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決別と始まり(迷子になるまで)

 「ヴェルベット・マイアーよ、そなたの天恵(ギフトオブゴッド)スキルは『神出鬼没』である! クラスは《不明(アンノウン)》であるぞ」


「いったい何の因果だよ」


 自分に与えられた天恵(ギフトオブゴッド)スキルを、声高らかに宣言され、思わず突っ込みを入れてしまった。

 この世界では、十七歳を迎える頃に天恵(ギフトオブゴッド)スキルを授けられる『技能授与式』を受けることになる。別に無くてもいい。天恵(ギフトオブゴッド)スキルというのは、何時の間にか勝手に身につけいている事がある。だから、スラムの住人等の貧民でもチャンスはある。

 でだ、無くても良い式を受けるのは、さっさと自分の天恵(ギフトオブゴッド)スキルを知ることが出来ると言う利点もあり、平民以上の人間が受ける。デメリットは、まぁ……よく解からん天恵(ギフトオブゴッド)スキルだったり、外れ天恵(ギフトオブゴッド)スキルを第三者(つまり赤の他人)に晒される。

 最悪な事に、俺は貴族だ。天恵(ギフトオブゴッド)スキルの名前から察するに、ただ現れたり消えたりする様なものだろう。だが、どんな天恵(ギフトオブゴッド)スキルでも、使い様によっては有用であったり、思いがけない成果を得られる。

 問題は、子爵と言う格式高い家の親父であり当主がこれをどう判断するか……。別に物語である様な追放されても良いように手筈は整えているが。


「神父さん。その天恵(ギフトオブゴッド)スキルの効果を教えてくれないか?」


「いいだろう」


 そして、目の前に透明なボードが表示される。


『神出鬼没』


 この天恵(ギフトオブゴッド)スキルの保有者は、前触れも無く姿が現れたり消えたりする。


 たったそれだけだ。それ以外の事は何も書かれていない。前触れも無くと言う事は、恐らくはパッシブで発動するんだろうなーと考えた。


「理解した、もう良いよ」


 様々な天恵(ギフトオブゴッド)スキルを調べたことがあったが、『天恵(ギフトオブゴッド)スキル大全集』の中にはこんな天恵(ギフトオブゴッド)スキルはなかった。クラスは『不明(アンノウン)』だろう。

 天恵(ギフトオブゴッド)スキルのクラスは順位が有り《一般(コモン)》《上位(ハイランク)》《伝説(レジェンダリィ)》《神話(ミソロジー)》の四種類がある。そして、順位に属さないクラスの名称は《不明(アンノウン)》《無比(ユニーク)》がある。《無比》は世界を探しても必ず一人しか保有しない。《不明》は明確な説明が無く、その真価を自分で探さなければ《一般》並みの価値しかない。場合によってはそれよりも劣る。

 そして、口煩く言う親父のご希望は《伝説》以上。最低でも《上位》だ。

 特にショックを受けるでもない。むしろ楽しみですらある。誰も解き明かした事の無い天恵(ギフトオブゴッド)スキル。その真価を、この手で発揮することが出来るのだ。

 その結果、追放されるようなことがあっても、俺は決して変わることはないだろう。

 馬車に揺られ、俺はその中で一人座っている。往復は御者を除いて一人だ。


「ヴェルベット様、大変な事になりましたね」


 御者席から馬車の中へ声をかけられる。俺はそれに応える。


「別に~? この天恵(ギフトオブゴッド)スキルを得た結果、追放されても俺はどうとでもなる。心配する事はない」


 特に嘘は言っていない。紛れもなく本心だ。それをどう捉えるかは当人の自由だが、哀れまれるのは嫌悪する。

 当主との家族仲は微妙だが、幸いにも、弟との兄弟愛には恵まれていた。俺は天恵(ギフトオブゴッド)スキルの存在よりも、自身の努力次第で身に付くスキルや魔法を好んで習得して行った。その努力を弟だけは見てくれていて、俺は弟に役立つであろう魔法とスキルの習得を指導した。

 俺は与えられる物だけに頼るのは信頼できない。自分をよく知り、己の努力に報いて付いてくる結果がとても嬉しいんだ。だからこそ、天恵(ギフトオブゴッド)スキルの価値に重きを置く貴族の価値観は理解できないし共感できない。

 この世界は前世の世界以上に努力を認めてくれる。スキルと称号が何よりもその最たる例だ。このシステムを有効活用しない手はない。

 その結果、俺は幾つかの魔法を修め、スキルも習得し、それに見合った称号までも手に入れた。何と幸運な事か。

 前世、山で遭難して餓死したが、それに見合った見返りが出来た。

 よって、もし(十中八九だろうが)追放されても不安はない。前世の俺から見れば、間違いなく今の俺は優秀だ(これでも客観的にみているが、しょせんは自画自賛だろう)。その価値を理解できないようじゃ、この領地は終わったな。

