第一話 王冠を脱いだ少年
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今日は七時と十三時と十八時に投稿します
世界が灰色に見え始めたのはいつ頃だっただろうか。
今の俺は美しい風景に感動せず、仲間との友情を誓えず、恋に酔いしれることもない、どうしようもないダメ人間だ。
家族の励ましの言葉から逃げ、かつての戦友の同情に逃げ、本当に好きなものからも逃げた結果、俺に待っていたのはどうしようもない孤独とどこまでも広がる灰色の空だった。
―――好きなことを続けることは、決して楽しいだけではない。
どれだけ使えない能力だと罵られたかわからない。陰口を通り越して手を出されたこともあった。それでも俺は進み続けた。進み続けた先に、きっと光が待っていると信じて。
しかし、現実は無常だ。ひたすらに努力を積み重ねた先に待っていたのは信頼していた仲間の裏切りと罵倒だった。
俺は、これから先何をやったところで無駄なことを悟った。大好きなものに背を向け、何もかも捨てて逃げた。
こんな俺でも、いつかは救われるのだろうか。誰かが救ってくれるのだろうか。それともなにかに救われるのだろうか。
何が俺を救ってくれるのか、今の俺には分からない―――
灰色の街を、灰色の制服を身にまとい、灰色の友人たちと歩く。
いや、これを友人というのは些かこいつらに失礼な気がする。なぜなら、俺はこいつらに微塵ほどの興味すら抱いていないのだから。
高校生になって間もなく訪れる初めての長期休暇、GW。まだ五月にもかかわらずうだるような暑さで、歩くのが嫌になってくる。
そんなGW初日、俺は一か月前に知り合ったクラスメイト二人と親交を深めるといった目的で高校の近くにあるショッピングモールに来ていた。
二年前に新しくできたらしいこの大型ショッピングモールは買い物だけではなく、大規模のゲームセンターや遊園地などを内蔵した小さな子供から高齢者までの需要を余すことなく満たす、まさに楽園といっても差し支えないだろう。
空調が効いていて快適な店内をとある一つの目的地を目指して歩く。
七年前の例の事件以来、俺は何かを信頼するということを忘れてしまっているらしい。どれだけ好意や親愛を向けられたところでいつかは裏切られるのではないかという気持ちが先走ってしまい誰も何も信頼することができない。まったく、反吐が出る。
常に後ろめたい気持ちを抱き、自己嫌悪に浸りながら俺は歩く。
「なぁー、ちょっとどっかで飯でも食べないか?」
一か月前、高校に入学してから浮かない程度に作った友達が言う。きっと本心では俺ももっと仲良くなりたいと思っている。しかし過去の出来事がそうなることを許そうとしない。
「いいな、それ。ちょうど腹も減ってきたしな」
ぶっちゃけた話、微塵たりともいいなとは思っていないし、腹も減っていない。しかし今の俺にできることは関係を壊さずにのらりくらり同調を続けることだ。何のためにトラウマを我慢してこの高校に入ったのだから、目的を果たすためにも俺の本心を誰かに打ち明けることは得策ではない。
「なぁー?俺らも入学してから一か月たったけど何かあったりしたかー?」
食事ができる三階にはもう少し距離があるため、話は次の話題に移っていく。
「何かってなんだよ、何かって」
「そりゃあもちろん女の子関連だよ!先輩から聞いた話だけど今年の一年ってかなり豊作みたいだぞ?」
「そうなのか…確かに可愛い子多いよなぁ…俺の女神さまはいつになったら現れてくれるんだよー…」
「いつになっても現れないから安心しろよ」
そんな他愛もないいかにも男子らしい下世話な友人たちの会話を適当に聞き流しながら歩く。思えば16年間の俺の人生の中で誰かを恋愛的に好きになったことなんてなかった。そんな余裕もなかったというのもあると思うが、七年前以降、俺にはそういった感情というものが失われてしまったのかもしれないな。
―――いつか俺にもそんな女神さまが姿を現すのだろか?
