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11 情けは人のためならず

 

 勇馬は魔物退治が終わったばかりの平原を見渡した。


 辺りにはハイゴブリンたちの魔石が転がっている。


 この世界で人間に害をなす異形のものは主に魔物と魔獣である。


 2つの区別は死んだ後にはっきりと分かる。


 魔物は死ぬと魔石だけを残し、その身体は消滅する。

 一方、魔獣は死んでも身体が消滅することはない。その身体からは魔石だけでなく素材も剥ぎ取ることができる。一部の魔獣の肉は食用としても流通している。


 今はパーシーたちだけでなく、新たに加勢してくれた冒険者たちも手分けして魔石を拾っている最中である。



 冒険者ギルドにおける他パーティーに加勢したときの魔石の分配についてはその加勢の時期や前後の状況は考慮せず、一律頭割りという決まりとなっている。

 今回のように魔物の大半を退治した後であっても加勢冒険者は全ての上がりについて権利を主張できる。勿論、加勢した側が遠慮して加勢前のものを辞退することもあるが、それは加勢した側の自由意思である。 

 そのため加勢する側は意思確認が不可能な極限状態ではない限り要請を受けるまでは加勢しないということになっている。


 しばらく経って元々の護衛冒険者たちだけではなく加勢した冒険者たちも商隊の馬車の周りに戻ってきた。今から魔石の分配が始まるようであり、勇馬もそれを見学しようとその輪に近づいた。




「あれっ? あの人は……」


 加勢した冒険者パーティーのリーダーの男は魔石の分配のためにパーシーと話をしている途中、ふと勇馬の特徴的な黒髪を見つけた。リーダーの男はパーシーに断りを入れると勇馬に近づいてきた。



「やっぱり! ユーマさんじゃないですか!」



 自分の名前を呼ばれて勇馬はその声のぬしに視線を向けた。


「……ひょっとしてトニーさんですか?」


 勇馬の目の前にいたのは以前勇馬が後払いで武具に付与を施した冒険者パーティー『暁に咲く花』のリーダー、トニーだった。


「ということは……」


 勇馬が休憩していた冒険者たちを見回すと確かにそこには以前付与魔法ギルドで見かけたトニーのパーティーメンバー達の顔があった。


「戻って来られていたんですか!」


 勇馬の言葉にトニーは笑顔を浮かべながら頷いた。





「それにしても奇遇というか何というか……」


 勇馬はトニーたち『暁に咲く花』のメンバーに呼ばれて一緒にお菓子を食べている。トニーのパーティーメンバー達から是非にと誘われたのだ。

 トニーたちが帰路で受けた護衛クエストで護衛した商人から追加の報酬として商品のお菓子を分けてもらったとのことだ。


「ユーマさんのおかげで護衛依頼も危なげなくこなせたし、ダンジョン探索もスムーズにいきました。とても感謝しています」


「こちらこそ、この度は助けていただいてありがとうございます」


 お互いに礼を言い合い一心地ついたところでトニーは立ち上がった。


「申し訳ありませんが僕は先を急ぎますのでこれで失礼します」 


 トニーとトニーのパーティーメンバーの1人はそう言ってパーシーの元へと行き、一言二言話をすると馬にまたがりメルミド方面へ向かって走り出した。


「気を悪くしないでやってくれ、あいつも気がいているんだ」


 トニーのパーティーメンバーの1人、立派な体躯をした斧使いがそう声を掛けてきた。


「ようやく材料がそろったんだもの。早く持っていきたいわよね」


 同じくトニーのパーティーメンバーでローブを着た女性がそう口にした。


「そうか! 『ひかり苔』が手に入ったんですね?」


 勇馬の言葉に2人は笑みを浮かべながら頷いた。

 トニーは『白蝋病』の治療薬の最後の材料である『ひかり苔』をメルミドの薬師の元へと届ける途中なのだ。直ぐに『白蝋病』の治療薬が作られることになるだろう。






「レスティまで付き合ってもらえるなんて悪いなあ」


「礼ならユーマさんに言ってくれよ。うちのパーティーはユーマさんには感謝してもし足りないからさ」


 商隊の先頭を行くのは護衛パーティーのリーダーであるパーシー。

 その隣を『暁に咲く花』の斥候である女性が並走する。

 トニーはパーティーメンバーの1人だけを連れて一足早くメルミドの街へと向かったものの残りの3人のパーティーメンバー達は勇馬たちの護衛として一緒にレスティまで戻ることになった。


 乗合馬車の左右を『暁に咲く花』のメンバーである斧使いの男とローブの女性が固める。


 乗合馬車の中では今は穏やかな空気が流れている。


「いやー、寿命が縮まりましたなー」


「いやはやまったくです。肝が冷えました」


 そう口にしながらもそうとはまったく感じさせない声色でトーマスがペドロに同調した。


「ふふふっ、魔石が手に入りました」


「ボクたち1体しか倒さなかったけどパーシーさんたち気前よくくれたしね!」


 乗合馬車を守ったシェーラとケローネには魔石の分配で各人1個ずつ合計2個の魔石が割り当てられた。

 冒険者として正規に参加したわけではない以上、本来取得できる魔石は実際に自分たちが倒した魔物の分だけとなるはずだ。しかし他の2つのパーティーからご褒美にともう1つもらうことができたのだ。


「俺からもありがとう。おかげで助かったよ」


「「飴のお礼だよ(ですよ)」」


 2人は微笑みながら同時にそう口にした。


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