4 付与魔法ギルド
朝食を食べ終え、勇馬は宿の受付嬢に付与魔法ギルドの場所を尋ねて宿を出た。
宿から歩くこと10分。
教えられた場所には確かに『付与魔法ギルド』と書かれた建物があった。
勇馬は建物に入ると受付カウンターまで進む。
そこで事務作業をしていた10代後半の受付嬢が勇馬に気付き顔をあげた。
長い茶色の髪を三つ編みに編み込み右側から前に垂らしている。顔のほりは深くはないものの色白の顔にスカイブルーの瞳をみるとやはり日本人の容姿とは違う。
「ご依頼ですか? 初めての方とお見受けしますが……」
「ああ、すみません。依頼ではなくて、付与師になるための登録に来たんですが」
「新規のご登録でしょうか? それとも既に身分証はお持ちでこの街での活動登録ですか?」
「新規の登録に来ました。付与魔法ギルドに来たのはここが初めてです」
「それではどなたかの推薦状はお持ちですか?」
「推薦状?」
勇馬は首を傾げた。
「付与魔法をきちんと使えることが付与魔法ギルドに登録するための条件なんです。だいたいの方は師匠につかれて修行されてから登録されるんですが、その際、一定の技量があることを保証してもらうことがほとんどなんですよ」
冒険者とは違い付与師は拠点となる街を定めれば基本的には他の街へ拠点を移すことは稀である。
「あいにくとこの街にきたばかりで推薦をしてくれるような人はいないんですが……」
「この国もしくは近隣の国の方のものでも構いませんよ? 私たちが確認できる範囲であればですが」
「……かなり遠くから来まして推薦状というものも初めて聞きましたので」
「でしたら仕方がありませんね。わかりました。であれば副ギルドマスターを呼んで参りますので少々お待ち下さい」
勇馬の風体からすぐに遠い異国の出身者であると判断した受付嬢はバックヤードに姿を隠した。
そしてしばらくすると背の高い中年男性と一緒に戻ってきた。
「きみが新規登録希望の子かい? ああ失礼。私はこの街の付与魔法ギルドの副ギルドマスターをしているトーマスという者だ」
赤茶色の髪をした人のよさそうな男だ。
勇馬はトーマスから推薦状がなくても付与師としての力量がわかれば登録自体は問題ないとの説明を受けた。
「実技試験をすることになるけどいつがいいかい?」
「もし可能であればすぐにでも受けたいんですが」
「わかった。それじゃあすぐに始めよう」
トーマスに連れられて勇馬は建物内にあるひとつの部屋に案内された。
この部屋がある区画には他にも同じような部屋がたくさんあるようでありドアが廊下の奥まで続いている。
「このあたりは作業部屋が集まっている区画なんだ。ギルドのメンバーには作業部屋として開放しているので、登録できたら自由に使ってもらって構わないよ」
案内された部屋は6畳くらいの広さの板張りの部屋だ。
部屋の中央には簡素な作業台と椅子が置かれている。
「試験はこの部屋で行うよ。今私が手に持っている『銅の剣』を渡すのでこの銅の剣に有効期間4週間の『強度増加』の効果を付与してくれ。付与のレベルはきみのできるものでいい。この剣はまっさらのものだから単に付与することだけを考えてくれればいいよ。制限時間は15分。休憩のための退室は可能だが銅の剣の持ち出しは禁止だ。付与が終わったら受付カウンターにいるさっきの女性に声を掛けてくれ」
トーマスは試験内容を説明すると試験会場となった作業部屋から出て行き、部屋には勇馬1人となった。
「さて、始めるか」
事前に実験もせずにいきなり試験を受けるなんて無茶もいいところである。
しかし、試しにやってみて魔力を使い果たしましたとなれば1日が無駄になる。
ライトノベルを読み漁っていた勇馬にしてみれば神から授かったアイテムを使って失敗ということはあり得ない話であり、その様なことは全く考えていない。
勇馬は自分の手にマジックペンを顕現させると、キャップを外し、銅の剣の刃の部分にペン先を当てた。
そこに『強度2倍(有効期間4週間)』と書いてみた。
ペン先からはきらきらと輝く光の粒子が出てきて銅の剣に付着した。
マジックペンの説明画面にはマジックペンで書かれた文字は勇馬以外には視認できないとあったため通常の付与魔法とは異なるものであることを他人に勘付かれることはないだろう。
「これでいいかな?」
試験開始からわずか1分。
マジックペンの付随スキルとして、勇馬には付与状態についての鑑定能力も与えられている。勇馬は出来を確かめるためこの銅の剣を前に「鑑定」と口にした。
――銅の剣【強度2倍(有効期間4週間)】
勇馬の目の前に現れたウィンドウに確かにそう表示されていた。
勇馬は鑑定結果を確認すると作業が終わったことを伝えるために作業部屋を後にした。