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14 顔合わせ

 

 ――コトっ



「ありがとうございます」


 勇馬はお礼を言って出されたお茶の入った湯飲みを手に取った。

 応接室に通されたトーマスと勇馬はソファーを勧められた。


 向いの席には年配の女性職員が座っている。

 彼女の名前はマイヤー。このレスティ支部最古参の職員である。


「この度はレスティまでご足労いただきましてありがとうございます。レスティの付与魔法ギルドの職員を代表してお礼申し上げます」


 マイヤーがその場で立ち上がり一礼した。


「いえ、同じギルドの者として当然のことです。それよりも今日のようなことはこれまでもあったのですか?」


「お恥ずかしい話ですが。もっとも最近は依頼をキャンセルされる方もいらっしゃいますので喜んでいいのやら悲しんでいいのやらわからない状況ではありますが」


「まあ、今回は私だけでなく彼もいますのである程度のことには対応できると思いますよ」


 トーマスに紹介されて勇馬はこそばゆい感覚を覚えた。


「失礼ですが彼は? 随分お若いように見えますが……」


 マイヤーは初めて見る顔にいぶかしげな表情を浮かべる。


 レスティ支部はギルドマスターと副ギルドマスターが抜けてしまっておりマイヤーはその穴を埋めることができるレベルの応援を求めたつもりである。


 トーマスはメルミドの副ギルドマスターであり実績は十分。


 いつどこかの支部のギルドマスターになってもおかしくはない。

 

 しかし、目の前の若い男はどう贔屓目に見てもそのレベルの活躍が期待できるとは思えなかった。


「彼はうちの秘密兵器なんですよ。まあ、口で言うよりも実際に見てもらった方が早いでしょう」


 トーマスはニヤリと笑みを浮かべると、手にしていた湯飲みの中身を飲み干した。





 マイヤーとの歓談の後、トーマスは臨時のギルドマスターとしてレスティ支部に所属する付与師たちと顔合わせをすることになった。


 2階の大広間には今日ギルドに出て来ていたレスティ支部所属の付与師たちが集まっている。


「みなさん、メルミド支部からトーマスさんが応援に来てくださいました。みなさん知ってのとおり、トーマスさんはメルミド支部の副ギルドマスターをされている方です。今回、臨時でこのレスティ支部のギルドマスターをしていただきますのでよろしくお願いします」


 マイヤーの言葉に集まった付与師から歓声があがる。


 歓声が収まるのを待ってトーマスは皆の前に向かい立った。


「えー、ただいまご紹介にあずかりましたトーマスです。ご縁あってしばらくの間このレスティ支部で臨時のギルドマスターをさせていただきます。至らないところもあるとは思いますが精一杯頑張りますので、ご協力をお願いします」


 トーマスの挨拶に割れんばかりの拍手が沸き起こった。


「それから私と一緒にメルミドから来ました彼のことを紹介させていただきます。彼の名前はユーマといいます」


 トーマスが向けた視線の先には勇馬がいる。


 しかし、レスティの付与師たちは怪訝な表情をし、そして戸惑いの声が出始める。


「おい。あれ誰だ?」

「ユーマだって? お前知ってるか?」

「初めて聞く名前だ。しかもまだ若いじゃないか!」

「あいつが新しいサブマスなのか?」


 マイヤーから新しいギルドマスターと副ギルドマスターは臨時でメルミドから来ると聞いていたレスティ支部の付与師たちが勇馬をみて一斉に騒ぎ出す。


 勇馬の扱いを役職待遇とするという話がいつの間にか実際にギルドをまとめる幹部となるかのような誤った情報が伝わっていた。



 勇馬は18歳であり、15歳が成人のこの世界では立派な大人である。


 しかし日本人である勇馬の顔立ちはこの中世ヨーロッパ風世界の中では実際の年齢よりも若く見え、見方によっては成人したかどうかという歳に見えなくもない。



「トーマスさん。俺は納得できません!」



 ざわざわとしたささやきとは違う大きな声がホールに響いた。



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