第十二話 ここから綴られる伝説(柚菜視点)
これで柚菜視点はひとまずラストです!かなり綺麗にかけたと思います!
無事に転移は成功した。運が悪く既にその場に敵がいた。なんてことは無く今は転移後の硬直中だ。
第2ラウンド開始まで残り8分。短距離の移動スキルが私には無いので有利ポジションを取るにしても出来るだけ早く移動しなければならない。
硬直時間中に辺りを見回して状況を整理する。
第2ラウンド開始時のデフォルトのスポーン地点は誰が見ても公平でわかりやすいように左右対称で作られていることが多い。だから男が8分後にスポーンするであろう場所は2つに絞られた。どちらにスポーンするか、大きな賭けになるがそれくらい乗り越えて見せないとこの勝負に勝てるわけが無い。
今回の第2ラウンドのマップはどうやら古城らしい。安置にギリギリ入る形で奥にそびえ立つ大きな城と戦いの主な舞台となる庭園がある。
私は安置ギリギリに存在している古城。それの左右に存在する高い監視塔のような場所に目をつけた。
ーーーあそこなら両方のスポーン地点を監視することができる
丁度転移硬直が解除された。私は今まで練習したスライディングでの高速移動を用いて監視塔に近づいていく。
スナイパーライフルに加えてサブウェポンとしてサブマシンガン、それに各種装備のせいでかなりの重量となっていて移動が遅い。スタミナの減りも速いせいでなかなか目的地にたどり着かない。
第2ラウンドの安置は狭いと言っても短距離を一瞬で転移出来たり高速移動バフをかけることも出来るこのゲーム性なため、実はかなりアンチは広かったりする。
ーーー間に合わなかったら間違いなく終わり。間に合っても狙撃準備が間に合わなければ終わり。
そんな絶望的な状況でも私は走り続ける。
必ず間に合う、いや、間に合わせるんだ。
なんとか監視塔のふもとに到着した。この時点で残り時間は3分。監視塔の高さも考えると絶望的とも思える状況だが、私にはまだ秘密兵器がある。
そう、このゲーム、マップの至る所にクエストが存在しているのだ。
クエストの種類は様々で、ここよりはるか西に巣食っているドラゴンの討伐なんていうゲーム中にできるか!ってものから迷子の猫を探すといったものまである。クエストの目的地はマップに表示されるためこういった類のクエストは簡単だ。
そしてクエストを達成すると、達成したクエストの難易度に応じて特殊なアイテムを貰うことが出来る。
例えばドラゴンを倒すクエストを達成出来れば、全武器中威力トップでありながら、敵を全て追尾する銃弾が入っているアサルトライフルが貰えたりする。
高難度クエストを達成出来れば勝利に向けて大きなアドバンテージとなるため、クエスト達成を主な戦術として戦うチームも一定数存在している。
高難度クエストとは裏腹に、猫を探したりする低難度クエストは、戦況が覆る程のアイテム報酬がある訳では無いが、高難度クエストと違い報酬が固定なことに加えて使い捨ての便利アイテムが報酬となっていることが多いので、市街地を探索して装備を集めていく通常のゲームスタイルにプラスアルファで達成したりする。
私のような移動スキルがないスナイパーライフル使いにはおよそ必須と言ってもいいレベルのクエスト報酬アイテムが存在する。
<グラップリング・フック>
市街地の路地裏に入って十秒キャラを放置すると確定で起きるチンピラを討伐するイベントで入手出来る。出てくるチンピラはとても弱いため数秒で達成する事が出来る上そのアイテムの利便性からアイテムの所持数に制限があるこのゲームでも採用されることの多いアイテムである。
<グラップリング・フック>は文字通り壁にフックのようなものを突き刺して突き刺した場所まで使用者を引き上げてくれるという代物だ。
突き刺した場所までの所要時間はかなり短く、距離もあるため、こういった高所を取る時に最適のアイテムと言えるだろう。
早速私はアイテムを取りだし、監視塔の最上部にフックをさして移動する。
