第二話 友人
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今日は七時と十三時と十八時に投稿します
―――新作デバイス、大量入荷!
―――現役プロが教える、初動立ち回りと天賦を生かすコツ
―――冬季国内リーグまとめ! 次に来る注目チーム十選!
このような広告看板が店内を埋め尽くしている店がある。所謂e-sports専門店である。
十年前、<moon crown>が起こしたe-sports革命によってこのような事が起きているのは自明の理だが、既に引退した身からすると見ているだけで腹が立ってくる。
―――あんなことあなければ今頃俺も……
黒い感情をとっさに胸の奥にしまい込み、何事も無かったかのように友人たちの会話に耳を傾ける。
「お、せっかくだし寄ってくか!新商品もチェックしたいしな」
「腐っても俺らはこれ関連で将来食っていくことになるんだからな。最新の情報は常にインプットしていかないと」
そんな会話が聞こえる中、俺は反吐が出る思いでその後姿を追っていた。
「悪いな、少しトイレに行ってくる」
俺がそういうと一人がどこか怪訝そうな眼差しで
「おい七宮またそれかー?いくら校内ランキング低かったとしてもこの高校来たくらいなんだからe-sportsは好きなはずだろー?」
その言葉に今すぐ言い返したい気持ちをぐっと抑える。
俺らが通う日本有数のe-sports専門学校、私立駆勇高校には、生徒同士の研鑽により世界で戦える本当に強い選手を育成するといった方針のもと、学内ランキングによって待遇の差別化を図り、毎日のように開催される学内スクリムでさらなる実力アップを目指している。実力がすべての方針に開校当時は賛否両論あったようだが、十年にわたる世界大会の内、日本人で唯一優勝経験のある校長がすべてを黙らせたのは今でも生徒たちの語り草となっていたりする。
e-sportsが好きか……今の俺は本当にこのゲームが好きと言い切れるのだろうか?
元々この学校に入ったのは強い選手になることが目的ではない。
第三回<moon crown championship U-12>
<moon crown>のジュニアe-sportsシーンにおいて最も権威を持つ大会。今となっては思い出すのも苦痛だが俺はその大会のソロ部門で総合三位の成績を収めていたりする。まぁ、U-12の大会は子供たちの安全性も考慮され、選手たちの本名と素顔、声は完全秘匿の元開催される。なので俺がその人本人とばれてしまうことがないのは幸いである。
当時の俺は全力でこのゲームを楽しんでいた。いろいろと辛いこともあったがそれでもこれからも続けていくし、国内外の強敵たちと戦えることに喜びを感じていた。
―――MCCの会場で妹が突如として失踪するまでは…
どうして守ってやれなかった?なぜ俺は妹が辛い目にあっている間キーボードとマウスを使って呑気にゲームなんてしていたんだ?
―――許されるわけがない
ドス黒い感情が俺の中を渦巻いている。今にも倒れそうだ。
「まぁまぁ、七翔にも事情ってもんがあるんだろ?」
俺の背後からそんな声がした。
「おー!怜也じゃねぇか!お前も来てたのか?」
「あぁ、偶然近くまで来ていてな。せっかくだから少し見ていくかと思ってたんだ。よかったら一緒にどうだ?」
「もちろんだぜ!じゃあ一条またあとでなー?」
「おう……またな…」
今にも倒れそうな体を鞭打ち、何とか声を出す
e-sportsショップに消えていく友人たちの姿を見送った後、半ば倒れこむようにして近くのベンチに座り込んだ。
すると先ほどの男が近づいてくる
「悪い、怜也。さっきは助かった」
「いいよいいよ。高校でお前の事情を知ってるのは俺くらいだろ?なにかあったら全力で力になるから、なんでも言ってくれ」
ほんとにこの男は外見から中身までどこまでもイケメンだな。
男の名前は三橋怜也
小学生のころからの友人で、俺の事情を細かく知っている数少ない人物の一人だ。百人に聞いたら百人が優れていると答えるような容姿と、人のことを思いやれる性格を持っている。入学早々何人もの女子生徒に告白されているらしい。
普通なら同じ男子には嫉妬されそうな人物だが、その持ち前の誰にでも屈託なく明るく接する性格で男女問わず学校の人気者となっている。もちろん倍率が100倍近いこの高校に合格していることから、圧倒的なゲームセンスも落ち合わせている。
しかし本人としては他チームの動きや傾向を分析して対策するチームの裏方であるコーチやアナリストを希望している。
