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迷いから明ける(ようやく出られた)

 「大体の効果は分かっていたが、まさか森に飛ばされるなんて……」


 転移した先はどこかの森だった。地図を持っているが、現在位置が不明である以上、役には立たないだろう。周囲を観察し、森の葉が茂って無い事、日当たりはどの程度か、そして、幸運な事に人の手が行き届いている痕跡があった。まだ新しい。

 これらの情報を基に、現在位置の候補となる森を三つピックアップした。そのうち二つが、近くに町がある。人の手がある事実から、恐らくはこの町の何方かに辿り着くのだろう。何れも、森の北側に町がある。


「(人の声がしたが、気のせいか?)」


 歩き出そうとした所、僅かに人の声が聞こえた気がした。もしかしたら、この辺りの狩人か冒険者かもしれない。道がどの辺りに在るか聞きだすのもいいだろう。だが、盗賊だった場合、引き返した方が良いだろう。少人数であれば、戦いに勝ってその辺りを聞き出すのも悪くはない。十分に勝てる可能性はある。

 俺は僅かに聞こえる声を頼りに歩き出す。

 草木をかき分け、無用な音を出さないように進む。


「止めなさい! それ以上私たちに近づかないで!」


 茂みを分け入って進むと、右側から女性の大きな声が聞こえた。どうやら盗賊に遭遇し、今にも戦闘に入りそうな様子だ。

 ナイフを取り出し、見える位置まで接近する。そして、何とか音を立てずに見える位置まで接近すると、女性冒険者が五人の盗賊に囲まれていた。歳は俺より少し上だろうか……?


「(ん?)」


 その女性二人は、人にしては何か様子が違うようだが、この距離ではわからなかった。しかし、様子を見るにかなり消耗しているように感じる。恐らくメインウェポンはロッドなのだろう。ここへ至るまで魔力の大半を使ったのかもしれない。杖と剣に、杖と弓と言う装備構成だ。

