7 実地訓練①
「今日は街の外に出て実地訓練よ」
アイリスの魔法の個人授業の冒頭、エクレールはそう宣言した。
これまで訓練場で魔法の授業をしてアイリスもある程度魔法を使えるようにはなっている。
的を目がけて放つ魔法は初心者魔法使いのレベルには達したとの評価だ。
「しかし、街の外での訓練とは危なくないですか?」
「大丈夫よ、わたしもいるんだし。それにアイリスもクレアから冒険者として活動するお墨付きはもらえているんでしょ? 冒険者としての活動も兼ねてどうかと思ってね」
エクレールは過保護な勇馬の疑問にそう答えた。
ここ最近エクレールに対して反発を覚えていたアイリスではあったが今日の提案はアイリスの希望にも合致したため異論はない。
結局、街の外で常時依頼の何かをしつつ魔法を使ってみようということになった。
「常時依頼としては薬草の採取や魔石、素材の収集ね。今日は薬草を取りに行ってその途中の魔物を魔法で退治するという感じかしらね」
この街の周囲のことは勇馬もアイリスも知らないのでエクレールに任せるほかない。
「それでどうして主様も一緒なのですか?」
今さらと言えば今さらながらアイリスがそう尋ねた。
「だって、授業はユーマも参加っていうのが条件でしょ? これは授業なんだから当然ユーマにも来てもらわないと」
アイリスとしては戦闘訓練を受けていない勇馬を危ないところへ連れて行くことには抵抗があったもののそう言われてはどうしようもない。
一方の勇馬としては好きで街の外に出たいとは思わないもののアイリスが心配だということもあるためついていきたかったので特に反対することはなかった。
ちなみに勇馬がレスティに来る前に買ったブルーバイソンの革の鎧はアイリスに装備させている。
勇馬はバーンリザードの革の盾を持ち腰にはショートソードを差している。
勇馬は自分が戦うことは基本想定していないがいざというときの護身用である。
「そういえば今日は魔法の授業でしたよね? アイリスには杖を装備させなくてもいいんでしょうか?」
「最初は杖なしで発動した方がいい訓練になるわよ。まあ、免許皆伝になったら杖の一本ぐらいプレゼントしてあげるわ」
そういうことでアイリスは無手での訓練である。
「まあ、今回の行程は初心者冒険者でも安全なルートで行くからそこまで心配しなくても大丈夫よ」
今回はアイリスの実地訓練ということもあり、歩く順番はアイリス、ユーマ、エクレールの順である。
レスティの街を出て西を向いて原野を歩く。
しばらく進むとところどころに木々の姿も目立ち始めた。
「この辺りから魔物や魔獣が出てくるから気を付けてね」
後ろからエクレールが注意を促すとアイリスは一層表情を引き締めた。
すると離れた木の陰から一匹のゴブリンが現れたのが見えた。
距離はおよそ30メートル。こちらに気付き近づいてくる。
「じゃあ、訓練開始ね」
エクレールがそう言ったのとどちらが早かったかアイリスは魔法の詠唱を始めた。
距離が離れているため盾役は不要である。
もっとも勇馬はいざとなれば盾を持ってアイリスの前に出る用意はあるし、その距離にまで詰められればエクレールが魔法を放つ手筈にはなっている。
「ファイヤーボール」
詠唱を終えたアイリスが炎系第1階梯の魔法を放つ。
およそ10メートルほどに迫っていたゴブリンに炎の玉が直撃した。
「まだよ、もう一発!」
魔法を受けてもまだ死なないゴブリンは吹き飛ばされながらも立ち上がると再び向かって来ようとする。その間にもアイリスは再度の詠唱を済ませ魔法を放つ。
「グギャギャ」
アイリスから2発目の炎の玉を受けるとゴブリンは断末魔を残して消滅した。
その後には小さな魔石が残されている。
アイリスは一応周囲を確認するとその場に残されていた魔石を拾う。
魔石を拾うまでが魔物の討伐だ。
「初めてにしては上出来ね」
エクレールは感心するようにアイリスにそう言葉を掛けた。




