2 女王
「ユーマ殿、館の完成を心からお祝い申し上げる」
「クライス殿、お気遣いありがとうございます」
領主館にある応接室にて勇馬は訪ねてきたクライスを迎え入れソファーを勧めた。
応接用のローテーブルにソファーといった一式はどれもラムダ公国から購入したものでそこまで高級なものではない。
領主の館として最低限度の体裁を整えられればいいという勇馬の意向によるものだ。
ソファーに座った二人の背後にはそれぞれの護衛が控えている。
勇馬の後ろにはアイリスとエクレールが、クライスの後ろにはラムダ公国の軍服を着た兵士の男一人が立っている。
勇馬はクライスから領主館の完成祝として置物を受け取った。
「クリスタル製の竜の置物だ。我が国の名工による逸品でどこに置いても恥ずかしくないものを持ってきたつもりだ」
「そうなのですか。なるほど、さすがに立派ですね」
勇馬は手渡されたばかりの竜の置物をしげしげと眺めた。
日本にいるときから芸術には疎いが素人目に見ても立派なものでありがたくこの応接室に置かせてもらうことにした。
「それで今日は他に同行者がいらっしゃるとか?」
「うむ、急で申し訳ないが先方たっての希望でな」
クライスの言う2人の同行者は今は別室で控えているという。
まずは本来のクライスの用向きをということで今はこの二人の会談を先に行ったという塩梅だ。
その目的も果たせたということで今度はその二人を交えて歓談することになった。
「おお、ユーマ殿久しいのぉ~。まさかいきなり領主になられるとは思ってもおらなんだわ」
最初に入ってきたのは獣王国で面識のあった猫人族の族長ナミルだ。
「こちらこそお久しぶりです。それは自分でも思っていませんでしたよ」
勇馬はにこやかにソファーから立ち上がってナミルを迎えた。
「今日はユーマ殿に会いたいという妾の友人を連れてきた。入ってもらっても構わんかの?」
「ええ、それは勿論」
勇馬がそう許可を出すとナミルが入ってきたばかり、そのまだ閉められていなかったドアの外から一人の女性が入ってきた。
「えっ……」
その言葉は勇馬が漏らしたものか、それともその背後に控えるアイリスが漏らしたものか。
ゆっくりと応接室に入ってきたのはきらめくように輝く長い金色の髪に日に当たったことがないのではないかと錯覚するような艶めかしい色白な肌の女性だった。そのうえ物語から飛び出してきたかのように錯覚するほどの完璧にまで整った容姿、そしてなによりも彼女の種族としての特徴をもっとも表すだろうその長い耳。
「はじめまして、突然の訪問失礼を致します。西のエルフの里にて女王をしておりますアルフィミアと申します」
薄い緑色を基調としたドレスを着ている彼女は優雅に腰を折って勇馬に頭を下げた。
「こちらこそはじめまして。この街の領主の柊勇馬です」
勇馬も慌てて頭を下げる。
勇馬は思ってもいなかった相手の登場に驚きを隠しきれない。
何とか2人にソファーに座るよう勧める。
クライスがゆったり3人座ることができるソファーの中央から端に寄って二人の女性を迎え入れた。
勇馬と向かい合うソファーの中央にはエルフの女王であるアルフィミア、その両隣にはナミルとクライスという顔が並ぶ。
そうして始まった懇談の席では差しさわりのない雑談が続いた。
アルフィミアからエルフの里は大陸各地にあって定期的にエルフ族の会議が開かれていること、そして今回その会議に出席して里に戻る途中であるという話を聞く。猫人族の族都は港街で今回の会議にはそこから船で行ったという話だった。
「ユーマ殿もいつか我が街にお越しくだされ」
「そうですね、いつか行ってみたいですね」
ナミルの言葉に勇馬が相づちを打ったところで予定の時間となった。
「ユーマ様、差支えなければ個別にお話したいことがございまして。可能でしたら人払いのうえでお時間をいただけませんでしょうか?」
アルフィミアが勇馬にそう切り出した。
「ええ、それは構いませんが……」
こうして勇馬は改めてエルフの女王と話をすることになった。




