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14 ギルドマスター


「強度1.3倍で軽減10%も付けてと」



 この日も勇馬は奴隷購入費用を稼ぐため朝から付与魔法ギルドに来ていた。


 50個目の武具に付与を終えて勇馬はいつも通り受付に報告に行く。


 いい加減、エリシアも勇馬の非常識さに慣れたらしく作業終了の報告を淡々と処理している。



 ちょうどそのとき2階から大柄の男が降りてきた。


「おっ! お前がトーマスの言っていた新入りだな?」


 冒険者と間違えそうないかつい体型のおっさんが2階から降りてきたのを見て勇馬は首を傾げる。



「……誰?」



 すかさずエリシアが勇馬に耳打ちする。


『あれがうちのギルドマスターです』





「俺はこの街の付与魔法ギルドのギルドマスターをやってるウォルグだ。トーマスからは仕事の早い期待の新人だって聞いてるぞ」


「初めまして柊勇馬ひいらぎゆうまです。よろしくお願いします」


 あいさつもそこそこにウォルグは先ほど勇馬が付与を終えたばかりの武具を手に取り改めて視始めた。


 ウォルグが勇馬の付与済みの防具に目を凝らす。


 ときおり、防具を持ち上げたり、手の甲で叩いたりしてその感触も確かめている。


「うん、付与がしっかりと掛かっている。そういえば、何か仕事をしたいと言っていたらしいじゃないか? 本当か?」


 ウォルグの疑問にエリシアは昨日勇馬が仕事をしたがっていたことを説明した。


「ははっ、こいつは頼もしいじゃねーか! わかった」


 ウォルグはニヤリと笑みを浮かべた。





「こっちは12週、そっちは8週だ。よろしく頼む!」


 ウォルグはエリシアとともに台車で勇馬の作業部屋に大量の武具を持ち込んだ。


 多くが鉄製であるが、銅や革製のものもそこそこ数がある。


 勇馬が受注した依頼は、いずれも強度1・5倍や重量軽減20%の上限付与の作業で有効期間が長いものだった。

 当然の様に二重付与のものも混じっている。


 勇馬としてはとにかく稼いで一日でも早く300万ゴルド(正確には手付金を除いた290万ゴルド)を貯めたいという思いだったため望むところであった。



 マジックペンを顕現させた勇馬はせっせと武具にペンで書きこんでいく。


 4つほど付与を終わらせ5つ目の付与にとりかかった。


「えーと、有効期間……あっ!」


 勇馬は「12」と書くべきところを「8」と誤って記載をしてしまった。



「まいったな~、書いたものを消すことはできるのかな?」



 勇馬は『メニュー』を表示させ、以前にも世話になったヘルプ機能を呼び出した。


「間違った文字を消すにはどうしたらいいですか?」


 勇馬がウィンドウに向かってそう話すと、回答が表示された。



『マジックペンの蓋をつけたまま書いた文字をなぞると消すことができます』



 勇馬はマジックペンに蓋をして誤記の部分に当てるとその部分はさっと消えて何もない状態となった。


「ふー、あせった。これで安心だな」


 勇馬は再びペンの蓋を外すと、作業を再開した。




 付与を終え、確認の鑑定を終えるとさすがの勇馬にも疲労の色が出てきた。



(とはいっても、重たい武具を作業台にあげたり降ろしたりといった力仕事に疲れたんだけどな)



 未だ魔力が減少したことによる不調や不具合を感じていない。

 そもそも魔力や魔法のない世界(現代日本)にいた勇馬にとっては魔力の欠乏がどのような状態を引き起こすことになるのかについてあまりぴんとはきていない。



(この世界の常識からすると、倦怠感けんたいかんが生じ、最終的には気絶するらしいけど、そういう徴候もまだないしなー)



 そんなことを考えながら勇馬はひたすらに作業をし続けた。


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