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2 異世界街歩き


 初仕事で懐が潤った勇馬はトーマスの勧めもありメルミドの街を散策してみることにした。


 今の時間はまだお昼にもなっていない。

 

 太陽はまだはるか頭上にあり、街は活気に満ちている。



(そういえば、この異世界も太陽は1つだな)



 勇馬がかつて望んでいた異世界は剣と魔法、魔物とダンジョン、勇者と魔王といったテンプレ的異世界であり、大雑把なイメージしかしていなかった。

 そのため細かい設定についてはどうしても現代日本がベースになっているためかこの世界には多くの共通点が存在している。


 まず言葉については現代日本のものに準拠している。

 カタカナ外来語はどこから来たのか疑問ではあるがあるものはあるのだから仕方がない。


 この世界の暦は1年は地球とほぼ同じであり360日、1か月が30日で12か月となっている。

 さらには1週間という区切りも同様にあり、そのうち1日については安息日として休むべき日とされている。1日は24時間とされており、時間や分、秒といった時間の単位も同じである。

 そのほか、温度の表現や重さ・長さといった度量衡については現代日本に準拠している。


 その一方でこの世界には電気製品は存在しない。


 人や獣の力以外の動力源については魔力結晶と呼ばれる魔力を内包する石を基にした魔道具が存在している。

 もっとも魔道具自体もその動力となる魔力結晶も高価なものであり、一般家庭にはさほど普及しているわけではない。



 勇馬が物珍しげに露店を眺めながら歩いていると大通りに馬車が何台かとその後に続く人の列が続いているのが目に入った。


「奴隷だ」


「ああなったらお終いだな」



 街の人々の会話の内容から車列は奴隷商とその商品である奴隷ということがわかった。

 『異世界での最低限度の常識』から勇馬はこの世界には奴隷が存在し、売買されていることは知識として知っている。


 しかし、実際にその存在を目の当りにするとやはり緊張が走った。


 馬車に続くのはロープで繋がれ、無表情で歩く粗末な服を着せられた奴隷たちだ。

 年齢・性別は様々。

 老若男女を問わず、当然子どももいる。

 

 さらに勇馬の目を引いたのは人とは変わらない姿をしながら獣耳と尻尾をもつ獣人と呼ばれる存在だった。



(はー、やっぱり異世界だな~)



 勇馬は今さらながら自分が転移してしまった世界が本当に異世界であることを実感した。

 

 そんな中、勇馬の視線を釘づけにした奴隷がいた。


 とがった耳、金色の長い髪の毛、薄汚れたダボダボの貫頭衣を着ている女の子だ。

 見たところ年齢は日本でいうと高校生になったかどうかくらいだろうか。



(あれってエルフ?)



 耳がとがっていることに加え、顔がほこりや泥にまみれてはいるもののその整った顔立ちからエルフには間違いないだろう。

 しかし、勇馬の持つ『異世界での最低限度の常識』にあるエルフの耳はもっと長い。



(とすれば、ハーフエルフか……)



 勇馬の推測は的を射ており彼女はまぎれもなくハーフエルフである。


 エルフは気位が高く人間を見下す者も少なくない。

 そのためエルフ社会では人間とのハーフの子どもは侮蔑の対象となることも多く奴隷として売り飛ばされることも少なくない。



(あの子はきれいにしてあげてちゃんとした服を着せれば相当映えるだろうな~)



 そう思いながら勇馬はハーフエルフの女の子が見えなくなるまでその場で眺め続けた。

 

 そして奴隷の行列が通り過ぎてようやくその場をあとにした。






 奴隷の行列が過ぎ去り勇馬は街歩きを再開する。


「そういえば俺にも魔力があるんだよな?」


 マジックペンの説明には自身の魔力に応じた付与を施すことができるとあった。


 想定以上に仕事が上手くいったことから実は自分には秘められた魔法の力があるのではないだろうかと思ったのだ。

 魔法使いの適性については、魔法ギルドで調べてもらうことができる。勇馬は魔法ギルドの場所を尋ねながらその場所へと向かった。


 魔法や魔力に関係するギルドは、この魔法ギルドのほか、付与魔法ギルド、魔道具ギルド、錬金術ギルドなどが存在する。

 元々は魔法ギルド1つであったが、業務の専門化が進み、それぞれが独立したギルドとなっている。


 勇馬は魔法ギルドに入ると誰もいない受付へと向かった。




「すみませーん! どなたかいらっしゃいませんかー?」


 勇馬が大きな声でそう呼びかけると奥の方から年配の女性が現れた。

 とんがり帽子をかぶりレンズが真ん丸の黒縁眼鏡をかけた白髪の老婆だ。

 背も曲がっており見たまんま魔女だった。


「はいはい、何のご用でしょう?」


「魔法使いの適性検査を受けたいんですが」


「わかりました。それではこちらへどうぞ」


 魔女に案内された受付カウンターの隅には水晶玉が置かれている。


「この水晶玉に手をかざして下さいな。両手でも片方の手だけでもどちらでもいいですよ~」


 そう言われて勇馬は右手を水晶玉にかざした。

 すると透明だった水晶玉に次第に色がついてきた。

 そして最後には水晶玉は真っ黒の色に染まった。


「う~ん、残念ですが魔力については一番下のランクですの~。魔法使いの適性はその次の白色ランク以上ですので『魔法使いの適性なし』というのが検査結果になりますの~」


 魔女は申し訳なさそうな表情をしている。


 黒色ランクであっても魔法が使える人はいるし、魔法使いとして活動しようと思えばできないことはない。

 しかし、魔法使いとして大成することはないと言われており、魔法ギルドとすれば他の道を選ぶことを推奨するとのことだった。


「う~ん、残念。まあ取り敢えずは付与師としてできることをするか」


 今日はまだまだ余裕があった。


 明日は今日よりもいっぱい仕事をさせてもらおう。そう決意した。


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