1.のっけから躓き過ぎでは???
不定期更新です。
この世界は平和だ。
小競り合いこそ有れど、多くの者達はそれを談笑しながら盛り上がり、それ相応までやり合えば、その日の夜の内には酒を酌み交わせる。理解も懐も深い者達だ。
……けれども、そんな人の心にも、虚はある。暗く空いたその虚は不和を呼び、人々を本当の戦いへと誘うのだ━━━。
「聞いたか?隣国のギミューサの大臣が捕まったんだってよ。」
「そりゃまた穏やかじゃねぇ。なんでだ?」
「簡潔に言うなら、国家破滅させるような悪巧みが見つかったとかで。守衛に捕らわれてオシマイだってさ。
怪しい書物もあっちの魔法使いがどうにかしたらしいから、未曾有の危機を救った都かで守衛が━━━。」
争いの種潰えるの早いな???
すれ違いザマに耳に入った与太話は、頭に浮かんできたストーリーの出鼻をがっちり掴み、縦に90度、減し曲げてきた
平和なのはとても良い事だから別に構わないが、仕切り直し。
━━━━必ずしも、争いの種は人の不和だけには留まらない。小さな虚が変質を重ね、大きく積み重なっていくとするならば、『最初っから大きな虚』も、勿論存在する。それは世間一般には魔王やら皇帝やら混沌だとか言われたりする存在。
そして、同時にそれに対抗する為のファクターも存在していて、その二つがぶつかった時━━━。
「号外だよー!!件の前衛パーティ4人組が、また支配龍軍を打倒したって!!
さぁ拾った拾ったァ!紡がれた英雄譚の一幕を、とくとご覧あれェ!」
展開が早過ぎんか?
……とまぁ、こんな風に、世界の何処かしらで発生した崩壊の芽を、種族の頭数でひたすら潰していく。そんな人海戦術で、平和や均衡という物が保たれている。…と、此処まで頭の中で長々と語り終わった辺りで、草臥れた足腰を休める為に岩作りの噴水に腰掛ける。
この街『噴水都市チューシン』の名物である巨大噴水の周囲を見渡せば、老若男女種族問わずに何処らかしこで絶え間ない歓談が繋がれ続ける。
それだけでなく、許可証のある物は露店を開いて、中々手に入らない異国の品々を格安、もしくはぼったくり価格でそれらを販売する、同業の者達が見受けられる。
「━━━平和だなぁ。」
噴水の音で、自分以外に聞かれることのない独り言を呟いた後、腰に携えた剣帯やポーチの類いを整え、ケツに付いた砂粒を手で払う。
━━その手には、気が付けば『果物』が握られていた。
「ホント、平和で退屈だよ。」
名前は”ペリドット・ゴーシュ”。
職業は”盗賊の開拓者”。そのすぐ後ろでは━━。
「あれっ?おっかしいな…売りモンの果物がねぇ。」
商店の傍ら、困惑する同業の開拓者の姿があった。
そう、これも平和だから仕方ないと、適当に理由を拵えて、今日も盗賊としての稼業を少しばかりこなす。
そこまで気にする素振りもなく、瑞々しく艶めいたその果実を一口、勝ち誇った口で齧り、咀嚼する。
「あれ毒なんだけどなぁ。」
「(成る程これが天誅ですか。)」
『毒なんて売るんじゃねぇ』と言葉にする前に、意識が遠退くのを感じて俺の視界は暗くなっていった。