 俺はバックパックを静かに下ろし、右手にナイフ、左手にカットラスを構え、呼吸を整える。


「シッ!」


 ナイフを盗賊目掛けて投げ放ち、それを追う様に走り出す。投げたナイフは盗賊の右腕に突き刺さる。


「ぐあぁ!」


「何だ!?」


 混乱している隙に、別の盗賊に躍りかかり、カットラスを振り抜く。対象となった盗賊は反応することが出来ず、首を刎ねられる。


「助けに来た。あなた方はまだ戦えるか?」


 盗賊に剣を構えつつ、後ろに庇った二人に問いかける。


「助太刀有難うございます! 私はまだ戦えます」


「私もまだ弓を番えられます!」


 どうやら戦闘は楽に進みそうだ。4対3、その内盗賊の一人は右腕を負傷。後ろの二人は疲労しているものの、まだ戦える。勝てない訳では無さそうだ。


「このクソガキ!」


 盗賊の一人が、自分に刺さっていたナイフを引き抜き、俺に向かって投げつけてきた。しかし、ナイフは在らぬ方向へ飛んで行った。ナイフは茂みの中へ消えた。


「下手クソ!(回収が面倒な位置に飛んでいきやがった)」


 剣を持っている盗賊が三人、ナイフを持っている盗賊が一人。負傷している奴は剣を左手に持ち替えている。

 俺は、近くにいたナイフの盗賊に攻撃すると見せかけ、近くに居た剣を持つ盗賊に斬りかかった。


「ぐあ!」


 盗賊の腹部を深く一文字に切り裂き、傷口から内臓が飛び出し、痛みによるショックで倒れた。


「良くもやりやがったな!」


 背後から近くに居た盗賊が、ナイフを突き刺しに掛かり、避け切れずに鎖帷子に刺さるが、その下に巻き付けていた太めの鎖が刃を通さなかった。


「なっ!? かってぇ!」


「(あぶねー、鎖を仕込んで良かった……)」


「離れなさい!」


 剣を持った女性冒険者が刺突を繰り出し、ナイフを持った盗賊の背後を心臓ごと貫いた。


「大丈夫ですか!」


「大丈夫だ、ありがとう」


 礼を言いつつ、次の攻撃に備える。それと同時に、盗賊が斬りかかる。

 しかし、その足元に矢が突き刺さる。盗賊はそれに怯みたたらを踏む。


「調子に乗るんじゃねぇ!」


 別の盗賊が斬りかかる。俺はその剣をカットラスで受け流し、体勢を崩させる。


「慣れない左手で剣士に斬りかかるとは、馬鹿だな」


「えい!」


 体勢を崩した盗賊に、近くに居た女冒険者が剣を振る。その刃先は盗賊の頸動脈を捕え絶命させる。


「さあ、後はお前一人だけ。ここで投降するか、さっさと死んでくれないか?」


 状況的に、明らかに盗賊が不利だ。しかも、剣士が二人に弓を装備したものが一人。動けば直ぐに矢が突き刺さるだろう。

 盗賊は己の不利を悟り、剣を投げ捨て、両手を挙げた。


「参った! 命だけは勘弁してくれ!」


「……襲われたのは君たち二人だ。どうする?」


 俺は盗賊に剣を向けつつ、彼女たちに問いかける。


「私たちは盗賊の調査の依頼でここに来ました。できれば彼を捕縛したいです」


「……だってさ。そこのお前、両膝を突き、手を後ろにやるんだ。少しでも不審な動きを見せたら……お前を待っているそこのお仲間の元に連れて行ってやる」


「は、はいぃ!」


 盗賊は脅しに屈して、指示どおりに膝をついて両手を後ろにやる。


「バインド」


 俺は拘束魔法を唱え、盗賊の体を両手ごと縛る。


「よし、これで問題なく連行できるぞ」


「あ、あの、何から何までありがとうございます」


「私からも、お礼を言います。窮地を救っていただき、ありがとうございました!」


「あぁ、謝意は受け取ろう……君たちを見る暇がなかったが、エルフだったんだ」


 俺はようやく彼女たちをじっくり見ることが出来た。何と、二人はエルフの冒険者であった。両耳が長くとがっていて、髪の色は銀色だった。よく見ると、顔立ちがとても似通っていて、もしかしたら姉妹かもしれない。


「はい、私はフィークス・I・アリーシャです。こちらは妹の」


「フェリシア・I・アリーシャです」


 剣を持ったエルフがフィークス、弓を持っているのがフェリシアと言うようだ。名前から察するに、恐らく高貴な身分の方々かもしれない。


「私はヴェルベットと申します。フィークス殿、あの時のフォローは見事でした」


「敬語は結構です、命の恩人にそのような気遣いをさせるわけにはいきません。それに、今は貴族でもなく、一介の冒険者です」


「……そうか、なら普通に喋らせてもらう。そうでなければ失礼だしな。そうだ、少し待ってもらいたい」


 カットラスを鞘に納め、飛んで行ったナイフを回収しに茂みに分け入る。ナイフは直ぐに見つかった。続けてバックパックを回収し、背負う。


「待たせた」


「いえ、お構いなく。ところで、何かお礼をしたいのだが。私たちでできる限りのことをしたい」


「私からも、何か差し上げれるものが有ればいいのですが」


「そうだなぁ」


 当初は町まで案内して貰おうと思ったが、多分、彼女たちはそのぐらいでは納得しないだろう。俺としても、それ以上望むものが無い。路銀も十分にある。

 そうなると妥協点は……。


「じゃあ、近くの町までの案内と、この盗賊の調査報酬の四分の一を貰おうか」


「「え、そんな事で良いのですか?」」


「実は、スキルが勝手に発動してしまい、この森に飛ばされて何処に居るか全くわからなかったんだ。ここを抜けるため、それだけの為に人を探していた。報酬は別に要らないが、そうでもしなければ君たちは納得しないだろう?」


「なるほど、そういう経緯があったのですか」


「ですが、報酬の四分の一が私たちを助けた対価とするには微妙なラインですが……」


「すまないが、町への案内以上に求めるものが無い。これ以上何を欲しろと言われても困るのが関の山なんだ。とりあえず、ここを離れないか? 血の匂いで、魔物を引き寄せるかもしれない」


「それもそうですね」


「私たちも、正直魔力が乏しい状況なのでこれ以上の戦闘は避けましょう。お姉さま、いったん町へ引き返しましょう」


 俺達は町へ行く準備を整え、拘束した盗賊を引き連れて森を後にした。

 西へと進み、暫くすると森を抜けて整えられた道に出た。俺はひと先ず、そのことに安堵した。


「所で、どの町へ向かっているんだ?」


「あぁ、ユールフィンデの町へ向かっているんだ」


「なっ、そんな所まで飛ばされていたのか!」


 驚いて地図を確認すると、俺が飛ばされる前の場所から、馬車で一か月も掛かる場所に飛ばされていた。しかも、ピックアップした場所から大いに外れ、町は南側に在り、俺は反対側に進んでいたことになる。その先は崖で、海があるだけだ。


「運が良かった。君たちと出会わなかったら、あのまま森で死んで居たかもしれない」


「お互い幸運だった。因みに、この調子で問題なく進めれば、後数時間で街に着くはずだ」


「いま、私たちがいる場所がこの位置です」


 フェリシアが地図上の道を指さし、現在位置を把握した。


「ありがとう」


「いえ、これくらいは礼には及びません」


 それからは道中、魔物と交戦する事も無く、お互い質問し合いながら歩いて行った。

 彼女たちは、俺が遠い領地から飛ばされた事に驚き、そのスキルは隠した方が良いと勧められた。当然、そうするつもりだ。

 そして、彼女たちはエルフの貴族ではなく、王族だった事に今度は俺が驚いた。彼女たちは王族としての修行の一環で、人々の暮らしを知る為に冒険者をしているという。

 そう言えば、エルフは排他的で引き籠りだと言うイメージがあったが、どうやらそうではないらしい。寧ろ、外交に積極的だった。

 恐らくは、自分たちの種族を守る為に、諸国に対して積極的な活動をしているのだろう。

 そして、俺からは話す事が無くなると、彼女たちはまだ話を続けていた。俺は時折、それに相槌を打ったりと、同意を求められたりと大変だった。もうただの返事マシンと化して、早く町に着くのを祈った。

 やれ、女性の姦しさは苦手だ。

 そして、俺はようやく町にたどり着いたのだった。

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