 まぁ、弟がいるから問題ない。



 「なにぃ!? 神から与えられた天恵(ギフトオブゴッド)スキルが《不明》だとぉ!?」


 案の定ブチ切れた、親父の姿に侮蔑の目を向ける。生まれも世界も選べない。こればかりは仕方ないが、自分の倅の積み上げて来た物を見ないとは、親としてどうかと思うぞ。


「父上……」


「ヴェルベットよ、マイアー子爵当主として命ずる。お前をマイアーの名を剝奪し、この子爵家から追放する。ここを三日以内に立ち去れ」


「……御意」


 よし、すぐに出よう。弟に会ったら直ぐに出よう。既に準備はできているし、元々俺には貴族は勤まる筈がない。めんどくさいし。

 そうと決まれば、俺は自室に戻り手軽に準備を澄ませる。


「携行食は入れている。着替えも良し。ナイフも複数仕込んでるし、戦闘服も何着かある。この屋敷を抜け出して、爺さんを助けた甲斐が有ったぜ。イベントリーパックを貰えるなんて」


 少し大きめのバックパックだが、見た目以上に物が入るマジックアイテムだ。しかも一級品。物が腐らないというのはありがたい。その他、砥石や薬など……ガキだったとは言え、大人に頼らずよくもまぁここまで道具をそろえられたものだ。我ながら呆れも感じる。

 服装も外套に鎖帷子にグリーブと手甲、そして武器にカットラスにバスタードソード。何よりもメインの武器が『鎖』だ。腕や胴体に隠すように巻き付けてあるため、判りやすいような武器と違って警戒され難い。鎖帷子と組み合わせて装備している為、斬撃を通さず、打撃に対しても少々軽減が出来るだろう。例え弱点の刺突をしようものなら、簡単に相手を捕える事が出来る。そのあたりに対策もしっかり練っているからな。


「さてと、別れを言いに行くか」


 弟の部屋はすぐ隣だ。ここを出れば、もう引き返せないかもしれない。


「(……もう、この部屋で思い残すことはない。別れを告げるか)」


 必要最低限の家具しかない部屋を出て、俺は弟に会いに行った。

 扉からでて、迷いなく左へ行く。たったの数歩、歩いた先に扉に突き当たる。

 コンコンとノックをし「俺だヴィーディア、入っていいか?」と声をかける。


「兄さん? あぁ、入ってくれ」


 許可が下りたので、無言で扉を開ける。弟は、入ってきた俺の姿を見るとギョッとした。


「どうしたの、兄さん……? まるで、どこかへ旅に出る格好をして」


「まるで、ではなく……正に旅に出ようとしているんだ。だから、家族として接してきてくれたお前だけにな、別れを告げに来た」


「どうして……」


 ヴィーディアは追いすがる様な顔をし、悲痛な様相で問いかける。


「天恵スキルがアンノウンクラスだった。三日以内に追放命令が出たんだ」


「そんな! 兄さんは、あんなに頑張ったのに、どうしてそんな酷い目に合わなきゃいけないんだ! おかしいだろ!」


「良いんだ、これで」


「良くないよ! 何で平然として居られるんだよ! 悔しいって思わないのかよ!? 何でだよ!?」


 ヴィーディアは、俺の両肩を掴み強く問い詰める。

 俺はそれに、出来るだけ優しく微笑みながらこう言った。


「唯一、認めてくれるお前がいるからだ」


 弟は、今にも泣きだしそうな顔だった。俺は何も言わず抱きしめ、落ち着かせることにした。


「泣くなや、永久の別れじゃない。別に、俺はそう簡単に死ぬ人間じゃないのは、お前が一番理解してるだろ?」


「だって、兄さんが……!」


「それにな、俺は貴族には向かない。そういう性でもないんだ。ここを継ぐには、余りにも野心がなさ過ぎた。向上心や努力は、お前が見たようにあっただろうが、貴族を務めるには、余りにも欲が無さ過ぎる。そして、俺はこの家を見限ってしまっている。ここでの自分を、何もかもを捨て去る気でいるんだ。そんな奴に、ここに留まる資格は無い。

 だから、これでサヨナラだ」


 弟は、涙を拭い俺に向き直る。


「兄さんはいつも一方的だ。自分が出来ると信じたら周りが否定しても、自分の意思を全然貫き通す」


「お前はそれに着いて来たじゃないか?」


「だって、そうでもしないと、置いて行ってしまうじゃん。結果的に自分の価値観が広がったけど、必死だったよ」


「悪かったな。あの時の俺は、ひた向きに自分の道を進んで周りを見る余裕なんてなかった。ここを去る意思がある以上、その為の努力を惜しむ気はなかった」


「絶対悪く思ってないよね」


「むしろ決意しかない」


「もう!」


 その後、互いに笑いあったが、次第に話すこともなくなり、お互い無言になった。


「じゃあな、ヴィーディア」


「兄さん、いつ会えるんだ?」


「さあな? 三年後か、六、七年ぐらいか? 簡単に戻る気はないし、戻れるかも分からない。俺の気分次第だ」


「戻る気なんて、やっぱりないんだ」


「だって、俺は《神出鬼没》だからな」


 そう言った途端に、窓が開いてないにも関わらず、風が俺を包む。


「スキルが発動したようだ。俺のスキルは、どう言う訳か勝手に発動する。さらばだ、ヴィーディア。お前が立派になるのを祈るぜ!」


 身を包むそよ風は突風となり、俺の姿を弟からくらました。

 そして、俺は弟の目の前から消えた。

 まるで神隠しのように消えたのだろう。気が付いたら、俺は森の中に立っていた。

 もう後戻りはできない。コンパスを取り出し、北を目指して歩いた。

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