第0話 moon crown
初投稿です
今日は七時と十三時と十八時に投稿します
<moon crown>
これまでに数々の超ヒット作を手掛けてきたmoon社が制作を手掛けたことで話題となったこのゲームはこれまでのe-sportsという文化をなにもかもひっくり返した。
これまでのe-sportsとはあくまで趣味の範疇であり、サッカーや野球のチームのように企業のスポンサーと契約し、資金や環境の提供を受けながら大会やリーグの優勝を目指す。いわば競技として扱われる分野としては考えられてこなかった。
「ゲームは一日一時間」
「家にこもっているより外に出て友達と遊んだほうがよっぽど有益」
昔からゲームという存在はこういった価値観の元、肩身の狭い思いをしながら発展を遂げてきた。
五年前突如として一人称バトルロイヤル式対戦ゲームとして発売されたこのゲームだが、これまでに発売されたゲームとジャンルや形式がほとんど似ていることから、ブランド名ばかりが先走ってしまい肝心の内容には初め誰一人として興味を示すことはなかった。しかしある日を境にこのゲームは全世界で話題となる。
それは運営による一本のゲーム紹介映像であった。
「このゲームは剣も魔法も銃器もすべてが混ざり合った圧倒的な自由度を誇るなんでもありのゲーム。しかしどの武器が強いといったものは存在しないようにバランスが調整されている」
「各武器種に対する武器の数は30種類以上。どの武器もユニークな性能を保持していて、武器の組み合わせによって無限の可能性が生み出される」
完全秘匿の元で行われていたベータテストの参加者が軒並みこれは事実だと語ることからあっという間に話題沸騰。大手SNSサイトにてトレンド一位を一か月維持するなど、空前の盛り上がりを見せた。
しかも、このゲームの最たる魅力はそこではない。この程度では今までの価値観をひっくり返すようなことは起こりえない。
このゲームに実装されている二つの要素、これが現在のe-sortsブームを巻き起こし、外でサッカーをする事と家でゲームするがほとんど同義とされるようになった要因である。
<月の祝福>
初プレイ時に行われる簡単な質問に答えるテストと直後数戦のマッチによって決定される、そのプレイヤー固有のスキル群。大まかに分けて五系統に分かれ、その中から一系統が選び出されスキルが構築される。ゲーム開始から五年の時が過ぎたが、未だにスキルが完全に重複した事例は存在しない。そして、各スキルに相性はあれど、明確な最強は存在しない。プレイヤーたちは基本的にこのスキルをベースとして動きを展開するため、もちろん定石など役に立ちはしない。毎回異なった動きとそれに合わせた対処が必要とされる。
<connecting real world>
通称CRシステム。プレイヤーたちが降り立ち、争うことになるフィールドは毎回現実世界を参照した上でランダム生成される。その地域特有の地理や歴史。特産品などに沿ってイベントが発生するため、フィールド内に存在する鉱物や薬品を入手し、鍛造や調合を行う事も可能である。これらを理解しなくてもゲーム自体は進行し、勝利できる場合もあるがほとんどの場合こういった地域特有のイベントやシステムを理解していた者たちが勝利を収める。それによりこのゲームで勝つために地理や歴史の勉強を始める子供たちが続出、社会分野だけでなく、理科的な事象も学習可能で、以前と比べ、世界の子供たちの平均的な学力は向上したという。
《moon crown》はサービス開始僅か一日で総プレイヤー数一億人を突破、大手動画配信サイトの同時視聴者数は二位のゲームに百倍以上の差をつけて堂々の一位となった。
これ以降《moon crown》の爆発的人気は止まることなく、様々な芸能人や有名人もプレイを開始。大幅に増えた需要により各種デバイス(※1)やプレイ用のPC、その他e-sports関連の様々なものを販売するe-sportsショップが町中に乱立。
これらの経済効果を認識した各都道府県はゲームのプレイを推進する条例を制定。政府では新たにe-sports庁が設立されるなど史上最大規模の社会現象を引き起こした。
