2 出発準備②
勇馬は買い物から宿の自室へと戻ると買ってきたショートソード、革の鎧、革の小盾をテーブルに並べた。
他人の武具への魔法付与はこれまでさんざんやってきたが自分の持ち物にはしたことはないのでいつもとは違う心地でマジックペンを顕現させた。
「まずはショートソードからだな」
そういって勇馬はペンを手に持ったまま一旦固まった。
(そういえば強度は何倍までいけるんだ?)
ギルドの仕事ではギルドが受け付ける『一般的なレベル』のメニューしかないため、強度が1・5倍を超える付与は最初の試験以外ではしたことがない。そのため勇馬は自分の限界というものが未だわからない状態にある。
「取り敢えず2倍で付与してみるか」
勇馬はショートソードにマジックペンで『強度2倍』と書き込んだ。
特に勇馬の身体に変化はない。
そこで今度は『強度3倍』へと書き直した。
「特に何も感じないな」
本当にその内容の付与がされているのか確かめるために鑑定をしてみることにした。
「鑑定」
――鉄のショートソード【強度3倍(有効期間1週間)】
確かに付与はされていた。
「じゃあ、今度は追加で他の効果を足してみるか」
『+重量軽減50%、自動洗浄』
重量軽減もギルドのメニューにないレベルのものを施してみた。
「まだまだ余裕がありそうだな」
そうは言ったものの旅の用意という当初の目的とは違う話になりつつあったため、限界探しは取り敢えずはやめることにした。
「それにしてもこんなレベルの付与がされていることを知られるとやっかいだな」
勇馬は『ぼくのかんがえたさいきょうのそうび』にすることもちらっと考えたが鑑定スキルや鑑定魔法のあるこの世界では少なくとも人前に出すことは危険だと判断した。
自分の持つマジックペンの存在が明るみに出ればどんなことに巻き込まれるかわからない。そのため、今日買った武具については常識的な範囲での付与に留めることにした。もっともこの時点で付与魔法ギルドからは腕利きの付与師という枠では収まらない仕事ぶりで大きな注目を集めているのだがそのことには気付いていなかった。
――鉄のショートソード【強度1・5倍(有効期間6か月)、重量軽減20%(有効期間6か月)、自動洗浄(有効期間6か月)】
――ブルーバイソンの革の鎧【強度1・5倍(有効期間6か月)、重量軽減20%(有効期間6か月)、自動洗浄(有効期間6か月)】
――バーンリザードの革の小盾【強度1・5倍(有効期間6か月)、重量軽減20%(有効期間6か月)、自動洗浄(有効期間6か月)】
(これなら許容範囲だろう)
三重付与のうえにレベルもギルドが受け付ける一般的な基準で最高ランクのものである。有効期間もギルドではあまり受注のない6か月となっておりこのレベルの付与はそこらの中級付与師には無理な仕事である。
勇馬はどこの金持ち商人の護衛かと言われてもおかしくない付与が施された装備で出発の日を迎えるのだった。




