31 視線の先には
冒険者ギルドにアイリスの魔法の授業をしてもらえる冒険者を募集した勇馬であったが、なかなか引き受けては現れなかった。
元々、冒険者ギルドの受付嬢からは、魔法使いは需要が高いことから、魔法使いに限定するのであれば多少報酬を高くしないと引き受け手がないかもしれないとの助言を受けてクレアのときよりも若干高めの報酬で募集をしていた。
しかし、その後1週間経っても魔法の個人授業を受けてくれる魔法使いは現れなかった。
「今、冒険者の活動が活発になっていますのでやり手の魔法使いはどうしてもそっちに流れてしまいまして」
状況確認のために冒険者ギルドを訪れると受付嬢がそう説明してくれた。
ちなみに冒険者の活動が急に活発になったのはこれまで仕事を回せていなかった『とあるギルド』が正常に戻ったことで冒険者がこれまでの分を取り戻す勢いでクエストを受注しているからとのことであった。
その裏話に勇馬は苦笑いを浮かべるしかなかった。
次の冒険者の個人授業の際、時間があったことからアイリスと一緒にクレアの元へとやってきた勇馬はアイリスの魔法の個人授業の引き受け手がいないことを相談してみた。
「せっかく相談してもらったけどわたしも魔法使いの知り合いはそんなにはいなくてね」
怪我で療養中のクレアが所属しているパーティーの魔法使いは女性とのことだが、しばらくは他のパーティーに参加しており今はレスティにいないということだった。
そんな話をしてこの日もアイリスの授業が始まった。
クレアの個人授業を何度か受け続けているアイリスは、最初のころよりも身体の動かし方がシャープになっていた。
ショートソードの扱い方、振り方、そのいずれも以前に見た素人っぽさが抜けて駆け出しの冒険者と言える程度には進化していた。
そんなアイリスは、今日も今日とて、クレアの指導を受けて訓練に励んでいる。
単純に剣を振るうというだけでなく、状況に応じた剣の使い方とでもいうのだろうか。
細かい取り回しのようなことも含めて指導を受けた。
勇馬も当初はそれを眺めているだけであったが、時折混じったりしながら自分自身も実技の訓練をして過ごした。
実技訓練がひと段落した後、座学のため訓練所の端にある椅子とテーブルでクレアの話を聞いていると突如訓練所に向かってくる足音が聞こえた。
その気配に3人の視線が向く。
そして3人の視線の先に現れたのは1人の女性だった。
「エクレールさん!?」
メルミドの街からレスティにくる道中、商隊を護衛していた冒険者パーティーの1人、赤茶色の髪にとんがり帽子、そして特筆するべきエロい身体と大きく胸元が開いた魔女服。
勇馬としては忘れるはずがない女性との再会に思わず名前を呼んでしまった。