その裏でこのゲームの経済効果を狙った大企業が多額の賞金を抱える大会を開催、その大会で優勝し、賞金獲得を目的とした多数スポンサーのついたプロe-sportsチームも数多く誕生し、いままでマイナーだったe-sportsという存在が一躍有名となった。今や《moon crown》における競技シーンはオリンピック種目にも採用され、賞金規模数百億となる大会が毎年開催されるようになり、全世界の高校では《moon crown》の競技シーンでの腕前や実績で推薦入試を行う事も珍しくない。
それは日本においても同様で、大人たちだけではなく、多くの学生や若手選手が多額の賞金をかけて毎夜しのぎを削っている。
この一大ブームに乗じて数々のゲーム会社が様々なジャンルのe-sportsタイトルを発表。FPSゲームというものに忌避感を覚えている人たちも徐々に他ジャンルのゲームにて競技として活動を始めていった。
たった一本のゲームが巻き起こしたe-sports革命、それは現在も<moon crown>を中心に拡大の一途をたどっており、次第に家に籠ってゲームの練習をしていてもそれを咎める者はいなくなっていった。
革命の仕掛け人であるmoon社が主催し、賞金総額は千億円にも及ぶ唯一の公式大会であり、一年に一度開催される<moon crown championship>
約二か月間に渡る予選リーグを勝ち抜いたチームのみが参加を許される最もハイレベルで最も格式の高い大会
優勝すれば一生何もしないでも暮らしていける賞金に加え、優勝国では英雄のように扱われる。
これの開催都市に選ばれた国は莫大な経済効果を得ることから、第二のオリンピックとの呼び声高いこの大会だが、12歳以下のプレイヤーたちに参加権が存在する<moon crown championship U-12>も存在する
これでも賞金総額五十億円と、子供の理解が及ばない金額に加え、努力こそしているがコミュニケーションや情緒の発達といった面からあまり注目されないジュニア選手に日の目を当てるといった意味合いも込められていて、優勝チームを決める決勝は各大企業がスポンサーとなり運営を行うe-sportsチームのスカウトの場となっている。
こういった大会が開催されていく中、日本はもともとゲームに対する忌避感が強かったり、法整備が遅かったこと影響したのか日本人が大規模大会で活躍した例はごくわずかである。
しかしそんな時、<moon crown championship U-12>において、競技人口が既に億を軽々と超えていた時期、百人のみしか駒を進めることができない決勝ラウンドに日本人で初めて参加し、トップ3という輝かしい成績を残した当時弱冠九歳の少年がいた。
少年が持っていた<月の祝福>は決して使い勝手が良く、即戦力となりえるものではなかった。プロとして活動していた両親にはゲーム以外の別の道を提案され、少年が誰かに教えを乞うてもそのすべてが例外なく匙を投げる。そんなものだ。
しかし、少年は諦めなかった。自身のスキルの特性を完璧に理解し血のにじむような努力を続けた。誰に何と言われようと関係ない。‘’あの日‘’少女と交わした約束を原動力に突き進み続けた。
その結果彼は日本のジュニアプレイヤーでは間違いなく最強、海外のトッププレイヤーと互角以上に戦える存在となっていた。もともと圧倒的なポテンシャルを秘めたスキルであった事もあるが、それ以上に彼が近距離戦闘最強とも謡われた理由は僅か九歳の少年らしからぬ冷静な状況判断能力によるところが大きいと言えるだろう。
そして戦場で彼と対峙したプレイヤーは軒並み
「いつ彼に倒されたか理解できない。まるで魔術師に時を操られたようだ」
このように答えることから少年はこう呼ばれ始める
―――刻の魔術師と
しかしそんな彼は第三回<moon crown championship U-12>の後に突如として表舞台から姿を消す。
日本最強のジュニアプレイヤーとして国内外ともに圧倒的な人気を誇っていた少年が突然失踪したことから、彼自身の異名とかけて時間を誤って過去に戻してしまったのか?とも言われたが正確な真相は闇の中である。
少年は生きていれば今年度に高校入学を果たした16歳の青年となっているはずである。
これは仲間の心無い裏切りによって夢も希望もなにもかも捨てた男が、少女と出会い、仲間と共に‘’月の王冠‘’に手をかける物語―――
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※1 主にPCに接続する周辺機器のことを指す。マウスからキーボード、ヘッドセットやモニター、マウスパッドやマウスソールもそれに該当したりする。