30 とある日の昼下がり
この日勇馬はいつものようにアイリスを伴って付与魔法ギルドに行き仕事をした。
以前の腱鞘炎もすっかり治り、これまでと同じように仕事に励んだ。
午前中で仕事を終えると受付で今日の報酬をもらった勇馬はアイリスを連れてギルドを出た。
「せっかくアイリスと一緒なんだから一人では入りにくい店に行きたいな」
お昼時となりいつもどおり普通の食堂で食べることも考えたがせっかく領都レスティに住んでいるのだ。
それにこんなに美人の女の子を連れているのだからそれを周囲に自慢したいという気持ちもある。
「いらっしゃいませ~」
勇馬たちが入ったのはレスティのメイン通り沿いにあるおしゃれなカフェレストランである。
天気のいい日にはオープンカフェにもなっている富裕層に人気の店だ。
その値段により客層は景気の良さそうな商人や貴族階級もしくはそれに準じるレベルの者が多数を占めている。
一応ドレスコードはないということになっているが、その値段設定から平民では敷居の高い店となっており、高そうなお召し物を身に纏っている者が多い。
「いや~、このお店はちょっと1人で行くには勇気がなくてね」
明るい雰囲気の店内に置かれている調度品は洗練されており、そのおしゃれ空間は確かに男が1人で何となく来ると浮いてしまいそうな雰囲気だ。
「2人でも緊張しますよ~」
店の雰囲気だけでなくその客層から奴隷であるアイリスの場違い感は勇馬のそれをはるかに超えるものだ。
とはいえアイリスも女の子だけあってこの手のおしゃれなお店に興味がないわけではない。
「俺はランチセットとデザートにこのパフェを食べてみたかったんだ。外から見ていていつか食べに来ようと思ってたんだよね。アイリスも好きな物を頼んでもいいよ」
アイリスはメニューを見ながらどれにしようかと悩んでいる。
(いい意味で遠慮がなくなったな)
最初こそ自分は奴隷であるとして控え目であったアイリスの変化に勇馬もにやにやしている。
充実した昼食を終えると腹ごなしも兼ねて街をぶらついた。
今日はアイリスの個人授業は入っておらず1日フリーの日だ。
「そういえばアイリスは魔法って使えないの?」
冒険者の個人授業では物理戦闘を専ら習うことになっている。
魔法については学びたいのであれば他に頼んで欲しいと事前に言われているのでもしもアイリスに魔法の素質があるのであれば魔法使いという選択肢もあり得る。
勇馬としてはアイリスを冒険者にしたいという気持ちは正直ないが、アイリスがどうしてもというのであればやむを得ないとも考えている。
とはいえ近接戦闘職よりも魔法使いのような後衛職の方が比較的安全だという認識なので、魔法の素質があるのであればそちらに力を入れて欲しいと思っている。
「多少は使えますが戦闘に使えるようなレベルではありません。専門の方に習ったこともありません」
「そうか。だったら可能性を広げるため、アイリスさえよければこっちもクエストで出しておこうか?」
アイリスも反対することはなかったので勇馬はその足で冒険者ギルドに行くと魔法の個人授業のクエストを出すことにした。