「でもなんといっても今年の一年で一番可愛いのはあいつだよな」
「そうだな、間違いない」
二人は口をそろえてある一人の女生徒の名前を口走る
「「一条柚菜!」」
「いやーやっぱ一条さんだよなー」
「圧倒的なAIM力で国内デュオリーグ優勝を果たした[siz]コンビ、その二人が溺愛してる一人娘にあの美貌だろ?初めて見たときは御伽話のお姫様がそのまま出てきたのかって思っちまったよ」
「とんでもなく鮮やかな水色の髪に黄色の瞳、誰も寄せ付けない気丈な態度は玉に瑕だが、それがむしろミステリアスな感じがしてたまらないよなぁ」
一条柚菜、その名前を聞いたのは八歳の時だった。大人たちに混ざって毎日のようにスクリム(※1)に出場し、練習を重ねていた時期、当時からすでに頭角を現し、本人たちの絶え間ない努力とPC向けゲームであえてコントローラーを使用することで得られるAIMアシストにより絶大的な殲滅力を手に入れ鬼神の異名で恐れられたsizコンビの名前は国内に轟いていて、スクリムで対面することも珍しくはなかった。勘違いされがちだが二人のハンドルネームはそれぞれ別に存在していて、sirius,zeinの頭文字をとってsizと呼ばれている
そんな二人は夫婦であることは有名な話だが、どうやら自分の両親と昔から交友があるらしく、娘を連れて自宅に訪ねてきたらしいのだ。俺はその時部屋にいたので顔を見ることはかなわなかったが、後で両親達から話を聞いた。
なんでも両親二人直伝のAIMを持っていてAIMだけなら普通にプロとしてやっていけるレベルらしい。しかし手に入れた<月の祝福>が得意分野とかみ合わず、苦戦を強いられているという話も聞いた。
当時の俺にも今の俺にとってもどうでも話だったので適当に聞き流す。確かに容姿も含めて魅力だと思うし色が見えない俺が見ても女性として優れているとは思う。しかし恋をするかといったら別の問題だと俺は思っている。
俺の間違いでは無ければ中学生の間、何人かの女子生徒から密かに思いを寄せられていたことがあるが、人との付き合いだったりを考えるたびにそこに意味は存在するのか不思議になる。仮に恋が成就して男女交際に至ったとしてもそこからどうするのだろうか?まさか結婚するわけでもあるまい。
これに関しては自分は一生理解できない感情なのだろうなと感じる。
「そういえば七宮はどうなんだ?気になる子とかいたりするのか?」
急に話を振られたが嘘が得意な性分ではないので正直に答える
「特にそういった子はいないな。しいて言うなら家で飼っている猫が好きだ」
一か月前、一人暮らしの為引っ越ししたマンションの前に捨てられていた子猫だ。最初は誰かが拾ってくれるだろうと考えて放置していたが、何日たってもそこにいることからやむを得なく家に招き入れてしまった。最初こそ邪険に思っていたがいざ飼ってみるとなかなか悪くない。
「なんだよーつまんない男だなー」
「つまんない男で悪かったな、ところでお前こそ何かないのか?」
適当に会話をこなしながら歩みを進める。
歩いていくうちに様々な店舗が目に入る。服屋や喫茶店、雑貨屋など様々な店舗から陽気な声が聞こえてくる。
客寄せだろうか。そんなどこにでもあるような風景の中に、五年前ほどから急激に増えだした光景がある。
それを目にしたとたん俺は非常にいたたまれない気持ちになり、咄嗟に目をそらす。
そこに移る光景は、トラウマを抱えている俺にとってはあまりにも毒だった。
しばらくは毎日投稿です
一日二回投稿もするかもしれません。
ps.七翔くんはめっちゃクールに見えますが普通に男の子です
※1 知り合いやプロチーム、もしくは同チーム内でメンバーを2つに分けて行う練習試合の事