あっという間に監視塔の一番上に辿り着いた。残り時間はあと二分。余裕があるってほどの時間ではないが、狙撃の準備くらいは容易く可能だろう。
まだ細かい銃の名前は覚えていないが、威力の高い銃だけは予め形で覚えておいたのだ。
ボルトアクション式スナイパーライフル【shocker】にさっき拾った倍率4-10倍のスコープとサプレッサーを取り付ける。弾は予め装填されているため、それを使う。
地面に横ばいになり、バイポッドを通じてスナイパーライフルを地面に安定させる。
ここからスポーン地点までは少し遠いから縦方向の偏差を工夫して撃つ必要がある。
ふたつあるスポーン地点。そのひとつに照準を合わせた。もう片方のスポーン地点に現れてしまった場合、初弾が取りにくくなるが位置がバレていないことは確かなので落ち着いて撃てば問題ないと自分に言い聞かせる。
この狙撃で私に勝ちの目が生まれるかどうかが決まる。少年を助けられるかが決まる。そんな状況に思わず手が汗ばむ。
チラと少年を見れば、私の服の裾を握りしめながら恐怖で震えている。
ーーー絶対に助ける。
強制スポーンまで残り十秒。スコープを覗き込む。
一回のミスも許されない。人生初のまともな戦闘にしては随分と大変なものだ。
そうだ、この試合が終わったら例のフードの人に思い切って話しかけてみよう。人と話すのは緊張するけど、どうにもあの人のことが気になって仕方がない。......仲良くなれるといいなぁ...
最初は割り込みシステムでの勝利を考えていたけどそんな事をしてくれそうな人は観客にはいない。私だけで勝つしかないのだ。
まだまだ僅かだけれど、確かに生じた勝ち目という可能性。
遥か遠くに悠然と佇む一番星。人の力では到底届かないその場所に、私は道標を示す。
私はそこに届かないくてもいい。でも、それでも
ーーーきっと誰かが、この道を歩む日が来るから。
カウントは残り3秒。
私はこの後来るべき戦闘に備えるだけなので気づかないうちに荒くなっていた呼吸を整える。
そして再び周りの観客を見渡す。
ーーー最初、私の見間違えかと思った。
思わずもう一度見返したが、それは消えていた。確かにそこにあった気がするのに、今は見えない。まるで時間が止まったような気になる。
ーーー広場を取り囲む観客の最前列にただ佇む、まるで魔術師のような金の刺繍が入ったローブに、よく分からない兎の仮面を被った男。
最初見た時、彼の頭上に大きな冠があるように見えた。
それは白とも黄色とも言えない色で大きく輝いていて、月のようだった。
もう一度見返した時、その冠は消えていたが、その分これまで自分が見たことの無いような怒りと気迫を感じた。
相手は仮面を被っているので、確証はないが、目が合った気がした。
ーーーお前は、どうしたい?
そんな声が聞こえた気がした。色も時間も止まった、そんな世界で彼の声だけがハッキリと頭の中で繰り返される。
「勝ちたい!!勝って私の物語をここから始めるんだ!!」
聞こえるはずがないのに、私はそう叫んでいた。
ーーー俺は、お前を救ってみせる。
そんな声が聞こえた気がした。
ーーーカウント、0秒。
私の銃弾が、相手目掛けて撃ち放たれた。
私は未来が読めるわけではないが確かにわかることが2つある。
ひとつは、この弾丸は間違いなく敵の頭に命中する事。
もうひとつは、モニター以外を見ていない私でもハッキリとわかる事だ。
ーーー男が観客席を飛び越えて私の元に向かってきている。
ーーーーーーーーー僅か24インチのモニターで構成される戦場に、身を投じようとしていた。
とりあえず柚菜視点はここでおしまいです。ついでに一章もまもなく終わります。
作者は今流行りのなんちゃらレジェンズのプロゲーマーだったのでアイテムとかそういうのはそこに引きずられてる感あります。
今回は綺麗な文章を意識して抽象的だったり幻想的に書いてみた部分があるんですが、どうでしたかね?




