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13 5分で終わる簡単なお仕事です


「依頼内容は強度1・5倍、重量軽減20%で有効期間が12週間だったよな」



 勇馬はマジックペンを顕現させるとキャップを外し、鞘から抜かれて机の上に置かれた鉄の剣にペン先を当てようとしたところでふと思った。


 二重付与をする場合にどちらの効果も1週間を超える期間を設定する場合にはどう記載すればいいのだろうか。



(理屈で言えば『強度1・5倍(12)、重量軽減20%(12)』でいいのだろうけど……)



 大した手間ではないもののどうにもこうにも美しくない。


 今はまだこれでいいかもしれないが今後作業量が増えるとちょっとの差が最終的には大きな差につながりかねない。

 勇馬は何か参考になるものはないかと「メニュー」でウィンドウを呼び出し、使える機能がないかをみていく。


 すると、ウィンドウの右下『?』マークを見つけた。


 勇馬が『?』マークに視線をやると、「質問をどうぞ」と表示された。



「二重付与をする場合に共通の有効期間を設定する場合にどう書いたらいいですか?」



 すると、2つの間を『=』で結び、最後に指定する共通する有効期間を記載すればよいと記載されていた。


「ヘルプ先生ありがとう」


 勇馬はヘルプ機能に礼を言うと『強度1・5倍=重量軽減20%(12)』と書き込んだ。



(確認するか)



 勇馬は鑑定スキルを使い念のために確認する。



 ――鉄の剣【強度1・5倍(有効期間12週間)、重量軽減20%(有効期間12週間)】



「よし、じゃあ次は鎧だな!」



 鎧の次は盾と次々に付与を施し、結局瞬殺といっていい時間で作業は終わった。





「すみません。終わりました」


 勇馬は付与の終わった武具を台車に積んで受付にいたエリシアに声を掛けた。


「えっ! もうですか?」


 エリシアはこれまでのことから勇馬の仕事の速さは十分に分かっているつもりであった。しかし、今回受注した内容はこれまでのものとはレベルが違う。



「ちょ、ちょっとサブマスターを呼んできます!」



 そうして呼ばれたトーマスは勇馬の付与した武具を何度も慎重に確認する。


「……確かに依頼どおりの付与が施されている」


 トーマスの言葉にエリシアが息をのむ音がした。






「それでは報酬だ」


 本来の報酬の約半分とはいえ、結構な金額をわずか5分で得ることができた。


「他にも何か仕事がありましたらやりますけど?」

「……いや、今日はもうやってもらう仕事はないな」 

「そうですか、では今日は帰ります」


 勇馬は残念そうな表情を浮かべてそう告げると付与魔法ギルドから出て行きドアがばたんと閉められた。



「…………」


「…………」


 トーマスもエリシアもその場に無言で立ち尽くす。






 しばらく経ってようやくトーマスが口を開く。


「さすがにここまでとは私も予想できなかったよ」


 中級付与師にランクアップしたばかりの勇馬だがその実力はその中でもトップクラスと言っていいものだった。むしろそれ以上と言われても否定することはできないかもしれない。



「これはさすがにギルドマスターに報告しておいた方がいいだろうな」



 トーマスは王都に出張中だったギルドマスターの顔を思い浮かべながらそう口にした。


「確かギルドマスターはこの後10時30分(じゅうじはん)には来られる予定でしたよね?」


 エリシアの言葉にトーマスは軽く頷きを返した。






「で、そのユーマが付与したってのがこれか?」


 王都から帰還して久しぶりにメルミドの街の付与魔法ギルドに出てきたギルドマスターは自らの執務室(マスタールーム)でトーマスからの報告を受けた。その手には勇馬が付与した鉄の剣が握られている。


「確かにハイレベルの強化と重量軽減の二重付与で期間は12週間か。いい出来だな。このことを他の連中は?」

「私とエリシアだけしか知りません」

「ならばよし。このことはここだけの話にしとけ」


 トーマスは一礼するとマスタールームから静かに退出した。


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