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1 初仕事

ブックマークをいただきました方、ありがとうございます。



 

 試験に合格した勇馬は無事に付与魔法ギルドに登録することができた。



「本来であれば登録料として銀貨3枚が必要なんだけど、1年間いや半年この街のギルドで活動してくれるのなら免除することができるよ」


 トーマスから提示された条件に勇馬は驚いたものの今の段階で特に断る理由もないためその条件を受け入れることにした。

 半年以内にこの街のギルドを出る場合には登録料の銀貨3枚を改めて支払えばいいだけとのことなので、どちらにしても勇馬には損はない。


「ユーマくんが受注できる依頼はあるかい?」


「そうですね~。とりあえずは初級クラスの依頼からですかね」


 トーマスと受付嬢ことエリシアが勇馬の仕事を見繕ってくれている。


 勇馬は付与魔法ギルドに登録して初級付与師という身分を得た。

 ちなみに身分証だけでなくその身分を示すマントも受け取った。

 

 この世界では魔法を使える職種はいわゆるエリートであり付与師も例外ではない。

 初級とはいえそのステータスは決して低くはない。



「これなんかどうでしょう? 初仕事としてはちょうどいいと思いますよ」


 そうして勇馬に紹介されたのは銅の剣や革製の防具への強化付与だった。


 同じ倍率の強化をするとしても銅の剣と鉄の剣とでは必要となる魔力には差があり、技術的な難易度も異なる。

 通常、武具のランクが高くなるほど付与に必要となる魔力や技術の難易度も上昇する。

 今回勇馬に割り振られた銅の剣や革製の中でもランクの低い防具は付与もしやすく初心者の付与師向けとされている。



 勇馬は早速、用意された銅の剣や革製の防具をまとめて作業部屋へ持ち運んだ。

 ギルドには台車が用意されていたので、箱に入れた武具一式を台車で運ぶ。

 ちなみに先ほど使った作業部屋についてはそのまま使ってもよいとのことなので同じ部屋で作業をすることにした。


「えーと、この銅の剣は強度1・5倍で有効期間は1週間か」


 勇馬は依頼書を見ながら次々に指定された条件の付与を施していく。

 武具への魔法付与では有効期間も条件の1つとされている。


 勇馬はマジックペンで銅の剣に『強度1・5倍(有効期間1週間)』と書き込んだ。



「有効期間をいちいち書くのは手間がかかるな……」


 効率よく作業する方法はないものかと勇馬は思案する。


「メニュー」


 何か設定変更ができないかと目の前にウィンドウを呼び出した。


 細かく見ていくと下の方に「設定」を意味する見慣れた歯車のマークがあった。

 勇馬はそこに視線を移すと付与の基本となる期間を選べるようになっていた。デフォルトは『時間単位』となっている。


「これを『週単位』に設定し直して……」


 勇馬は特に何も書かなければ1週間の期間となるよう設定した。


 1週間を超える有効期間を設定する場合には末尾に(  )を書き、中に数字を入れるだけで週単位の期間設定ができるようになった。



「これで作業効率が上がるぞ!」



 勇馬はせっせと運び込んだ武具に付与を施していく。


「えーと、『強度1・3倍(2)』」


 最後に革の盾に強度1・3倍(有効期間2週間)の付与を終え、勇馬はぐっと伸びをした。


 10分ほど作業を続け、銅の剣10本、革の防具10個への強化付与を終えた。

 念のため鑑定をしてきちんと付与が施されていることの確認も行った。


 そして強化を終えた武具を台車に積み込み、台車を押して再び受付へと向かう。




「一度に20個ほど持っていかれましたが量が多すぎましたか?」


 ごろごろと台車の音を鳴らしながら近づいてきた勇馬を見て、受付カウンターにいたエリシアが声を掛けた。

 新人が張り切り過ぎて自分のキャパシティーを超えた量を一度に引き受けてしまい、期限までに処理しきれないということはギルドの風物詩だ。


「いえ、作業が終わりましたのでお渡しにきたんですが……」

「えっ?」

「えっ?」

「…………」

「…………」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 エリシアはあたふたとしたあと深呼吸をして息を整え、自分の気持ちを落ち着かせた。


「失礼しました。それでは拝見します」


 付与魔法ギルドの受付嬢である以上、鑑定のスキルは欠かせない。


 持ち込まれた物に最初から悪意のある付与がされていてはトラブルの元となるし、作業終了の都度上役を呼んでいては仕事にならない。

 エリシアは若いながらも付与に関しての鑑定能力は十二分に有している。


「……たしかに全て依頼書の指定どおりの付与がされています」


 エリシアにそう言われて、心配はしていなかったものの勇馬も安心することができた。


「他にも仕事があればやりますけど?」


 勇馬がそう申し出たところ、エリシアとのやり取りを見ていたトーマスが割って入ってきた。


「今日は初日だしこのくらいにしておこう。ユーマくんも疲れているだろうしこの街に来たばかりなら街を見ておくのもいいんじゃないかい」


 トーマスにそう言われて『それもそうかもしれないな』と思った勇馬は初仕事の報酬を受け取り今日は帰ることにした。


 依頼完了ということで勇馬はエリシアから報酬を受け取った。



「明日も来ますのでまたよろしくお願いします」


 勇馬は軽い足取りで付与魔法ギルドを出た。


 勇馬の後ろ姿をトーマスとエリシアが無言で見つめる。


 正直2人は試験での勇馬の仕事は勇馬が自分の実力を高く見せるために無理をした結果だと思っていた。


 瞬間的に多量の魔力を注ぎ込んで作業時間を短縮する技法も存在する。

 しかし、このやり方はとにかく魔力の消費が激しいことから数をこなすことは難しい。

 そのためギルドとしては数をこなすことも求められるこれからの仕事では試験のようにはいかないだろうと高を括っていた。

 しかしそれは見事に裏切られた形だ。



「とんでもない新人が入ってきたな……」


 トーマスのつぶやきにエリシアがコクコクと無言で頷いた。


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