条とはぐれてしまう危険性があるな。
そう思ってからの俺の行動はすぐだった。
「一条」
「は、はい、なんですかー!」
あまりにも多すぎる人込みで既にはぐれつつある俺たちは大声でやり取りをする
「なんとかこっち側に来られるか?無理そうならなんとか俺が合流する」
少しの沈黙が訪れる。おそらくこの人込みから抜け出して俺に合流しようと試みているのだろう。一条の姿はこちらから確認できないため、確信はできないが一条ならきっとそうする。しばらくして一条の声が聞こえてくる
「すみません……どうやら無理そうです」
「わかった。俺が今向かうから少し待っていてくれ」
だいたいわかっていたことだがやはり無理らしいので直接俺が向かうことにした、一条の声を頼りに大体の位置を把握してそこに向かっていく。
何とか人込みをかき分けていく。かきわけられた人たちは怪訝そうな顔を浮かべているが、そんなの俺にとっては関係ないこと、今は一条と合流することの方が大事だ。
どんどんかき分けて進む。すると特徴的な水色の髪の毛が目に入る。四人ほどに人に阻まれた先にどうやら一条がいるようだ。
「一条!俺の姿が見えるか?」
「はい!見えてます!でもここからどうやって?」
一条の疑問はもっともだろう。頑張って合流したところでこの人込みだ。どうせまたはぐれてしまうだろう。なら各自で目的地を目指す方が賢いのではないかと。
生憎と俺は一条と会話しながら歩きたいし人込みなんかにそれを邪魔され手やる気もさらさらない。
一条の前を阻んでいた三人ほどをかき分けたのち、
―――俺は一条に手を伸ばした
「一条!手を握れるか?」
「て、手!?………はい!」
そんな声がした後、俺の手に柔らかく温かいぬくもりが与えられた。指の一本一本がちょっと押せば形が変わってしまうのではないかというレベルで柔らかく、温かい、そんな手が俺に握られたのだ。
何気に両親以外とまともに手をつなぐというのは初めてだし、どこか俺らが恋人のような勘違いをしてしまい、心臓が高鳴る。
高鳴る胸を抑えつつ、俺は一気に一条の手を引いて俺に引き寄せる。一条も力を抜いていたのか、あっさりと俺のほうに引き寄せることができた。
しかし、勢いあまって引き寄せすぎたようで、一条の顔がとても近くに現れる。
「あ………ちかい………」
一条は俯いた顔でそんなことを言い出す。その反則レベルの可愛さに頭が焼き切れそうになる。心臓はさらに激しく動き出、頬が熱を持ち始める。
「ごっ、ごめん!今離すから!」
一度合流できたんだし、後は気を付ければ何とかなると判断した俺は一条の手を放そうとする。
しかし、一条によってしっかりと握られた手はなかなか離れない。
一条は俯いた顔のまま言葉を紡ぐ。
「あの……その……またはぐれちゃうとよくないですし……このまま手をつないでいきませんか…………?」
心臓が止まったような気がした。もう何が何だかあまり理解していない脳を無理やり働かせて話す
「俺はそれでいいけど……一条はいいのか?その………手をつないでいると勘違いされてしまいそうだが……」
一条はさらに顔を赤くさせて今にも消えてしまいそうな声量で返答する
「別にこの中の大勢に見られたところで一生顔どころか名前も知る機会のない存在ですし……それに……私は別に……いやじゃないです…よ?」
―――――それが止めだった。
俺は思考することを完全に放棄して、成行きに従うことを決めた。
「それもそうだな。わかった。………じゃあ、行くか」
そうして俺は一条の手を引きながら目的地へと歩き出した。
タイトルをどう解釈するかはお任せします
まぁそういうことですよ()
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