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2 最初の街メルミド

 

 周囲の光が収まり、気が付くと勇馬は1人原野に佇んでいた。


 その手にはマジックペンが握られている。



「ははっ、ほんとかよ……」



 乾いた声が辺りに響くがそれに答える者はいない。


 時間はちょうどお昼を過ぎたころであり太陽が真上からやや傾き始めたところだ。


 幸い天気も良いため辺りを遠くまで見渡すことができる。


 勇馬の目の前には現代日本の都市部に住んでいてはなかなかお目にかかれない広大な原野が広がっていた。


「とりあえずはメルミドの街に行かないとな」


 勇馬は異世界の神の助言どおりに近くにあるはずのメルミドの街に向かうことにした。


 はるか遠くに見える城壁がメルミドの街のものだろうと推測してそこへと向かう。

 

 原野には一本の街道が走っている。

 

 とはいっても舗装されているわけではない。多くの人の往来により踏み固められて自然発生的に道になったに過ぎない。

 

「頼むから出ないでくれよ~」


 この世界には魔物や魔獣がはびこっており人々は城壁や柵、堀などを築いてその中で暮らしている。

 今勇馬がいるのはそれらの外であり、魔物や魔獣がいつ現れてもおかしくはない。

 勇馬は自分の置かれている状況の危うさを自然と理解することができた。これは異世界の神からの餞別による最低限度の常識によるものだ。

 勇馬の持つマジックペンはどう贔屓目に見ても直接的な戦闘には向いていない。



(今襲われたらひとたまりもないな)



 周囲を警戒しながら遠くに見えた城壁を目指して歩いて行く。


 30分ほど歩き、勇馬はようやくメルミドの街の入口にたどり着いた。


 城壁に囲まれたメルミドの街の出入口には大きな門が設置されており、複数の兵士たちが受付をしている。

 勇馬はほっとしながら街に入るためにできていた列に並んだ。

  


「武器を持っている者は武器を提示しろ。新たに街に入る者は入市税として1人500ゴルドだ」


 入口では鎧兜を身に着け槍を手に持った兵士が大きく声を張り上げている。

 ゴルドはこの大陸で使われている貨幣の単位である。


 銅貨1枚10ゴルド。

 銅貨10枚で大銅貨1枚100ゴルド。

 大銅貨10枚で銀貨1枚1000ゴルド。

 銀貨10枚で大銀貨1枚1万ゴルド。

 大銀貨10枚で金貨1枚10万ゴルド。

 それ以上は大金貨(100万ゴルド)、白金貨(1000万ゴルド)と続く。

 また、それぞれの貨幣にはその半分の価額となる半貨幣と呼ばれる穴あきの貨幣も使われている。

半銅貨は5ゴルド、半銀貨は500ゴルドといった具合だ。

 ちなみに銅貨の下は、屑鉄で作られた銭貨や豆貨といったものが適当に使われている。


 勇馬は税の支払として大銅貨5枚(500ゴルド)を兵士に支払った。


 神にもらった餞別は、大銅貨10枚、銀貨10枚、大銀貨3枚だったため早速大銅貨が5枚に減ってしまった。

  


「黒髪に黒目とは東の出身か?」


 入市税を支払うときに門番の兵士にそう声を掛けられた。


 この大陸からはるか東には別の大陸や島々があると言われており、その地域の出身者やその血筋の者には黒髪黒目の者が多いと言われている。

 勇馬に話し掛けた兵士はもとより、列に並んでいる一般人たちの中に黒髪に黒目の者はいない。

 しかしだからといってこの大陸に他にはいないというほどではなく、あくまでも少数派というだけの話である。幸いなことに特段差別や偏見の対象とはなっていない。


 勇馬は曖昧に「はあ」とだけ言ってごまかした。


 勇馬は黒髪黒目以外では、取り立てて目立つことはない格好をしている。

 服装は神の世界では寝巻だったはずだがこの世界に降り立ったときにはこの大陸の一般的な服装になっていた。

 綿製の長そでシャツに長ズボン、靴は革製だ。



「さて、まずは住むところをどうにかしないとな」

 

 この世界では家を持つか借りる以外に宿を転々とする者も少なからず存在する。

 冒険者や行商人が数多く存在するため必然的にそれらの需要を充たすだけの相当数の宿屋が存在している。

 ちなみにこの世界では、家を持たない一人身の者が平均的な生活をするのに1日だいたい2000ゴルドで生活できると言われている。

 

 神からもらった餞別の合計は4万1000ゴルド。

 入市税で500ゴルドを使ったため残り4万500ゴルドとはなったが20日程度は生活できる計算だ。


 勇馬は当面の拠点となる落ち着いて休める場所を探すことにした。


 今の手持ちでは到底住まいを借りることは望めない。

 そもそもこの街に逗留し続けるかどうかも未定である。

 とりあえずは宿をとることにした。



 勇馬は宿の場所を尋ねるため街の中を警邏けいらしていた兵士に声を掛けた。

 なるべく人当りのよさそうな、いかつくない兵士を探してのことだ。


「大部屋でもいいというのであれば安いところもあるが、個室となると中ランク以上の宿になるな。『宿り木』という宿がお勧めだ。建物自体そこまで新しくはないが設備には力を入れているし値段も手ごろで食事もいいと評判の店だ。この道をまっすぐ進んで、大時計のある時計塔を右に曲がれば右手側にあるぞ」


 親切な兵士がお勧めの宿を教えてくれたので勇馬は礼を言うと言われたとおりに歩いた。

 

 そうして、『宿り木』と書かれた看板を見つけることができた。

 勇馬が建物の中に入ると若い女性が受付をしていた。ショートカットのくすんだ赤色の髪をしていたその女性は勇馬に気付くと接客用の笑みを浮かべた。年齢は10代後半、日本でいえば高校生か大学生になったばかりぐらいだろうか。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」


「ああ……はい」


 自分とあまり歳が変わらない女性があまりにも堂々とかつ自然に接客してきたので勇馬は思わずどもってしまった。

 この世界では15歳で成人となるためこの若い女性も社会人経験はある程度積んでいるのだろう。


「素泊まりで1泊1000ゴルドです。朝晩の食事付にする場合は1食あたり100ゴルドの追加でご提供できます。ここはお昼には食堂をしていますので、昼食にもご利用いただけます」


「じゃあ今日の夕食と明日の朝食の2食付にしてください。明日以降も当面は宿泊する予定ですが食事についてはその都度ということでお願いします」


「かしこまりました。お代は1200ゴルドになります。お部屋は2階の203号室をご利用下さい」


 勇馬は銀貨1枚と大銅貨2枚を支払うと鍵を受け取り2階へと続く階段を上って部屋に入った。

 部屋にはベッドと一対の机と椅子があり、壁際にはクローゼットが置かれている。

 

 勇馬は見知らぬ世界であり勝手の知らない街に来たことの緊張が緩み部屋に入ると思わずベッドにダイブした。


 勇馬としては中世ヨーロッパ風の街ということで衛生面に不安を抱いていたが、ベッドに置かれているのは清潔そうな白いシーツに包まれた敷布団だ。

 綿製のかけ布団もあり、休むのに不足はなかった。



 意図せず来てしまった異世界での緊張が解け、勇馬はうとうととしてしまった。

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