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29 メイドの個人授業

 次の日の午後はメイドの個人授業である。



 担当してくれるのはリートリア辺境伯家で長年メイド長をしていたメレナという年配の女性だ。


 彼女は辺境伯家の勤めを辞して第一線を退くにあたって辺境伯よりつい棲家すみかとなる家と普通に暮らしていけるだけの生活費の提供を受けている。

 

 今回は縁あってアイリスにメイドとして必要なことを教えてもらえることになった。



 授業が行われるのはメレナの自宅だ。

 

 一人で住むにしては広いもののさすがに手入れが行き届いている。


 勇馬とアイリスはそろってリビングにとおされると椅子を勧められた。



「事前にお話しているものはご用意できていますか?」


「勿論です!」


 メレナの質問に勇馬は自信満々にそう答えると持参した一着の服を差し出した。


「それではアイリスさん、あちらで着替えましょう」


 アイリスは服を受け取るとメレナに指示されて一緒に別室へと移動した。



 ――待つこと数分



「お待たせしました」


 メレナがそう言って部屋から出てきた。


 その後ろに隠れるかのように無言で現れたのはメイド服を身に纏ったアイリスである。


 メイド服は濃紺色でスカートの裾は長いロングタイプ。


 白色のささやかなフリルのついたエプロンドレスを重ねている。

 頭にはホワイトブリムと呼ばれる白色のフリルのついたカチューシャを着けている。


「さあ、ご主人様にしっかり見てもらいなさい」


 メレナはそう言ってアイリスを勇馬の前に進ませた。


主様あるじさま、その……いかがでしょうか?」


 頬を紅潮させてうつむいた少女に上目使いでそう言われてぐっとこない男はいないだろう。



「いい……。ちょっと今日の授業は中止にして今からお持ち帰りしてもいいでしょうか?」


「ユーマ様。あるじたるもの常に心に余裕を持たなければなりません。アイリスさんには立派なメイドになるための教育をして差し上げますがユーマ様もそれにふさわしいあるじになっていただきませんと」


 するっとかわされて予定どおりメレナによるアイリスへの個人授業が始まった。


 今日は挨拶も兼ねてということで勇馬もアイリスとともにメレナの元を訪れた。


 しかしメレナからは「努力している姿はお見せするものではありませんので」と言われたため勇馬は一旦お暇し、授業が終わる時間に迎えに来るということになった。




 夕方、アイリスを迎えに来た勇馬はメレナに再びリビングにとおされた。


 アイリスは今別室で着替え中だという。

 最初の着替えは初めてメイド服を着るということでメレナも手伝ったが以降はアイリスが一人で脱ぎ着することになる。


「メレナさん、アイリスはどうでしたか?」


「そうですね。ご両親の教育が良かったのか基本的な立居振舞たちいふるまい、言葉遣いについては標準以上だと思います。ただメイドとしてはまだまだなところもあります。今後は本格的に家事仕事についての指導も始めますので当面は続けさせていただければと思いますが」


 そのような話をしていると別室から着替え終わったアイリスが出てくる。


 授業で着ていたメイド服はメレナの自宅に置かせてもらうことになっていて手ぶらで宿へと戻ることになった。


 勇馬としては宿でメイド服を着たアイリスによるファッションショーを切に希望したが、メレナ曰く「プレイで汚されると授業にも支障が出ますので」と言われると勇馬は反論することができなかった。





 メレナは勇馬たちが自宅から出ていき1人になるとほっと一息ついた。


 たまたま引き受けることになった個人授業だがアイリスは元々の素質があるだけでなく聡明で飲み込みも早い。

 これならそんなに時間を掛けることなくある程度のレベルにはできるだろう。



(しかし、あの子の立居振舞たちいふるまい。従者としてのそれというよりもむしろ貴族や王族のそれでしたね)



 子どものころから教育係がついていたのでなければ親から教育を受けるか親の立居振舞たちいふるまいを見て自然と学んだか。

 学ぶこととは真似をすることと言われるがそうだとすれば自然とあの少女の出自も何となくではあるが想像できる。


「いけませんね。他人のプライバシーをあれこれ詮索するだなんて。私もまだまだのようです」


 メレナはそうつぶやいた。


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