33 基本が大事
勇馬たちがエクレールと再会した数日後。
この日の午後はエクレール先生の最初の授業が行われる。
場所として指定されたのは魔法ギルドに併設されている訓練場である。
エクレールに示された条件どおり勇馬もアイリスとともに授業にやってきた。
勇馬も元ライトノベルオタクとして魔法には興味深々だ。
魔力測定で自分には大した魔力はないと鑑定されてはいるもののマジックペンを使った付与魔法では未だ魔力欠乏に陥ったことはない。
なによりも転移してきた異世界人にはイレギュラーはつきものである。
そのことはライトノベルを読み込んでいた勇馬自身がよく認識していた。
(俺の隠された力がそろそろ覚醒するかもしれないな……)
治っていたはずの厨二病が再発しつつあった。
「じゃあ、授業を始めるわ。まず魔法を使う一番大切なことからね」
要約すると魔法には魔力が必要であり、その魔力は体の中にあるという話と魔力のコントロールが大事であるという話であった。
「まずは自分の中にある魔力を感じることから始めましょう」
アイリスと同様に勇馬も目をつぶって自分の中にある魔力を感じようとする。
すると胸あたりに何か熱い塊のようなものを感じた。
「アイリスちゃん、どうかしら? 何か掴めた?」
「胸のあたりに何か熱いものを感じます」
「ふふっ、多分それが正解ね。普通、魔力は胸のあたりを源として発生すると言われているわ。今度はその塊から一部を取り出すように意識してみて」
アイリスも勇馬も言われたとおりにやってみる。
勇馬はなかなかできなかったがアイリスは上手くすることができたようだ。
「それができたら取り出したものをゆっくりと手のひらに向けていくように意識してみて」
アイリスは自分の手のひらに何かが集まってくるような感覚を覚えた。
「はい、そこでストップ。力を抜いていいわ。まずはそこまでできれば大したものよ」
エクレールに褒められアイリスは照れたように笑った。
まずは自分の中にある魔力を意識して自由に操作できる基礎訓練から始めることになった。
「いきなり詠唱や魔法発動の実践を教える人もいるけど基本をおろそかにすると後がよくないわ。よほど才能があれば別でしょうけど並みの才能であれば良くて二流止まりね」
体内の魔力を効率良く移動させ、さらにその魔力を効率良く事象に変換させるには高度な魔力操作能力が必要とされる。
この基本をおろそかにすると同じ魔法を放つにも消費する魔力の量や威力に雲泥の差が出るという。
「というわけで最初は地味だけど基礎訓練からだから頑張ってね」
エクレールの言葉にアイリスは静かに頷いた。