26 隷属契約(コントラクト)
「では隷属契約の手続きを進めさせていただきます」
店員の男がそう言って勇馬のソファーの向かいに座るとテーブルの上に2枚の書類を置いた。
「こちらがあなた様にこの奴隷を譲渡したことを証明する書類です。そしてこちらが今から使う隷属魔法の媒体となる羊皮紙です。こちらを使って隷属魔法を発動させます。こちらに主人となるあなた様のお名前をご記載下さい」
譲渡証明書をみるとハーフエルフの少女の名前は『アイリス』と書かれていた。
「アイリスか。いい名前だ」
小声で呟き羊皮紙にフルネームで「ヒイラギユウマ」と記載した。
続いて店員の男はアイリスの人差し指から針で血を一滴とって羊皮紙に垂らした。
「彼の者は血の誓約により主『ヒイラギユウマ』に従う。是、世の理なり。隷属契約」
店員の男が詠唱するとその言葉に反応した羊皮紙が光を発し辺りを包んだ。
勇馬はあまりの眩しさに思わず目を背ける。
その刹那、光の筋はいくつかの束となりハーフエルフの少女に収斂した。
そして羊皮紙は役目を終えたとばかり炎を上げると一瞬で燃え尽きた。
「手続きは無事に終わりました。ヒイラギユウマ様、あなたがこの者の主です。一応ご説明させていただきますが奴隷には3つの誓約が課されます。1つ目は主人を害してはいけないこと、2つ目は主人の命令に逆らってはいけないこと、そして3つ目は主人を裏切ってはいけないこと、これらに背いた場合、奴隷には激しい苦痛が生じ、内容次第では死ぬこともあります」
店員の男は勇馬に説明をしている風ではあるが、その実は奴隷であるアイリスに念を押すかのように説明した。
件の少女の目は虚ろであり心がここにないかのように無表情である。既にすべてを諦めているかのようであった。
手続きを終えると勇馬はアイリスを連れて奴隷商館を出た。
アイリスは自分から歩こうとしなかったので勇馬はやむを得ず自分についてくるよう【命令】した。
アイリスは奴隷商に用意された靴と服を身に着けているだけでそれ以外の荷物を持っている様子はない。当然宿に戻っても着替えがないことから宿に戻る前にいくつかの服や下着を買って帰ることした。
予め調べておいた店に入ると女性の店員が接客に現れた。
「彼女用に外出着をいくつか見繕って下さい。あと寝間着を1セット、下着を3セット。デザインは質素なものでいいので質の良いものをお願いします」
店員の女性はまとまった注文を受けてにこやかに対応した。
「ありがとうございました」
店員の言葉を背に勇馬が代金を支払って店を出ると宿へと向かう。アイリスは無言で後ろをついてくる。
そして数分で勇馬の定宿である『宿り木』に到着した。
「お帰りなさいませ。あれっ? 後ろの方はご一緒ですか?」
「はい、今日からツインの部屋でお願いします。あっ、今日は風呂付の部屋にしてもらってもいいですか?」
「ベッドが2つある2人部屋ですね。かしこまりました。それではこちらが部屋の鍵となります」
こうして宿の受付を済ませるといつもとは違う部屋へと向かった。




