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27 主(あるじ)の心、奴隷知らず

 

「さあ、入って」



 勇馬は部屋のドアを開けるとアイリスにそう促した。


 部屋にはベッドが2つ置かれている。

 これまで勇馬が泊まっていた部屋よりも広い2人用の部屋だ。

 勇馬の指定どおりこの部屋には風呂が付いていて奥が脱衣所となっている。



「まだお昼だけど先にお風呂に入ろう。女の子がそんな状態じゃあ駄目だからね」



 アイリスはほこりや泥まみれということはなかったものの清潔な状態にはちょっと見えなかった。


 実際アイリスは奴隷商館では最初に連れてこられた際に風呂に入れられて以降は数日に1回程度の頻度でしか風呂に入っていない。

 いつもは濡れた布で身体をふくくらいのことしかできていなかった。


「石けんとシャンプーもあるからしっかり洗ってね」


 アイリスは勇馬の言葉にこくんと頷くと風呂場へと入っていった。






 アイリスは風呂場でお湯をかぶりながら思考をめぐらしていた。


 アイリスの年齢は16歳。


 この国では成人は15歳とされている。

 それに加えて、早ければ10歳を過ぎて、遅くても13歳ころには仕事を始めるのが普通であるため名実ともに子どもとはいえない年齢だ。

 エルフ種はハーフとはいえ一般に長寿であり容姿はいつまでも若く見えると言われているが今のアイリスは年齢に相応の容姿をしている。



 アイリスは男が若い女性の奴隷を買う目的を知識として当然知っている。



 奴隷商館では他の奴隷たちから若い男に買われた奴隷の末路を嫌がらせの一環として聞かされていた。


 昼間から風呂に入れられて身体をきれいにした後にやることなど相場が決まっている。

 

 夜を待たないところをみると自分のあるじはかなりの好き者だろうと暗澹あんたんたる気分になった。


 アイリスは自分が買われたと知ったときから既に諦めがついている。


 願わくは少しでも痛くしないで欲しいと祈るばかりだ。




 アイリスがそんな思いをしていることなど知るよしもない勇馬はタオルとさっき買ったばかりの着替えの服を用意した。

 そして風呂から出たアイリスにもわかりやすいところに置くと部屋で待っていた。



 ――ガチャ



 脱衣所の扉が音を立てて開くと勇馬はそちらに視線を向け、そして固まった。


 脱衣所から出てきたアイリスは勇馬が用意した下着や服は身に着けず、身体にバスタオルだけを巻きつけただけの姿だった。


 目を伏せうつむいているため表情は確認できないが長い耳の先まで真っ赤になっている。


 予想もしていない事態に勇馬は面食らった。



「ちょ、ちょっと、服を置いといたでしょう? 着替えて着替えて!」


 顔を背けながらアイリスに回れ右させると再び脱衣所に押し込み扉を閉めた。





 勇馬の対応にアイリスは一瞬ぽかんとするしかなかった。


 アイリスはどうせ今からするのだろうと思い、最初から服を身につけていないままの方がいいだろうと考えたのだ。

 

 しかし勇馬の反応をみて『あるじは気に入らなかったのだ』と結論付けた。


 アイリスの中で勇馬は服を無理やり剥ぎ取るのが好きなのかそれとも服を着たままするのが好きなのかいずれにしても変態あるじとして認知された。


 アイリスは仕方なくあるじの性的嗜好に合わせるため用意された服を着て、身支度を完璧にして脱衣所から出た。





「うん、きれいになったね」



 アイリスのサラサラとした金色の髪を見た勇馬は満足そうに頷いた。

 しっかりと洗髪した後に脱衣所に備え付けの魔道具ドライヤーで乾燥させたので見るからにサラサラしている。

 本当はその髪を手ですくってみたいとうずうずしていたのだがそれは自重した。髪は女の命であるのは異世界も同じである。

 

 勇馬はアイリスが心から自分に委ねてくれる日を気長に待つことにした。


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