このこともあってか学内ランキングはそれほど高いわけではないが、全国模試二位の圧倒的学力と分析能力で学内のみならず様々なプロチームからアナリストとしてスカウトを受けている。
以前チームに入らない理由を聞いてみたら
「いつか入りたいチームがあるからな。俺はそのチームに入るためだけに今でも絶え間なく努力を続けているんだよ。まぁ、いつか時期がきたら話すよ」
とはぐらかされてしまった。
「本当に助かったよ、怜也。この埋め合わせはまた今度でいいか?」
「もちろんだよ七翔。埋め合わせなんていらないよ。友人を助けるのは当然のことだからね」
こいつと長くかかわってきてない相手だとここで会話は終わるのだが、運が悪いことに俺とこいつは長い付き合いだ。そんなことを考えていると再び声がかかる。
「あ、そういえば今度駅前に新しい喫茶店ができるらしいぞ?行ってみたいところだけどこの前新しいデバイス買ったばっかりでお金ないんだよなぁー…」
そういいながらニヤッと笑って見せる
「あーはいはい。わかったよ。奢ればいいんだろ?」
「さすがわかってらっしゃる!じゃあまたな!」
「おう、楽しんで来いよー」
そう、怜也は仲のいい人間だけに対して恐ろしいほどの腹の黒さを披露するのだ。仲良くなったとたんこの本性が表れるわけだから戸惑った人間も多いだろうしかし本人曰く
「この本性を出せるほど仲のいい人なんてほとんどいないし、自分のこういうところも理解してもらえるのが友達ってもんだろ」
という考えのようだ。
まったくいい性格をしていると思うが、俺自身こいつの正確にかなり好感が持てる。下手に取り繕うより、自分の前でだけは素の姿を見せてくれた方が信頼できる。
さっきのe-sportsショップに消えていく怜也がいなくなったタイミングで大きく息をつく。
やはり親しくない人間といるのは疲れるな。関係性を保つためだけの友人関係と割り切っていてもトラウマが邪魔をしてどうしても不快な気持ちになってしまう。
幸いe-sportsショップに入ったらあいつらは飯のことなんて忘れて二時間くらいは出てこないだろう。気分も落ち着いてきたしこれからどうしようか―――
なんて考えていると自分が座っているちょうど真後ろから大きな歓声があがる。何が起きているのか確かめるように周りを見渡すと、それはすぐに何か理解できた。
「おい、また誰かが[剛腕]のgustoneに挑むらしいぞ!」
「最近のあいつは強いことをいいことに半ば山賊まがいのことしてるからな。早く誰かに負けてる姿がみてみたいな」
十年前をきっかけに大きく変わってしまった世の中、ストリートバスケが存在するように、当たり前のようにストリートe-sportsも存在するようになった。
広場の中心に向かい合うようにしてPCが設置されていて、その上部には大きなモニターが設置され、試合の様子が映し出される。
「皆様よくぞお集まりいただきました!これよりgustone対謎の美少女の一対一デスマッチを開始します!実況はこのショッピングモールの名物と言われたメープルちゃんが行わせて頂きます!」
実況者の声が広場全体に響き渡る。なんでもその界隈では有名なのかわからないが多くの観客が名前を呼んで応援の言葉をかけている
「参加者紹介しましょう!チャンピオン側に座っているのが、このショッピングモールが開設されてからいままで98勝0敗でなんと無敗!彼がスキルによって繰り出す攻撃は強烈かつ高速!だれがこの猛攻を止められるのか!?[剛腕]のgustone!」
紹介されたとたん観客からは罵声が飛び交う。どうやら評判はあまりよくないようだ。それもそのはずだ。紹介とともに映し出された
ここにいてもまたさっきと同じような不快な気持ちになるだけだと判断し、広場から抜け出そうと思った矢先の出来事であった。
「対する挑戦者側に座っているのは飛び入り参加した謎の美少女!二次元の世界から飛び出てきたのかと見間違うほどの美貌からどんな実力がとびだすのか!?」
「おいおい…嘘だろ?こんな偶然があってたまるかよ」
さっきの怜也との遭遇はあらかじめ連絡が来ていたからわかっていたことではあった。なので特段驚きはしなかったが今現在進行形で起きている出来事に関してはいくら休み中学生が多く訪れるこのショッピングモールだろうとありえない。いや、あってはいけないのだ。
実況者の紹介の後、映し出されたその姿は…
枝毛一つすらない綺麗なストレートの髪に綺麗な瞳をした、色が見えない俺ですら見間違えることなんてあるわけが無い。まさに傾国の言葉が似あう絶世の美少女
―――一条柚菜の姿がそこにはあった。
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